第10話 隠れ家

寄った場所は、家だった。廃墟。植物が生い茂って、家の壁面には蔦が這っていて、外の明かりが落ちていって一層陰鬱とした雰囲気を醸し出していた。

「ここは?」

そう尋ねると、

「私の隠れ家。……と言っても数十年前に放棄した家みたいでね。ご覧のとおり手入れをしていないから、ゴミ屋敷とか幽霊屋敷だと言われているよ。時々オカルト好きな人たちが荒らしには入ってきたりしている。とんだ迷惑だけどね。ゴミを捨てていくわけだから。」

そう言って道端に落ちているゴミを指した。確かに住宅街の中にこんな場所があれば、人には言えないゴミを捨てたくなるのだろう。

よくよく見れば、そこらかしこにゴミがあった。

「でも、なんでここに?」

「君の家に行く前に、ここを見せておきたくてね。」

そして彼女は鍵をさして玄関のドアを開けた。

「別に今は住んでいないけれど、所有はしているんだ。放棄しているだけでさ。本当は掃除したいのだけれど、中々そんな時間も無くてね。……さ、上がって。」

お茶とかは出せないけれど……と言われて、彼女の後ろをついて階段を上がった。

「何が隠してあるの?」

登りながらそう聞くと、

「どうして何かが隠されていると思ったの?」

と返された。

「隠れ家って言われたから、てっきりそうかと……。」

キョロキョロしながら歩いていると、ある部屋の中に通された。

そこだけは箒がかけてあって、比較的他の部屋に比べてホコリが少ない気がした。

「考え事をしたい時とかに、ここに来るんだ。」

彼女は近くにあったロッキングチェアに座って、そう言った。ギコギコと少しだけ不気味な音が鳴った。

「自分の家に部屋はないの?」

「あるよ。でも、使用人とか他の人もいるからねえ。本当に一人っきりになりたい時に。」

彼女は目を閉じて瞑想している様に見えた。

「ケヤキさんもそんな時があるんだね。」

「心外だなあ。これでも私は結構デリケートに出来ているのだよ?」

と茶化された。

「そんな大事な場所、僕に教えてもいいの?」

「タチバナ君に教えたいと思ったの。」

と淡々と恥ずかしげもなくそう答えられた。僕の方が恥ずかしくなった。

「誰も居ない、本当に静か。時折鳥の声とか、近所の人の声とかが聞こえるだけ。存分に考え事が出来るよ。……タチバナ君も考え事をするなら、今が最良だよ?」

そう言われて、苦笑してしまった。嬉しさと半分で。

「ありがとう……」

そう言うと、

「どういたしまして。パートナーにはなれないけれど、力を貸すくらいは出来るからね。」

とも付け加えられた。

「ケヤキさんは、どうしてそこまで頑なに作らないの?」

思わずそう聞いてしまった。彼女は片目を開けて、僕を見て、

「……んだよ。」

と小さく零した。それは今日生徒会室で見た、強気な彼女とは違って弱弱しく感じた。

「そっか……」

まだまだ疑問は尽きなかったが、その一言が十分に彼女の気持ちを物語っている様に僕は思えて、それ以上何も聞けなかった。

しばらく間、そこでお互い静かに過ごしてから僕の家に帰して貰った。

「今日はありがとう。」

「いえいえ。私こそ、振り回してごめんね。明日からは別々の方が良いかな?」

そう聞かれて、

「いや、折角話せられるのだから。」

このまま彼女と離れるのは、何故か嫌だった。上手に伝えられないのが、残念だったけれど。それでも彼女は、僕の返答に満足したのか、

「分かった。じゃあ明日、タチバナ君。」

と車の中から手を振ってくれて、帰って行った。




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