仮に最終段落がなくとも、真夏の夜の淡い悲恋を描いた名短編として高評価は揺るぎないものになっていたでしょう。恐らく恋愛・ラブコメジャンルの中ではそうした作品も少なくないと思います。けれども、言葉の多義性を存分に活かしつつ、最後の最後でものの見事に世界の様相を一変させる手際はさすがの一言に尽きます。
騙りのカタルシス。化かし化かされて生きるのさ。世の中はどうやら有象無象の化かし合いで成り立っているようです。ならば、素直に狐に化かされるのもまた一興かと。エキノコックスだけは気をつけたいところですが……。
麻耶雄嵩フォロワーとしては、名前を持たぬ語り手を〈香月〉と呼んであげたい気分です!
祭りの賑やかな描写、狐の出てくる怪異がにじむ物語の設定、それに寄り添うような丁寧な文体。それらが合わさることで独特の世界が生まれ、あっというまに物語に入り込んでしまいます。そしてメインの二人のキャラクターのたたずまいが、とにかくいい感じです。
長さは短めの中編というところでしょうか。ゆったりと物語に身を任せているうちに終わってしまいますが、ラストの余韻がそれを心地よくしてくれるでしょう。
お手本のようなといえばそうなんでしょうが、それ以上に雰囲気のあるオリジナリティーの高い作品だと思いました。
みなさんもぜひご一読を。世界へと入り込める物語です。
短編で読みやすそうな恋愛小説。という事で早速読ませて頂きました。
主人公は、何処にでも居そうな普通の青年でしょうか?
彼が、何となくお祭りをブラブラしている所から始まります。
一人称。彼からの目線で語られるお祭りの風景描写。それが、まるで彼の目、耳、肌と私がリンクしている。そして、私が本当にその場にいてそのお祭りの空気を感じている。そのように感じる、自然な描写だと思いました。
彼の心も彼が語るのではなく、彼が見たお祭りの風景への感想から彼の心情を感じさせる。そんな風にも感じて、作者さんは文章書くのがとてもお上手な方だと思います。最初の冒頭部分でガッチリと物語に引き込まれ、そのタイミングで、彼女が現れます。偶然にであった彼女と彼は成り行きでデートをします。この短いデートの間、とても短い間なのに、二人を襲うドキドキの展開。
もう、私は胸キュンしっぱなしでした。そして、クライマックスの先!もしかしたら幸せな未来が見えているかも?
ロミオとジュリエットは悲恋の物語。だけど、『狐ノ嫁入リ』はきっとちがいます。
最後まで読んで私はそう思いました。
もしも読まれていないなら、是非読んで見てください。とても良い物語だと思いますから。
ちなみになんですけど、『魔法』を『まほう』と読まず、別の読み方をしている所があります。それは、この物語の彼女さんが言う台詞にあるんです。私、この物語で一番のお気に入りはその彼女さんの台詞です。なんかロマンチックです。
作者さん、素敵な時間をありがとうございました。