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その日、相沢家の食卓は大荒れだった。
まず、原因は間違いなくあの封筒で、悪かったのは出すタイミングを見誤ったひなこだ。
「ふうたくん、へいがくん中学校登校日だったんだよね、どう?」
「なんだよその質問。変わらないって」
「皆元気だったよ」
「ほづみくん、大学は?」
「大学に登校日とかないからさ。ちょっと研究室のぞいてきただけ」
「ひなこちゃんは?高校、補習だったんだよね?」
「人がほとんど来とらんで、先生かんかんやった」
苦虫をつぶしたような顔をするひなこに、父は苦笑で返した。
結局、父が帰ってきても夕飯の支度で封筒のことをすっかり忘れていたひなこは、自分が食べ終わったのをいいことに父へと封筒を差し出したのだった。
「あんな、お父さん。これ、今日うちあてに来た手紙なんやけど」
「なんだよラブレターか?やるなひなこ」
「こんなちんちくりんのどこがいいのやら・・・」
「ひなこ姉ちゃんやるう!」
「うっさいわアホ兄にバカ弟ども! 誰からかわからんねん」
「どれど・・・れ」
「お父さん!?」
同じく食卓を囲んでいた兄・はづきと中学生の弟・ふうたとへいがにからかわれ耳まで真っ赤にして怒るひなこ。
手で碗を持ち味噌汁をすすっていた父に差出人の名前を見せた。
するとみるみる父の顔は青ざめていき、手が震えだし、味噌汁の碗を落とした。
自分の足の上に。
「熱い!」
「父さん!」
「ちょ、足動かさないで!
「危ないから」
ごん、ごろろろ、がしゃーん。
結論から言うと、熱さに驚いた父が足をはねさせ結果、テーブルに足を打ちつけ、テーブルの上をごはん茶碗が倒れ転がり、床に落ちて割れた。
「うわ、ごめん!」
「ちょ、父さん落ち着いて!」
「痛い!」
「素手で破片掴むなや!いま新聞紙持ってくるから!」
ついでと言わんばかりに焦った父が素手で割れた破片を掴み、手を少し切った。
ぱたぱたと床に落ちた白米の上に血液が落ちる。
「わー本物の赤飯だー」
「バカなこと言っとらんとこっち対処しろや、はづき兄!」
惨劇に動じもせず、いやむしろ動じ過ぎておかしな発言をするはづきに怒鳴るひなこ。急いで新聞紙を持ってくると、ひなこは血にまみれたごはんごと茶碗の欠片を回収する。
「何やってんねん、お父さん」
「ごめんね、みんな」
「気にしないで、父さん」
「そうだよ」
呆れを含んだ眼でひなこが見ると、しょんぼりと成人男性にしては可愛らしい擬音が妙に似合う父は背中を丸めた。ひなこが片している間にズボンを変えてきたようだった。
救急箱から絆創膏を取り出し、それを父の手に張りつけているふうた。慰めるのはふうたとへいがに任せて、ひなこは予備の茶碗にご飯と味噌汁をよそって、テーブルについている父の前に置いた。
それにはっと顔を上げる父。
「早く食べちゃってな」
「ありがとう、ひなこちゃん!」
そう言って父はまたハンバーグに手を付け始めた。
そうして、相沢家の騒がしい食卓は終わったのだった。
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