第11話 いきなり問題解決?

次の日、僕は憂鬱だった。

どうやったら、パートナーを作れるのか。有力候補だったケヤキさんからは、会長の前で断られたし、他に今から探そうにも、僕にはもうそんな人脈は鼻からないわけで。

「はー……」

と溜息をついて教室に入る。

「あ、来たよ。」

「なんだ、やっぱり違ったじゃないか、おかしいと思ったんだ。」

「ケヤキさんとパートナー組めるとか、勘違いも甚だしくない?」

「まだ分からないのかな?自分の立場。」

「ムリムリ。退学になる日まで、ゆっくりこのまま監視しておけばいいじゃない?」

「えー私、もうこの臭いに耐えられないー。」

「ちょっw本人の前で。我慢しろよ。」

たった何日か言われなかっただけで、忘れていた。自分の立場ってものを。

机に突っ伏してハーと溜息をつこうとした時だった。

「おはよう、タチバナ君。どうして待っていてくれなかったんだい?」

とケヤキさんの声がした。

「……おはよう。ケヤキさん?それはどういう意味?」

「昨日帰る時も言ったじゃない?折角話せられるのだから。今朝君の家まで迎えに行ったのに。」

その時、また教室内がザワついた。

「それは……ごめん。」

「いやいや。まあ、君が忘れていただけなら、明日からは待っていてね。」

「うん。」

完全にケヤキさんのペースに僕は飲まれていた。

そんな風にして、変な日常は続いていた。この日、更に変なことが起こるなんて、僕には予想すらできなかった。




「ほら、タチバナ君帰ろう?」

ケヤキさんにそう言われて、一緒に昇降口まで歩いて行った時のことだった。

「もう!別れる!」

「そんなこと言うなよ。ちょっとした誤解だろ。」

よくあるカップルの痴話喧嘩が聞こえた。まあ、度々こんなことは起こる訳で、いちいち気にしていたら身が持たないし、僕の身には起こらない類の物だ。少しだけ羨ましいけれど。

女性の方がすごく怒っていて、男性の方がなんとか宥めすかそうと必死だった。

あまり関わらないように離れようとした時だった。

ガシッ!と強く何かに引っ張られたと思ったら、

「この人と付き合う!パートナー解消ね!」

と件の女性に、つかまっていた。

「はあ?!こんな奴と?冗談じゃねえぞ?キョウコ!」

「もう決めたの!もう私、無理だから!」

そうしてそのまま僕は、女性が引っ張るままに事務室の方に連れて行かれた。

その間僕は驚きのあまり、声が出せなかった。

事務室に着いて、女性が何ごとかを書いていて、

「ねえ、君名前は?」

と聞かれて、

「タチバナです。」

「下!」

「ヒデヨリ……です。」

サラサラと何かを書いて、女性は事務員に書類を提出していた。

「はいはい。じゃあ、これで今からおたくらはパートナーね。」

その言葉を聞いて、僕は更に思考が停止した。

パートナー……?

はて、それは何のことですか?

え?と思って女性の方を見ると、

「よろしく、タチバナ君。私は、ヒイラギ キョウコ。」

と手を差し出されて、そのまま握手をした。

「あ、ヒイラギさん、前のバッジ返してね。で、新しいの選んでね。」

と事務員さんが言った。

ヒイラギさんはさっさと言われた通りにして、

「ね、どうする?」聞くでもなく、

「はい、これタチバナ君の分ね。」

とパートナーの証のバッジを、僕に渡した。

「え?へ?はい。」

「感謝してよ、貴方確か退学になりそうだったのでしょ?じゃあ、これからは私とパートナーなんだから、しっかりしてよね。」

と早口でそう言われた。

「は……はい!」

「もうちょっとハキハキして欲しいけど、ま、いいわ。じゃあ、早速一緒に帰りましょ。」

と彼女にチャッカリと腕を拘束されて、歩き出した。

その後ろを、さっき彼女と言い争っていた男性が駆けてきた。

「おい!キョウコ、冗談じゃねえぞ?!」

「まだ居たの?あ、あんたのバッジ返却しておいてよね。申請出して置いたから。」

「はあ?冗談も大概にしろって……」

と男性が言いかけた時に、事務員の人が、

「バッジ、返却して下さい。」

と男性の目の前に立ちはだかった。

「は?いや、意味分かんねえし……」

と男性が事務員の人と話し込んでいる隙に、僕と彼女は足早にその場を去った。

「ねえ、タチバナ君ってどっち方面なの?」

歩きながらヒイラギさんは、ポンポンと話しかけてきた。

「え?あの……」

僕が答えあぐねていると、

「タチバナ君、大丈夫?」

と僕たちの前にケヤキさんが現れた。

「あ、ケヤキさん。いきなり居なくなってごめん。」

と僕が彼女に向かってそう言うと、

「ねえ、もうタチバナ君は私のパートナーなの。パートナーじゃない人は遠慮してくれない?」

とヒイラギさんが、僕たちの間に割り込んだ。

「へ?でも、タチバナ君とは一緒に帰る約束を……」

そう彼女が言うと、

「パートナーにならないくせに、お金持ちだからって少し図々しいんじゃないの?」

とヒイラギさんは、ケヤキさんに向かって言い放った。そして、

「じゃあねえ。」

とヒラヒラと手を振って、僕は強引に彼女に連れ去られた。

「あ……ケヤキさん……」

僕の言葉は虚しくも、かき消された。




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