幻想領域のバベル
旋律 雲海
第一話 蜃気楼
第一話 蜃気楼 その1
「おいヨワムシ」
勢いよくかけ乱れる声が後ろから耳に衝突した。
教室の窓際の最前列で座っていたので誰が発したのかはわからなかったが、気にしない様なそぶりで俺は気持ちの良い風が入ってくる窓の外を眺めた。奇妙なくらい快晴の空に軽い立ちくらみを覚える。
「お静かに」少し目じりにしわを覗かせながらもエネルギーに満ちた威厳ある声で女教師は俺の後ろの誰かに注意した。先生はわずかにこちらに視線をくべると歴史の教科書に目線を戻した。「我々は巨大なビルの周りに都市を築き、発展してきた」数え切れないほど口にしたであろう話を耳で受け流し、俺は再び窓に目を移した。
天を貫き、その先は青に溶けて見えず、計り知れない巨大で無骨な一つのビルを中心に、その頂を求め群がるように競った大きなビルが連なるが、中心にある荒唐無稽な大きさを誇る天空ビルと呼ばれる建造物には到底及んでいなかった。
キーンコーンカーンコーンという放送アナウンスが流れると授業は終わり、一時間の昼休みに入った。
俺は廊下に出て別館にある食堂に向かった。向かう途中で消しゴムのカスが髪にかかり、それを手で振り落とした。食堂に入り、調理員にうどんを注文して受け取ったカートとそれに乗せられたうどんを持って空席に座った。手を合わせいただきますと小さくつぶやき、白い麺を口に運んだ。
目の前が突然真っ暗になった。顔の表面が急激に熱くなり、息もできない。
嘲笑の音を聞きながら、俺は先ほどまで食べていた白い麺とつゆから顔を放すと、薄眼から笑いながら立ち去る集団が見えた。
俺はポケットからハンカチを出すと顔を拭い、食堂を出た。
食堂を出る時にひそひそと話す声が聞こえた。
「あいつ一年の茜達弘だよな」
自分の名前を封じ込めるように食堂の扉を閉めると、空を見上げようとしたがその視線は地面を這っていた。
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