第二話 陽炎の翼  その5



 最初に俺は泣いて、抱き寄せられて温かさを知ったと思ったら冷たい容器に入れられて。冷たいケーブルにつながれて、周りの白い人間が回っていて。そして、また抱き寄せられて、暖かさは最初だけで骨みたいに硬くなったベッドでずっと寝ることになった。そして、気が付いたらあの宇宙も貫く天空ビルにいたんだ。


 白い天井が目の前にあった。俺はゆっくりと上半身を起こすと、白いカーテンに囲まれたベッドにいた。

「ここは・・?」

 俺は思わずつぶやいた。

 そう、たしか俺は・・、あの火矢根凛って女に銀の刀で切られて・・そのまま気を失ってしまったのだ。ここは保健室か?誰かが運んでくれたのだろうか。体中が・・痛くない?その変わり何か気持ちの悪い吐き気があった。上半身を手で触ってみるが傷跡はなかった。

 俺はベッドから身を下ろすと、カーテンを開けた。

 保健室のガラスから夕陽の光がこぼれていた。

 時計を探して見つけると、その針は4時30分を指していた。どうやら、保健室に担ぎ込まれた後、4時間近く寝ていたらしい。

 俺は保健室の窓に近づき、外を見た。部活動をしている野球部やテニス部に、体育館も見え、何かの掛け声や足音が微かに聞こえていた。

 ドアの開く音が聞こえ、後ろを振り返ると白衣を着た女が入ってきた。

「茜君だったかな。もう大丈夫なの」

「保険の先生ですか」

「スクールカウンセラーでもあるわよ。何か悩みがあるなら言ってね」

「特にないです」

「まあ、悩みはない方がいいわよね」

「一つ聞いていいですか先生」

「いいわよ」

「自分が自分じゃないと思ったことありますか?」

「変わった質問ね。あなたは、自分が自分じゃないと感じた事があるの?」

「あります」

「そう、でも。あなたはあなたよ。誰でもない自分自身」

「もし、俺が茜達弘じゃなかったら?」

「じゃあ、今のあなたは誰?本当の茜君はどこに行ったのかしら」

「わかりません」

「いずれにせよ、あなたは茜達弘よ」

「そうですか、ありがとうございました」

「どういたしまして」

 俺は礼を言うと保健室を出た。

 一つ深呼吸をした。

 そして、校舎を出て家路へと着いた。

 橋を渡り、河川敷の土手を通る。昨日、森島和人と他に男女が数人いて俺をボコボコにしやがった場所だ。そこでマヌエラとも会ったんだ。天使とか言うわけのわからん存在。笑えるね。そういえば、森島一味の中に三堂信もいたな。今気づいたが、復讐できてよかったと俺は思った。だが、なぜかそれについては笑えなかった。

 俺は自分の家の玄関にたどり着く。

 自分の家を見て、急いで玄関に入った。勝手に電気がついてる。何でだ。泥棒か!?

 俺は家のリビングに行くと、二人と一匹がくつろいでいるのが目に入った。

 一人の女が言う。

「お邪魔しているぞ」マヌエラだ。こいつ・・。

「昼過ぎの演武。大丈夫でしたか?」こいつはクリス・ヴァレリアス・・。なんで家にいるんだ?

「クリス、こんな奴の心配などしなくていい。それに、神の加護がある戦いはそうそう死人は出ないし、その場にいる鳩か天使が傷を治療してくれるしな」そしてこのくそ鳩。

「色々言いたいことがあるが・・、とりあえずお前ら全員出ていけえ!!」

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