第二話 陽炎の翼  その4


 クリス・ヴァレリアスと別れた後、屋上の入り口から校内に入って階段を下りた。

 3階にたどり着く。確か2年の教室がメインにある階だったか。

 俺はそのまま2階に降りようとした所で呼び止められた。後になって思えば、無視して降りればよかったと後悔する。

「待て」

 俺は後ろを振り向いた。

 3階の廊下には誰もいない。一人を除いては。

 女が立っていた。それ自体は普通だ。ある一つを除いては。それは彼女もクリス・ヴァレリアスと同じで腰に剣を携えていた。よく見ると刀のような鞘の形状をしていた。

「貴様、茜達弘だな」

「違います」

 俺は悪い予感がしたので嘘をついたが女は引き下がらない。

 女は腰に下げている刀に手を移動させる。

「では確かめよう。御免」

 それは一瞬だった。

 刀を抜いた女が俺に切りつけ、寸前の所で銀の槍を呼び起こし、両手をクロスして防いだ。

「クソ!何しやがる!?」

 俺は言うと女と距離をとるように階段側から廊下側に素早く動く。

「ご丁寧に鳩まで嫌がるのか」

 俺は吐き捨てて窓のレール部分にいる機械仕掛けの鳩を見た。さきほど屋上にいたシロとは違い、目の部分であるレンズの色は青かった。

「シロじゃないのか・・。くそ、おい!何のつもりだ!」

「名乗っておこう。私は風紀委員長を務めさせてもらっている火矢根凛(かやねりん)と言うものだ。覚えておくがいい」

「風紀委員長様が、俺に何の用だ」

「少し、釘を刺しておこうと思ってな。世の中、そう甘いものではない。目を付けられる前に、自らの強さを知ってもらう」

「ようは俺と戦いてえんだろ!容赦はしねえぞ!」

 俺は突き刺さった銀の槍から朽ち果てる塵を自分の体の周りに集める。

 火矢根凛は表情一つ変えずに言う。

「回転斬り」

 火矢根は大きくジャンプし、体をひねって自らの体を何回も回転させて俺の方に向けて刃を放つ。

 俺は塵を集めて受け止めようとするが、その勢いに負けて後方に吹っ飛ばされる。

 何事かと教室にいる生徒たちが廊下を出ようとするが、同時に鳩の青い目が光り、そのドアはビクともしない。

 背中の痛みに耐えながら何とか起き上がる。

「てめえ・・、どうなっても知らねえぞ」

 俺は左腕に大量の塵を集める。

「いくぞ!塵の手だ!」

 俺は腕を上げると何倍もの大きさのある銀色の手が現れ、そして火矢根に思いっきり振り下ろす。

 ガキーン!!っと金属同士がぶつかり合う音が廊下に鳴り響く。

「嘘だろ、受け止めやがった」

「面白い攻撃だ。だが、甘い。伝説の銀の武器が、お前だけの物とは思うな」

 火矢根は言うと塵の手を刀で振り払い、急速にこちらと距離を縮めてくる。俺は塵の手を構築していた塵を解放し、自分の周りに急いで集める。

 刹那、目の前に火矢根がたどり着き、風圧が体中を通り過ぎる。

「耐えて見せろ」

 言うと火矢根は刀を構えなおし、両足を床にすり合わせる。

 そして、眼光が光るくらいにこちらを睨みつけると、一切り一切りを丁寧に溜めて連続で切り込んでくる。

「っつ!く・・そ・・があ!」

 俺は何とか反撃に転じようとしたが、重い連続の一撃に塵の盾で防御するのがやっとでとてもそれ以外の行動ができる余裕がなかった。

 背中に硬い物が当たる。壁だ。これ以上は防ぎきれない。

 俺は火矢根の横に塵の床を作るとそこに足をかけて思いっきりジャンプする。そして、天井に頭が当たる寸前で手で天井部分を押して火矢根と距離を大きくとった。

「小賢しいマネを」

 後ろを振り返り、火矢根凛は俺に言い放つ。

 肩で大きくゼーゼーと息をしながら俺は大きな声を出す。

「もう、どうなっても知らねえぞ!」

 俺は言うと、後ろにあった突き刺さった銀の槍を抜く。そして、大きく構える。

「これが・・俺の!最強の一撃だああ!!」

 俺は叫び、銀の槍を薙ぎ払う。

 火矢根は刀を縦に持ち、刀を持っていない方の手はそっと刃に触れる。

「銀式テッコウ」

 火矢根の目の前で、銀の槍で薙ぎ払われた衝撃波がその軌跡と共に廊下が横一線に吹っ飛ぶ。窓やコンクリートが吹っ飛ぶ中、衝撃が火矢根を襲うが、その刀が衝撃に耐え、その後ろにある教室を守る格好になる。

 大きく深呼吸すると、火矢根は刀を鞘に戻す。

「ばかな・・あの化け物を倒した一撃に耐えたなんて」

「身の程を知れ」

 項垂れる俺に向け、体を深く落として向けると、その手は銀の柄を握る。

「わが刃に」

 火矢根はつぶやく。

 すると一陣の風が起こり、俺の横を通り過ぎた。

 目の前にいた火矢根凛の存在が消え、後ろから声が聞こえる。

「切れぬモノなし」

 俺の体から大きな血しぶきが噴き出すと、そのまま倒れ、気を失った。

 

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