第6話 真実としての特攻
米軍の開発した大戦時の航空機は、ついに無敵で終わる。P-51ムスタングや、ノースグラマンF6F、ボートシコルスキーF4Uコルセアなどの、後発戦闘機郡や、原爆開発であるマンハッタン計画に匹敵する開発費用をかけて、実戦導入されたという兵器に、小野井は着目する。その名を近接信管(マジックヒューズ又の名をVTヒューズ)という。砲弾の先に搭載された小型レーダーが、砲弾の周囲何十メートル以内に航空機を探知すると、その瞬間に信管が作動して、爆発するという代物であり、この兵器の登場により、多くのカミカゼ作戦参加機体は、餌食になった。ただ、この最新兵器にもウィークポイントはあった。海面をすれすれで飛行する特攻機に関しては、レーダーが反応せず、気付いていないながらも、被弾をかわすために、自ずと海面すれすれで飛んでくる特攻機に関しては、迎撃に苦労したようである。この兵器が最大の威力を発揮したのが、マリアナ沖海戦であり、日本海軍はこの海戦において、空母2隻と航空機300機以上を失い、米軍に引導を渡された。戦況が苦しくなった日本は、突き上げた拳の収め先を探す事になるのだが、この頃になると最早、戦果をあげる事が目的にはならず、本来あってはならない兵士を死なせる為だけに、特攻が行われていた。特攻の悲劇は、そこに尽きる。海軍や陸軍の面子を守る為に、若者が命を散らさねばならなかった。しかも、正常な判断力を有する軍隊であるならば、成功率0%、生還率0%の作戦は行わない。ところが、昭和の日本陸海軍は違っていた。国民に虚偽の大本営発表を繰り返し、末端兵士や将兵にも、今に勝つ!と嘘をつき続けた。この臣民に対する最大の裏切りこそが、日本敗戦の最重要ファクターである。と、小野井は思った。戦後に整備され、シビリアンコントロールが徹底された現在の自衛隊にあって、国民の生命と財産を守る為にある戦闘機や艦船を、隊の面子の為に犠牲にする事はあり得ない。倫理的な問題もさることながら、現在の法体系において、特攻が実施される余地はない。それは確かに戦前の反省と内省の賜物なのかもしれない。それでも、小野井は思う。特攻で散って行った経緯はどうであれ、恐らくは特攻に殉じた人間達には、汚れ無き愛国心と、家族や愛する者の日常を守りたい。そんな一念だけで、飛んで行ったに違いはない。そうでなければ、恐らくは敵艦船に突入せず、逃げ出すはずである。小野井は、ただリサーチするだけでは駄目だ。一人一人とはいかずも、特攻に行った人の気持ちをイマジネーション出来なければ、このレポートが大学生のレポートで終わってしまう。調べていくうちに、そんな感情が芽生えていた。米国が憎いとは思えない世代だが、せめてなぜ日本と米国が戦う羽目になったのかという事に関しても、調べる必要があった…。
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