第二話 陽炎の翼 その6
「だから・・、なんでこうなる?」
俺は不服を隠さずに顔に出し、不機嫌に言葉を吐いた。
「なにって、嬉しいだろ。天使の料理だ。どこのレストランに行っても絶対に食べることができない。運がいいな、達弘」
マヌエラの言葉にため息をつきながら、俺は腹が減っていたので仕方なく、仕方なくだ!テーブルにある調理された料理を口に運んだ。
「・・あのな。食ったら帰れよ」
「いいか茜達弘。お前はクリスと同じ食卓にいるのだ。少しは喜んだらどうだ。それに、食材だってこの天使とクリスが一緒にスーパーに行って食材を買ってきたのだ。わざわざな。冷蔵庫が空っぽだったからな」
シロは高慢な態度を表すように片方の翼をバサバサと羽ばたかせた。
「まあ、夕食を作ってくれたのは百歩譲って良しとしよう。感謝は別にしてな。だが、勝手に人のうちに入るのはどうなんだ?というかどうやって入った。鍵はちゃんと閉めていたはずだ」
「合鍵なら私が持っている」
親指を立てながらマヌエラは満面の笑みで言った。
「おかしいよねえ、絶対おかしいよねえ。ったく、これうまいな」
俺はぶつぶつと文句を言いながら食事をたいらげた。
そして食後のお茶をすすりながら言った。
「とにかくだ。夕食、ごちそうさまだ。ありがとう、さようなら。お休みなさい」
俺は大げさにボディーランゲージを加えながら言った。
「では達弘様、私はお風呂にしますね」
銀の仮面で慎ましく、クリスは言った。
「おかしいよねクリス。絶対おかしいよね。普通に、自然に、流れをこうもっていってもさ。おかしいよね。自分の、家で、お風呂に、入ってください、お願いします。ありがとうございました」
俺はクリスに指をさして言うと、なぜか最後にはお礼を言っていた。
「達弘様。おかしなことをおっしゃいますね。私の家はここですよ」
冗談がお上手なんだから~と俺が勝手に心の中で付け加えながらクリスの言葉を聞いた。
「どういうことだ。あんたの家はここじゃない。俺の・・茜達弘の記憶が正しいなら、クリスとは今日が初対面だし、もちろんこの家でも会ったことがない」
俺は頭を抱えながら言った。
「マヌエラ様。言ってなかったのですか」
クリスはマヌエラに尋ねる。
「そういえば言ってなかったか。ゆるせ達弘」
マヌエラは言うと笑ってごまかした。
「もういい・・、勝手にしろ。もう知らん。俺は寝る」
俺は二匹と一匹の説得をあきらめてはなかったが、余りにも理不尽な行為にどう対処していいかわからず、今日はひとまず投了することにした。
二階の自分の部屋に素早く移動するとそのままベッドにダイブし、俺は眠りへとついた。
チクチクするのだ。
頭がチクチクする。
俺は目を開けると、頭の近くでシロがだらしない恰好で寝ていた。
機械の鳩も寝るんだなと俺はどうでもいい知識をみにつけると、壁の時計を見た。
「深夜の2時かよ。変な時間に起きちゃったな」
俺は大きくあくびをすると、一階へと降りトイレに行って用をすますとまた自室に戻ろうとした。
しかし、リビングの扉が中途半端に開いていたので覗いてみると、金髪の少女が月明かりに照らされた窓ガラスに手を置き、月を眺めていた。
「クリス・・なのか?」
俺は言うと、その少女は振り向いたが、その美しい姿に思わずドキッとした。
「達弘様、起きてしまわれたのですか」
「ああ、シロにな。まあそれはどうでもいいんだが、その、仮面を脱いでも平気なのか?」
仮面を脱いだクリス・ヴァレリアスは、やはり気品に満ちた美しい顔立ちだった。
「ええ、夜は月の時間。私たちの時間ですから。太陽の光に弱く、呼吸もしにくいのですが、夜は平気なのです」
「そう・・なのか」
はいっと笑顔で答えるクリスはとても可愛らしかった。
「あの、達弘様。申し訳ありませんでした」
「なにを謝る?」
「急に押しかけてしまいましたでしょう。本当は事前に言っておきたかったのですが、タイミングを逃してしまって」
「ああ、変な先輩に襲われたしな」
「傷は大丈夫ですか」
「もう平気さ」
「そうですか・・良かった」
何か照れたので俺は誤魔化すようにハハハと笑ってしまった。
「しかし、何でこの家に来たんだ。それを聞いてなかった」
「それは・・あなたの祭司となるからです」
「祭司に?なぜ?」
「マヌエラ様の計らいです」
「あの野郎、勝手な真似を。にしたって同じ家に住むことはないだろう」
「私が住む家はこの都市ではないのです。ずっと遠い場所。なのでマヌエラ様がついでに一緒に住めばよいと」
「あんたはそれでいいのか?知らない奴と一緒に住むことになるんだぞ」
「私は貴族の出です。生まれ持った祭司の才能を生かすには稀ですが、こういう事例は少なからずあるのです。ですので、私は自分の使命を果たしに、達弘様に会いに来たのです」
決心にあふれた思いがクリスの顔に出ていた。
「使命とはなんだ?」
「達弘様が神事を滞りなく行うことを手助けすることでございます」
「そうか・・とりあえずマヌエラをしばくことは決まった」
「どういうことです?」
「こっちの事だ。俺はもう寝るよ。君も、明日も学校に行くんだろう?なら、早く寝た方がいい」
俺は言うと自分の部屋に戻り、シロを床に放り出すとベッドに入った。
自分の知らない所で、色々な事が動いている。自分はそれに巻き込まれているだけだ。自分は弱いと火矢根凛にさんざん思い知らされた。神事をこれからも無事行うことが自分にはできるのだろうか。不安を残しながらも、俺は眠りについた。
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