第8話 彼女の理論
ほどなくして彼女は生徒会室に連れて来られた。
「ケヤキさん、ここに来るのは初めてかな?」
会長は比較的穏やかに話始めた。青筋が隠しきれていなかったけれど。
「はい、そうですね。私はなんでここに呼ばれたのですか?」
彼女は明るく、会長の怒りマークなんて気にもせずに言った。ある意味うらやましい、物怖じしない性格って。
「?ケヤキさんはどうしてここに呼ばれたと思う?」
そう問われて、
「さっぱり分かりませんねえ。」
と片手を頭にやって、テヘヘと笑った。この場面で笑えるのか?!え?と僕は彼女をまじまじと見てしまった。
そんな彼女の態度に、会長は、
「うんうん、そっかあ。」
とフレンドリーに言ったかと思ったら、
「どうしてタチバナ君とパートナーを組まないのかい?」
と直球を投げた。それに対して彼女は、
「それって会長に関係ありますか?」
とあらぬ方向に飛ばした。
会長も一瞬止まったけれど、
「ケヤキさんはこの学園の制度について理解しているかな?」
と質問を変えた。
「パートナー制度ですよね?社会性を育てることを目的としているんですよね?」
「そうだ。一応どの生徒も、これに従うべきなんだ。」
「でも私はそれを免除されているはずですけど?」
「ああ、学校が認めている人物だからね、君は。」
「なら、何の問題もないですよね?」
「でも、タチバナ君は、君と違って普通の生徒だ。この制度を全うする義務がある。」
「私には関係ありませんよね。」
しれっと彼女は言い放った。
「じゃあ何故、君は彼に近寄ったのかい?」
「それは会長に関係ある事ですか?そもそも……パートナーでないと一緒にいちゃいけないのですか?」
「逆に問いたいね。一緒にいるのなら、パートナーになってもいいのではないのかい?そんなに何が嫌なんだ?」
確かに会長の言うことは最もだった。僕としては心の中で会長を応援していた。
会長、もっと言ってやって下さい!そして僕に軍配を!
それに対して彼女は、
「そもそも、その制度自体オカシイですよね?」
と答えた。
「どこがオカシイのかな?」
会長はなかなかの大人の対応をしていた。多分、本当は怒鳴りたいのを我慢しているのだろう。拳がワナワナと震えていた。
「いや、たった一人とパートナーを組んで、もう固定しちゃったらそこで終わっちゃいませんか?コミュニケーションを育てるって、本当なら色んな人と話をするからそれが出来上がるんじゃないですか?あれ?私おかしいこと言っていますか?」
彼女は腕を組んで、片手を顎に当てて考え込んだ。
「なんというか、一人でいる生徒を、寄ってたかって二人組の人が攻撃しているのって、ただ憂さ晴らしをして、自分たちはその人よりも誰かと繋がれているから上だって示したいだけじゃないかなあ?と……私は感じたのですけど。……いや、実際誰かと居た方がお得というか、共感とか分かち合えるし良いとは思う場面もあると思いますけど……ねえ?」
と彼女は、ケヤキさんはこの制度の裏の顔を攻撃してきた。
「……なるほど。君はこの制度によってイジメが助長されていると言いたいわけだね。」
会長が簡潔にまとめあげると、
「うーん……まあ、それでもいいですけど。それに、権力者だからってこれが免除されるとかなると、コミュニケーションが必要な人が外されていると、それこそオカシイような気もするんですけど?色んな人と話してこその、コミュニケーションじゃないですか?そんなに悪口を言いあうために、パートナーを作るものですかね?自分と価値観が違う人とは一線を作るのが、パートナー制度なのですか?」
「ケヤキさん、誤解しているみたいだから言うけれど、別に免除者も作ってもいいんだよ?作らなくても誰からもお咎めはないってことだけで。」
会長がそう言うと、
「でも、実際皆、自分と身の丈があった人としか話していませんよね?」
「そういうものじゃないかな?だって、免除者は免除者同士で組めば、何の問題もないわけだろう?」
「それって、格差社会の助長と言うか……」
「逆に釣り合わない生徒同士が組んで、それこそガタガタになるよりは、円満な関係を作れる者同士で組んだ方が、双方にとってもメリットがあるのじゃないだろうか?」
会長は少しだけ、息を吹き返して、ここぞとばかりに反論を開始した。
「それもそうですね……」
ケヤキさんは考えながら、会長の言葉にうんうんと頷いた。
僕は、オッ?!これで、もしかして上手くいけば、ケヤキさんは制度のことをもう一度考え直してくれるのじゃないか?と思った。が、
「だからと言って、私がパートナーを作らなければいけない理由にはなりませんよね?失礼します。」
と彼女は帰ろうとした。それについて、会長は、
「待ちなさい!ケヤキさん。どうしてそこまでこの制度を嫌悪する?その理由を教えてくれないか?」
「バカバカしいからです。」
と彼女は即答した。そして頭を下げて、本当に部屋から出て行った。誰も彼女を止めることは出来なかった。会長はフーと僕の方を向いて、
「タチバナ君、あと4日かな?頑張りたまえ。」
と匙を投げた。笑顔を忘れずに。僕は無言で、部屋を追い出された。
その後、どうやって教室まで帰ったのかを、よく覚えていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます