臙脂色の想い、桜の花びらが舞う淡い薫りとともに

嗅覚、つまり"におい"は人の記憶をもっとも呼び覚ますと言われています。
それによって思い出す光景は人それぞれだと思います。

図書館にある本のにおい、桜の花びらのにおい、好きだった人のにおい…。
最後のは人によっては少しきみ悪がられるかもしれません。

さて、筆者様の作品を過去の作品から一部を除いて順番に読ませて頂いる私ですが、物語の中からは"におい"を感じる仕上がりになっており、一つの逸話を中心に複数話を短編集として描かれているのを初めてお見受けした作品となります。

各話には"大切な人の気持ちに気付く"ところまでが共通して描かれており、それまでの背景や主人公の想いを丁寧に描かれているので、短編であっても一話ごとに読み終えた後、ずっしりと心に響くものがあります。

個々のお話について、先入観が入るのは避けたいのでこちらで述べる事はしません。

概要だけになりますが、
この物語の舞台は、過疎化が進む地方の小さな街にある公民館の中に、昔からあるけれど古びる事なくちゃんと綺麗に保たれている図書館と、その管理を任される老婦人がキーパーソンとなっています。

こちらの図書館には都市伝説のように語り継がれる恋に纏わる臙脂色の本があります。
それは、本を手にした人の思いを伝えてくれるというものです。

登場人物たちは、そこに生まれ育ったにせよ、外から来たにせよ、
その街で様々な人生を営む人たちの優しくも強い大切な人への想いという恋慕が、
まるで桜の花びらがハラハラと可憐に舞い散る姿を彷彿とさせるように儚い瞬間を切り取って描かれている珠玉の短編集となっております。

日々忙しく生きている中で、
共に過ごすパートナーや家族についてだったり、
過去に忘れられない大切な想い人がいる方なども、
ぜひ一度お立ち寄り頂き、
大切な時間をその人と過ごした事に改めて"気付き"、今ここにある有り難さに"気付き"、
過去を受け止めて清算して、
前向きに生きていけるための充電をされてみてはいかがでしょうか。

出来るならその時間に、淹れたての芳しいお茶を添えて。

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