第12話 初パートナー

次の日、朝から携帯でヒイラギさんに呼び出された。

「家に迎えに来ること!」

と。僕は寝ぼけ眼で、まだ覚醒しない頭をどうにか動かして、昨日教えられた彼女の家まで迎えに行った。

そして学校に登校して、教室に着いた。

教室に着くなり、今までとは明らかに違っていた。

「おはよう、タチバナ。」

「おはよう、タチバナ君。」

「昨日の宿題してきた?タチバナ君。」

と皆が僕に話し掛けてきた。

それは、ケヤキさんと知り合った時にも起こらなかった現象で、つまりは、パートナーのバッジをつけていたからだと思う。

僕は初めての現象に戸惑った。

「おはよう、タチバナ君。」

隣から声がして、振り返ると、そこにはケヤキさんが立っていた。

「お……おはよう……」

昨日の帰りのことが蘇って、なかなか上手に声が出なかった。

「おめでとう、タチバナ君。これで退学にならずに済んだね。」

と彼女は微笑んだ。

その言葉に、僕は胸がズキンと痛んだ。

「う……うん。どうにか、こうにか。」

そうだった。僕は幸運にも、パートナーを手に入れたのだ。これで学校を辞めなくて済んだのだ。それ以外に良い事なんてあるだろうか?

そんなことを思いながら、彼女に向かって作り笑いをした。




昼休み、もう見慣れた場所に、僕は呼び出された。

「やあやあ、タチバナ君。コングラッチレーション!」

と拍手とともに、僕の目の前に会長がいた。

「あ……ありがとうございます。」

「これで君も仲間入り。どうだい?パートナーになれた気分は?まだ初日だから分からないかな?」

「え……っと。」

「まあ、焦ることはない。ゆっくりと、そうだな、彼女にでも教えて貰えばいい。何も特に大きな変化は無いのだから。君のパートナーは……ヒイラギさんか。うん、大変な場面に出くわしたみたいだけど、君にとっては幸運だったね。」

「はい……」

生返事みたいなものしか出来なかった。それに、扉の外には、そのヒイラギさんが待機している。

「あまり君を留めておくのも彼女に悪いからね。とりあえず僕からは以上だよ。」

そう言われて、僕は解放された。

「会長との話終わった?」

生徒会室から出てきた僕を、ヒイラギさんは笑顔で出迎えた。

「うん。」

昨日からメールなどで、ヒイラギさんから諸々の諸注意とかを受けていた為か、返事が小さくなった。

「ほら、お昼休み時間無くなっちゃうから、早く早く。」

と彼女に腕を引っ張られて、僕は歩き出した。

ヒイラギさんのパートナーになってから、僕はヒイラギさんに振り回されっぱなしだった。朝も夕方も学校から彼女の家まで送り迎えは当たり前、休み時間はお喋りの為に拘束、家に帰ってからも、パートナー制度における学校行事などの打ち合わせや、何故か僕は彼女の彼氏になっているみたいで、休日の予定などのメールでのやり取りと、全ての時間が彼女中心に回っているみたいだった。今までみたいに、ケヤキさんと話せる時間は皆無になった。折角彼女の隠れ家も教えて貰ったりしたのに。ただ、ヒイラギさんとパートナーを組んだおかげか、今まで聞こえていた陰口はパッタリと無くなった。遠巻きに見られることも無くなり、普通にクラスメートとして接してもらえるようになった。この変化の大きさは、自分でも戸惑った。




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