コンビニ

「あ、すみません。そこのコンビニ、寄ってもろうてもええですか?」

「はい、花祝様」

「どうかしたのか、ひな」

「クリスマス限定でお菓子出てるん。1組限定1個までのやつ!」

「家に集めさせればいい」

「あーいうんは自分のお金で買うから美味しいねんで」


 そんなに食べたいなら女中に買いに行かせればいいという史月に、ひなこはやれやれと首を振って呆れた目を返した。


 ぐっとこぶしを握り力説するひなこに、史月が珍妙なものを見るかのように首を傾げた。


 自分のお金といっても父からもらったお小遣いだから、正確には違うかもしれないがそんなことを思ってはいけない。


 そんな会話をしている間に、リムジンは1台も停まっていない駐車スペースのトラック置き場に停まった。


「ちょっと行ってくるわ」

「俺も行く」

「え・・・お、おう」


 女中が先に降りて開けたドアの前で控えていて、それに頭を下げながら外に出ると、リムジンを指さして母親にとがめられている子どもを見かけた。


 ちょっとしょっぱい気持ちになりながら、外気の冷たさにぶるっと震える。見上げた空もうは真っ暗で、途端に寒さが濃くなったような気がした。


 やはりクリスマス、もう暗くなっているからかほとんど誰もいないコンビニへと歩いていくひなこと史月と女中5人。ぞろぞろと7人で連れ添っているのは相当奇異なのだろう。


「いらっしゃいま、せ・・・」


 うぃーん

 開いた自動ドアの向こうでたばこの棚の整理をしていた店員の挨拶が出来ていなかった。振り向きざまに言ったため最初の方は言えていても最後は尻切れトンボだった。


 そんな店員にぺこりと頭を軽く下げるとお菓子コーナーへと進むひなこ。その後ろを口元に袖を当てながら物珍し気にあちこちに視線をやりながら続く史月と女中たち。


 ぞろぞろとお菓子コーナーに消えていったおかしな集団に、なにあれ? と店員は首を傾げた。


「あった。これやこれ」

「2つあるな、限定」

「ほんまや・・・どないしよ、1つしか買えへんのに。あ、ふみはどっちがいいと思う?」

「・・・左だ」

「こっち? なんで?」

花示はなときに失敗はない」


 ひなこがかがんで、これこれと示したクリスマス限定! とプラカードの飾ってあるお菓子は確かに2つあった。


 右にピンクのパッケージ・雪の口どけストロベリーツインチョコ 。

 左に白いパッケージ・白い吐息ミルクツインチョコ。


 ひなこと同じように、しかし優美な所作でかがみ込む史月。無表情に花示として選んだ結果を示す史月に、ひなこは表情を曇らせる。そして子どものように頬を1回膨らませたかと思うと、その表情を見て呆気に取られている史月に食ってかかった。


「うちは聞いとるんやで! 誰も花示には聞いとらん。言ったやろ、どっちがいいと思うって! 好きな方、聞いとんのや」

「・・・お、れ?」


 史月は、今まで個人としての意見を求められたことなど1度もない。必要なのは史月ではなく花示で、そこに史月の意思なんていらないものだからだ。


 けれどもひなこは史月を、史月の意見を必要としている。

 そう思うだけで、なぜか胸がうずくのを感じてそっと胸元を史月は押さえた。

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