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「で、どういうことなん。これ」


 父兄弟を押しのけて家の中に入って廊下を歩きリビングの扉を開ければ、そこは泥棒でも入ったんですか? と言いたくなるほどに荒れたリビングだった。


 床に散らばった服にクッションにタオルとなぜかあるロープ。とりあえず、手当たり次第に床に放り投げました☆といってもいいレベルで。


 唯一変わっていないのは、家族の写真と母の遺影が置いてある棚くらいなものだった。


 ソファの上にも及んでいたそれらをとりあえず押しのけると、そこに女中たちを座らせようとひなこは勧めたが、立ったままでいいと断られる。そのため史月を座らせ、床に落ちていなかったクッションを押し付けた。


 よくわからなそうにビーズクッションをもにもにと押して、史月は首を傾けていた。


 ひなこは食事用の茶色いテーブルで腕を組みながら、鍋やバッドを手放しそれぞれの椅子についた家族を睨んだ。


「だってひなこちゃんがさらわれちゃったから」

「討ち入りして助けようと思って」

「最後は火をつければばれないかなって」

「完全犯罪かなって」

「かなってやないやろこのアホども」


 どうやら相当パニックになっていたらしいとひなこが頬を引きつらせる。ソファでは史月が脱いだ道中着を女中に渡し、持たせていた。その史月の顔も引きつっている。


 下手をすれば焼き殺されているところだったらしい。若干女中たちが殺気立つが、史月に手で抑えるように言われ、ぐっとこらえる。


「ひなこちゃん、おかえり。無事でよかった」

「俺がひなを害するはずもない。それよりひな、早く準備して来い」

「準備?なんの準備だ?」

「お父さん、はづき兄。うち、ふみの家に行くことになってん。今日は荷物取りに来たんや」

「「「「は?」」」」


 揃えた声でひなこの家族は疑問を呈した。

 ぽかんと豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする4人に、史月が呆れたように口を開く。


「花祝は花示のもの・・・つまりひなは俺のものだ。俺とともに暮らす義務がある」

「義務って! それにひなこはものじゃねえ!」

「花示様!」


 怒鳴って椅子を蹴り飛ばさん勢いで立ち上がったはづきに反応して、女中たちが素早く史月を守るように陣を組む。

 それを手で制しながら、史月は肩を怒らせ睨んでくるはづきを睨み返した。


「それが花祝の義務だ」

「花祝だか何だか知らねえけど、ひなこはそんなんなんねーよ!」

「もう選ばれた。変更はない」

「ふざけんな!」

「はづきくん!」


 史月に詰め寄ろうとしたはづきに、女中が身構える。何か武術をやっているのかその型は綺麗なもので、ただの大学生であるはづきは絶対敵わないだろうと思わせた。

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