第9話 それでも一緒

「お帰り。」

ケヤキさんは、笑顔で帰ってきた僕に向かってそう言った。それを聞いた瞬間、僕はよくそう言えるなあ……と思わずハーと長い溜息をついた。周りでなんて言われるかなんてどうでもいいくらいに。

「タチバナ溜息とかついてるけどw」

「ケヤキさんもあんな奴に構わなくていいのになあ。」

「生徒会室で何があったのかな?」

「誰か聞いて来てよー。」

言いたい……さっきあったこと、彼女が放った爆弾発言全部皆に聞かせてやりたい!と僕は心の中で密かに思っていた。言えないけど。

「無事帰して貰えたみたいだね。」

彼女は事もなげにそう言った。

「ああ……うん。。」

最後の単語に、少しばかりの恨みを込めたつもりだけど、彼女には届かなかったみたいだった。良かったと笑ったからだ。う―――ん……どうしたら君に僕の絶望が理解してもらえるのかなあ???と悩んでいると、先生が入ってきて授業が始まった。




僕は3日前ぐらいの絶望にもう一度戻された。

パートナーが出来なければ、退学もあり得ると。

入学当初はこんなことになるとは思ってもいなかった。さっさと誰か一人くらい、否、余り者同士で出来るものじゃないかと思っていた。

しかし、半年経っても出来ない今の状況。そして突きつけられた現実。

他に誰か居たかなあ?と思いながら帰ろうとしたら、

「タチバナ君、何しているの?一緒に帰ろうよ。」

とケヤキさんが、強引に僕の腕を掴んだ。

「え?どういうこと?」

「何を言っているの?ほらほら、一緒に帰ろう。」

そのまま強い力で引っ張られて、僕は彼女の車に乗せられた。

「このまま君の家に直帰でいいのかな?それともどこか寄りたい所があったかい?」

そう聞かれて、僕は咄嗟に何も言えなかった。

「何もないということは、君の家で大丈夫みたいだね。シラカバ、よろしく。」

「かしこまりました。」

と執事さんの声がして、車はスムーズに動き出した。

暫くして状況をどうにか呑み込めた僕は、口を開いた。

「……ねえ?ケヤキさん。」

「どうしたの?今日の授業の中で分からないところがあったの?」

見当違いの事をポンポンと言われて、いや……そうじゃない、と手でジェスチャーをしてから、

「僕はあと4日でパートナーを探さなきゃいけないんだ。どうしてケヤキさんと帰ることになったのだろうか?」

「いいじゃない、帰る事ぐらい。そんな些細なことで、パートナーが出来るかどうか左右はされないよ。それに、電車に乗れば、またどうでもいいことを聞かなきゃいけないのでしょう?それなら私と帰った方が、余計なことは聞かずに済むのだから、良いことずくめじゃない?」

そう言われて、なるほど……と思ってしまった。一理ある、と。

僕は彼女の言葉に、何も言い返せなかった。

そんな僕の様子を見て、彼女は、

「シラカバ、彼の家に行く前に、少し寄り道をしたい。」

と命令を出した。




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