第13話 末端兵士の戦争

 橋本に紹介された小野井は、元帝国海軍一等飛行兵である、安岡剛士(91)の自宅に向かった。インターホンを押すと、姿勢の良い老人が又もそこにはいた。

「橋本さんから話は聞いている。」

 そう言うと、お茶を出して話始めた。

「君は若いのにもう少尉(三等海尉)なのか?立派なエリートだな(笑)。」

「いえいえ、そんな事はありません。」

「昔はなぁ、少尉と言ったら大学生か海軍兵学校を卒業した者しかなれなかったんだよ。たまに叩き上げの下士官や、兵隊上がりの凄腕ベテラン少尉がいたが、大学生から少尉になった人間は、特務士官と言って海軍兵学校を卒業した人間より下に見られたんだ。海大を出たスーパーエリートには、天地がひっくり返っても出世では勝てなかったさ。わしは、戦争が終わってから軍人を辞める事になったが、一生兵隊として下士官や士官に使われる気はなかったよ。とにかく軍隊という場所は、年齢より幅を効かせたのは階級なんだよ。ああ、すまんすまん。最下級の兵士の戯言じゃよ。わしは、徴兵で海軍に入った。操縦練習生過程、いわゆる操練出身でな。航空兵になれたんじゃよ。自慢する訳じゃないが、当時零戦に乗れるというのは、名誉な事で、競争率も半端なものではなかった。近年、特攻隊の事が世間に知られるようになってからも、わしはこう言い続けて来た。

「体当たり作戦以上に成果のあがる作戦を、日本海軍は産み出せなかった。」と。わしは、特攻要員ではあったが特攻隊員ではない。この違いは君が必要なら調べて欲しい。ご存じのように、体当たりに必要なのは敵を打ち落とす技術でも、坂井三郎中尉のようなアクロバチックな格闘センスでもない。敵対空砲の及ばない海面スレスレを飛行し、艦艇に爆弾抱えて突っ込む。ただそれだけ出来れば良い訳だ。難しい事は何もない。勘違いされる事もあるので断っておくが、特攻に出撃した機体全てが特攻を実行する訳ではない。直掩機と言って、特攻機を護衛する戦闘機がいて、この直掩機が戦果確認をする。特攻機も突入直前まで、打電しながら行く訳だが、直掩機からの情報の方が正確であろう。わしは、直掩任務にもついた事があるが、米軍の対空砲火に、護衛戦闘機と近接信管(VTヒューズ)を加えた三段構えで、突入に成功出来た機体の方が少なかった。直掩機として見ているこっちも、帰るのが精一杯であり、あの時は悲しみも何もあったものではなかった。まぁ、基地に帰ると悲しいんじゃがな。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

特攻花~special attack Flower~ @yamady

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る