第二話 陽炎の翼  その2



「おいヨワムシ」

「なんだ?何言ってんの?」

 俺は授業中急に後ろから声を掛けられ、思わず後ろを振り返り口に出す。

 クラスメートの男が俺の反応に驚いたようにギョッとする。

 意味が分からん。

 首をかしげながら俺は姿勢を正した。


 女教師がこちらの様子をうかがっていたが、俺がすいませんを表すペコリと顔を少し下げると何事もなかったように授業を続けだした。


「我々は巨大なビルの周りに都市を築き、発展してきた。天使機構と呼ばれる神の使者達が人類を助け、時には導いてきた。彼らなしでは今の発展はないだろう。ゆえに、人は神に戦いの儀式、神事を行い、その行いを供物として捧げるのだ」

 なるほどなあっと俺は昨日マヌエラに聞いた事を思い出しながらノートをとった。


 ふと隣の席を見る。


 クリス・ヴァレリアスが優雅にノートをとっている。しかし服装が豪華すぎるだろ。マントだぞマント。それも普通のマントではなく片方の肩だけにかかった細長いマントだ。それに何で剣!?腰に細剣を差している意味が分からない。そして一番インパクトがあるのは顔の前面を隠している銀色の仮面だ。目や口元がまったく見えない。何も装飾が施されておらず綺麗な曲線を帯びているだけなのだ。仮面の端々には模様が施されていてとても美しくもあり、そして、どこか恐ろしくもある。


 俺が見とれていると、クリスの仮面が動き、目が合ったきがして目線を教師に動かした。本当は仮面で目線などわからないのだが。


 しかし、さっきから何か後ろ髪の方が気になるのだ。何か当たっているような。気になって後ろ髪を触るが何もない。

 俺は気のせいかと思い、教師が黒板に書いた文字をノートに写していたがまたしても髪の後ろが何か当たっているような気がする。後ろ髪を触り、何か手ごたえを感じそれ掴んで目の前にそれをさらけ出した。

 それは消しゴムのカスだった。

 俺は後ろを振り返る。

 ニヤニヤしながら男が笑っている。


 顔だけでなく、完全に体を後ろの方向に動かし、椅子も斜めに動かす。

「お前さっきから何なんだ。何か俺に恨みでもあるのか」

「おいおい、もぬけの殻が反応するなんて。お前、本当にもぬけの殻か?」

「もぬけの殻?なんだそりゃ。とにかく、くだらない事するんじゃねえぞ」

「くだらねえ?っは、くだらねえだと。もぬけの殻がよ!ぬかしてんじゃねえぞ!」


「そこの二人。喧嘩をするなら教室を出てやりなさい。あら、鳩が丁度来たわね」

 教師が冷静に言った。

「なんだこの機械」

 ロボットの鳩がいつの間にか窓に止まっていた。

「言ったでしょ、廊下に出てやりなさい。茜達弘君、三堂信君。二人ともミコなのだから」

 教師の言葉に教室中がざわめき、俺をにらみつけている三堂信(みどうしん)も驚いた口調で言った。

「お前がミコ!?冗談だろ」

「んなこたあどうでもいい。廊下に出ようぜ。三堂さんよ」

 俺は吐き捨てると、廊下に出た。続いて三堂信もついてくる。


 なぜかはわからないがさっきから怒りが治まらない。まるで俺が三堂信に恨みがあるみたいだ。しかし、そんなことはどうでもよかった。朝方からモヤモヤしていたこのうっぷんをついでに晴らそうじゃないか。

 俺と三堂信は対峙する。

 鳩が鳴きながら廊下の窓を器用に開けるとそこに飛び移る。その目は赤く光っている。

「ミコたちよ。演武を始めろ」

「鳩が喋った!?」

 俺は素っ頓狂な声を出しながら丁度三堂信と対峙している真ん中辺りの窓に降り立つ喋った鳩をまじまじとみた。その様子に廊下側に集まったクラスメート達が顔を見合わせた。まるで当たり前のことを今更驚く必要があるのかと言うような反応だった。

「そうか、ロボットなんだから喋っても不思議じゃないのか」

 俺は一人、納得するように言った。

「何ぶつぶつ言ってやがる。さっさとボコボコにしてやるよ!」

 三堂信は言うと黒い指輪を人差し指にはめた。すると、熱を帯びるように赤く光る。

「俺様の祭器はこの黒い指輪!この指輪によって俺様のパワーは何倍にも強くなる。車だって片手で持てるぜ!このもぬけの殻野郎!俺様を怒らしたこと、万死に値する!よって、死を持って償え!さあ覚悟しな。俺様を恐怖しろ!さあ行くぞ、この雑魚ヴぇガ!」

 三堂信の話が長いので、俺はさっさと羽のワッペンを出して蹴りを顔にお見舞いした。

「悪い、話長いんだわ」

 俺の手からワッペンが砂となって消え、後ろで銀の槍が落雷が落ちたように現れる。

 声にならない声を発すると、三堂信はゆっくりと倒れた。あっけない幕切れだった。倒れたまま、気絶したようだった。

 鳩は一声鳴くと、男の声のような、女の声のような声質で頭に響くように喋る。

「勝負あったな。勝者は茜達弘。演武は終わりだ」

 鳩はそれだけ言い残すと、校舎から飛び立っていった。



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