第8話 それぞれに想う 故に我あり

 ある日、小野井は年長の部下である山井曹長と食事に出かけた。小野井の7歳年上で、30歳の山井曹長は、小野井の善き理解者であった。

「今、この鹿屋について調べているんですが、なんとも辛い気持ちですよ…。」

「俺も、新人の頃やらされたよ。まぁ、ここでは、新人の登竜門で慣習だな…。」

「どうでしたか?その時の終わった時の手応えみたいなやつは?」

「手応えも何も、中学や高校の歴史で習うような、調べものの延長みたいなもんだよな。」

「そんなものですかね?ちょこっと昔を知ったから、センチメンタルになっているんでしょうか…。」

「人それぞれ受け止め方は違う。だから、小野井君の好きなように、やればいいんじゃないかな?」

「何だか胸が苦しくて…。70年以上前の話ですが、どこか他人事に感じられなくて…。」

「歴史は過去だ。知らないよりは知っておくべきだろう。でも、ただそれだけの事さ。」

「どういう事ですか?」

「単なる事実に過ぎないって事さ。」

「そこに感情移入させてしまうから、話がややこしくなってしまうんだよ…。」

「政治の世界もまさしくそうですもんね。勉強になります。」

「部下に教わるなんて絵にならないな笑。」

「山井曹長には敵いませんよ。全く。でも、自分頑張ります!」

「あまり期待しないで、完成するのを気長に待つとするかな笑。」

「藪から棒になんですが、山井曹長は、もし特攻に行けと命令されたら、どうします?」

「それが、上からのお達しなら、行くしかないと思うよ。命令には、絶対逆らえないから。確率は0じゃないだろうに…。」

「十死零生の作戦だとしてもですか?」

「軍人にとって、上官からの命令は、朕の命令と同じだからな。お前も、そのうちそういう時が来るかもしれんな…。」

「最も、現状の自衛隊において、それは不可能な事ではありますが…。」

「だろうな…。それに、今の戦闘機や航空機は、貴重な税金を大量投入しないと買えないから、折角手塩にかけて育ててきたパイロットや、戦闘機を失いたくはないだろう…。」

「昔は、徴兵制もありましたから、代わりはいくらでもいました…。」

「搭乗員は消耗品。整備兵は備品。なんて理屈が、当たり前に言われていた時代だからな。」

「人命軽視も、ここまでいくと見事です。」

「逆に小野井君はどうなんだ?命令とあればよろこんでいけるのか?」

「指揮官率先垂範の帝国海軍ですから、行っていたかもしれませんね…。」

「多分、現役の自衛官も、殆どそう言うなぁ…。どんな作戦でもやり遂げる力はあるさ。」

「それが仕事ですからね。それが出来ないなら、自衛官を止めるしかありません…。」

「俺が思うに、昔の帝国海軍も、そういうきらいがあったんだと思うな…。」

「何を言っても、その時代を生きてはいないので、過去を想像するしかありませんが…。」

「歴史は繰り返さない事が重要なんよ…。」

「そうですね。やれるだけやって結果を出してみます…。うし!」

「まぁ、そんな事はおいておこう。今日は久しぶりに、外で飲めるんだ。ゆっくり飲もうじゃないか?夜は長いんだから…。」

 この日は、翌日が土曜であった為、その後深夜まで、飲み明かした二人であった…。

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