恋文

新樫 樹

小さな図書館

 なだらかに続く坂道の途中に公民館はひっそりとある。

 白い、小さく切ったカステラのような形。

 松林の深い緑を背景に凛と涼しげだ。

 三十年ほど前に建てられたはずだったが、白亜の外壁は美しい。

 町の中心地が移り変わり、そこに新しい公民館ができて。

 取り壊されると噂されていたけれど、数年たった今でも静かにたちつづけている。

 


 その公民館の中に、図書館がある。

 古い木製の手入れの行き届いた本棚。

 丁寧に修理されたあとの残る本たちが、きれいに背表紙をそろえて並んでいる。

 いつのころからか、カウンターには白髪の老婦人がひとりいるばかり。

 あれは魔法使いのおばあさんで、魔法で本の整理や掃除をしている。

 そんなことを、小学生たちはまことしやかに噂し合っていた。



 噂話はもうひとつ。

 図書館にある、一冊の本にまつわるお話。

 その本の最後のページは、恋文になるという。

 どんなに離れていても。

 どんな相手にでも。

 本を手にしたものの思いを伝えてくれる。

 一番奥の本棚の、最下段。左隅。

 臙脂色の表紙の本。

 背には読めないくらいにかすれている、金の文字。

 ざらりとした感触の表紙を開けば、薄茶に染まった扉が続く。


 「 きみへ 」     レットル・ダムール


 本の噂は町を優しく静かに漂っている。

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