第9話 悪魔の化身ゼロファイター

 当たればデカイが外したらしょうがない。小野井は特攻に対して、そのような認識をしていた。だが、調べていくと想像以上に、特攻作戦の失敗率が高いことが明らかになる。5機出撃して1機が成功するか否か。それが現実だった。小野井は、もう少し深くこの不条理な現実を掘り下げて調べた。そもそも特攻が、大戦末期における日本軍全体の緒作戦よりも、成功率が高い部類に入るから、その点だけを見れば、愚策とは言えないのかもしれない。だからと言って、特攻作戦を肯定的に捉えることは、小野井にはどうしても出来なかった。そこには、現役の海自士官としてのプライドがあったからに他ならない。若くして部下を沢山持つことの大変さをしるだけに、簡単に部下を、十死零生必死の作戦に投入した帝国海軍が許せなかった。現代に生きる小野井が、そんな事に目くじらを立てても仕方のない事であるが、こうやって特攻について調べれば調べただけ、感情移入してくるのは、どうしても仕方のない事ではあった。戦後と言われて久しいが、70年近くも前になろうかという戦争は、明らかに歴史の一ページでしかない。戦争体験者は既に高齢で、風化は不可避である。戦争を直接は知らないが、だからこそ何かを考えなくてはいけない。何かを残すことが、風化しても再び戦争に突入しても、愚かな作戦を実行しない抑止力になりうると考えた。どういう形になるかは分からないが、後世の為に何か残せるものがあるはず。そう思うようになっていた。もちろん、その作業は、仕事の合間にやることになる。国防という重要な任務につきながら、遊びたい衝動を抑えて、未来の為にアクションを残す。簡単ではない。若いから多少の無理は出来るのかもしれないし、上司に試されているのも、分かってはいた。普通であれば調べて終わり。そのような常高な使命感は沸き上がらない。小野井を突き動かしていたのは、亡くなった祖父の影響力もあった。すでに他界してしまったが、小野井の祖父もまた帝国海軍軍人であり、戦闘機乗りであった。当時の零戦乗りは、欧米からゼロファイターと呼ばれ畏敬の念を抱かせたという。ゼロファイターは、縦横無尽に戦場を駆け巡った。向かうところに敵はなく、アメリカ海軍航空隊が、零戦を攻略するのには、ある程度の時間がかかった。第二次世界大戦が予想外に長期間になりえたのは、ナチスドイツの最強戦車ティーガー(タイガー)によるものではなく、日本の零戦部隊攻略に時間を要したから、とも言われている。命を投げだしてまで、果敢に爆弾もろとも突っ込んで来るゼロファイターは、欧米人から見れば理解不能の悪魔の化身であったのだ…。

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