お家訪問

「・・・ここが家です」

「なんだ、でかいな」

「いや、これ全部やなくてあそこの角部屋」

「・・・物置に住んでるのか?」

「失礼やろ!」


 例え史月の感覚では当然のことであったとしても。思わずツッコミを入れたひなこは、自分が出した声にあわてて周囲を見回した。

 クリスマスの夜だからか、あまり人通りのないマンションのエントランス前で助かった。


 が、人通りが少ないとはいえ完全にいないわけでもない。ちらほらと通る通行人たちは、セーラー服と着物の集団に何の集まりかと珍妙なものを見る目でそそくさと去っていた。


 乗ってきたリムジンは適当な駐車スペースにいれ、何とか目立たないようには出来た。当然そこで運転手さんは待機である。セーラー服と着物に加えスーツまで入ってくるなんて冗談じゃない。

 ひゅううという物寂しい音ともに木枯らしが通っていく。じわじわとしみこむような寒さ。


「中、入ろか」

「そうだな、寒い」


 寒い上にいつまで立ってても仕方ないため、ひなこはエントランスの中に入り、さっさとエレベーターに向かう。


(誰にも会いませんように・・・)


 ぞろぞろとついてくる着物の集団に顔を引きつらせながら、ひなこは信じてもいない神に祈った。


 その祈りが通じたのかどうか。結果、507号室、相沢家の暮らすマンションの角部屋の扉の前につくまで、誰にも会うことはなかった。


「鍵・・・あ」

「どうした」 

「お父さんと一緒に来たから持ってへんわ」

「開かないのか?」

「ん、いや大丈夫やで」


 ぽちっとひなこはちょうど目の高さにあるインターホンを押す。

 扉の向こうでピーンポーンと間延びした音が聞こえて、家のインターホンってこんなふうに聞こえるのかとひなこは思った。

 ややあってから、ぴっと音がしてインターホンに赤い光がともる。


「はい、相沢ですが。申し訳ありませんが、現在立て込んでおりまして―――」

「ひなこやけど。はづき兄やろ? 開けてぇな」

「ひなこ!?」


 がたんごとんばたんどたどた、ごんどたどた


 中からものすごい音が響いてきた。

 思わず目を丸くするひなこに、史月は若干かがみ込み囁くようにひなこの耳元で問うた。


「これが普通なのか?」

「いつもはもうちょっと落ち着いてると思うんやけど・・・」


 ばたん!

 

 勢いをつけて扉が開かれる。

 ひっと後ろに下がったひなこをかばうように史月が前に出て、女中たちがそれぞれ史月の周りに展開する。


「ひなこちゃん!?」

「ひなこ!」

「「ひなこ姉ちゃん」」


 なぜか鍋を被った父とバットを持った兄、マッチとチャッカマンを持った弟たちが出迎えてくれた。奇妙で現れた父兄弟たちに、ひなこはあんぐりと口を開けたのだった。

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