2

(おいしいっ!)


 すぐに箸を伸ばしただし巻き卵は、しっかりとだしの味がきいていて美味しかった。

 こんなご飯が毎日食べられるなら、ここに来てよかったなと一瞬でも思ってしまうから美味しい料理とは偉大だ。


 ぱあああと一口ごとに顔を輝かせるひなこに、舌にあったことを知った史月が肩を揺らして密やかに笑った。

 そして。


「ん」

「おかわり?」

「ああ」

「はいはいっと」


 史月はよく食べた。今はまだ2回目のおかわりであるが、これが5回続くことをひなこはまだ知らない。それにしても、結構山盛りでよそっているにもかかわらずよく食べるなとひなこはじっと史月を見つめた。


 あんなにきっちりと帯を締めているくせに、苦しくならないのだろうかと考えているひなこはまだ、一口をかみしめるようにだし巻き卵しか食べていない。


 大食いのくせに早食い。あっという間に消えていく小皿に乗った料理たちに、ひなこもあわてて手を付け始めた。


「美味しいな」

「そうか、普通だ」

「これやから・・・ふみは贅沢さんやねぇ」

「思ってたんだが」

「ん?」


 にこにこ嬉しそうにわさび醤油につけた刺身を頬張るひなこ。こくんと飲み込み味の感想を言うと、不思議そうに史月は首を傾げた。それからひなこをまっすぐに見つめながら、1回箸をおいた。


 もう1つと口に含んだだし巻き卵を咀嚼しながら、ひなこは史月を見上げる。

 頬いっぱいに口に詰めた様子はまるでリスのように愛らしく、史月の笑いを誘った。

 それに小さく笑ってから、史月は口を開いた。


「その喋り方、どうしたんだ?」

「ん・・・んく。うちがちっちゃい頃、お父さんあちこち転勤しててん。家族ごとそれについとったらな、いつのまにかあちこちの方言混じっとったんや」

「へえ。面白いな」

「よう言われるわ」


 新しく箸を伸ばした先にあるほうれんそうのお浸しを見てから、史月を見上げるとどこか不満げに顔をしかめていた。いったいどうしたというのか。

 不機嫌そうな顔のままうつむいて味噌汁をとった史月に、ひなこはぱちぱちと瞬きを繰り返した。


「お前は俺のものなんだから、ほかの奴の話をするな」

「は?」

「気に食わない」

「や、別に誰がとかやないし」

「それでもだ」


 静かに味噌汁をすする史月とは反対に、ぐっと黙り込むひなこ。そもそも方言について言い出したのは史月だというのに。

 別にむかついたとか、そういうわけじゃない。ただ、ただ。


(嫉妬とかやったら可愛いな・・・ってアホかいな!)


 自分で考えたことに自分でツッコミを入れることに忙しかっただけだ。まるでお気に入りのおもちゃをとられそうになる子どものようだと、ちょっとかわいく見えてしまった自分が憎らしい。

 その後も料理を食べ進め。


 2人同時に箸をおいた。

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