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「どうした?」
「何でもないねん」
「そうか・・・というか」
「ん?」
「お揃いだな」
口もとに袖を当てたまま、史月はふわりと微笑んだ。
微かに伏せられる長いまつ毛、柔く甘そうな紅唇。綻んだ大輪の花に、目が意識がからめとられる。
大広間や部屋で話していた時は落ち着いていて、というか何にも興味がなさそうで大人っぽかったのに、笑うとずいぶんあどけない。
その差にもなぜか早くなる鼓動に、胸を押さえながらひなこは首を傾げていた。
(どないしたんやろ? 心労?)
今日の午前中だけで随分消耗した気がする。何をって? そりゃあ精神力やら気力といったものだ。はらはらしっぱなし。疲れたのだろうとひなこは自分を納得させた。
例えば相手が男なら恋を疑ったのだろうが。
(女の子やしな)
ないないと小さく首を振ったひなこに、じっと様子を見ていた史月が首を傾げた。
「・・・くっしゅん」
「戻るか?」
「さすがに寒ぅなってん」
くしゃみをしたあと自らの肩を抱き、ふるふると大げさに震えてみせるひなこに、史月は苦笑した。
「もう昼食の準備も出来てるはずだ」
「え、本当? わーい!」
「ふふ」
昼食と聞いて無邪気に喜ぶひなこを見て、袖に当てた向こうの口で史月が微笑む。
笑い声が聞こえて、ひなこが史月を見上げる。
「なんや?」
「いや、楽しみだな」
「どんなんが出てくるんやろね!」
「味は悪くないぞ」
そう言って史月が口元に当てた着物の袖を下げた時だった。
「!」
どくんと、ひなこの胸がひときわ大きく波打った。
何物にも染まらない、白の奥に秘められた赤。史月の白い着物、その袖の奥にちらりとのぞいた艶やかな赤い襦袢。
まるで新雪の中に落ちる一輪の赤い椿の花のように、烈々たる赤。
面食らったように固まるひなこの手を、冷たくて細い手で掴み史月はひいて、部屋へと戻り始めた。
「ちょ・・・自分で歩けるって!」
「ぼーっとしてたみたいだから」
「もう平気!」
急いで手を振り払うと、ひなこは史月よりも先に縁側に上がり草履を脱ぐと部屋の中に入っていってしまった。
何かまずいことをしたかと首を捻る、史月を置き去りのまま。
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