着替え

 そのあと、食器を下げに来た女中たちに史月が外に出ることを伝えると、今にも倒れそうな青い顔をしつつも「30分でご用意致します」の言葉とともに早々に去っていった。食器とともに。


「着替えるか」

「へ?」

「お前はそれでいいかもしれないが、俺のは外向きじゃない」


 まあ外出用の着物なんて持っていないが。

 そう言って雪見障子の横、近寄ると若干寒いそこに歩いていき、桐のタンスをあさり始めた史月。そのすらっとした後姿を見ながら、ひなこは残念そうに呟いた。


「その桜のお着物似合におうてるのに」

「・・・」

「着替えてまうんか」


 ぴたりとそのままの姿勢で動きを止めた史月に首を傾げながら。ひなこは食後にと要された茶で手を温めながら、一口口に含んだ。食堂を通る温かさに目を閉じる。


(やけに静かやな・・・)


 妙な静けさに史月の方に再び目線をやると。

 両眼を見開きながら、ぐるりと首だけをひなこに向けて、ひなこを見ていた。ただじっと。身動きすらせずに。


「ひっ!?」

「・・・似合ってるか、これ」

「に、似合うとると思いますけど!?」

「そうか。じゃあ、いい」

「え?」

「着替えなくていい」


 そう言うとにわかにあさり始めたタンスをぱたんと閉めて、座椅子まで優雅な足運びで来ると腰を下ろした。

 何事もなかったかのようにお茶を飲み始めた史月に、ひなこの頭の中は? でいっぱいだった。


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