パートナー制度
翠
第1話 僕の日常
ここでは誰かと一緒にいなければならない。それが義務だから。
「あ、来た来た。」
「ねえ、まだ分からないのかなあ?さっさと作れよなあ。」
「私、SNSにupしとく。皆にそうしーん♪」
僕が歩くと、ザワザワと他人の声が途絶えることはない。
そんな毎日を過ごしている。
早く今日が過ぎますように……
そんなことを思っていたら、ザッと目の前に誰かが立ちはだかった。
「タチバナ ヒデヨリ君だね。」
顔を上げると、そこには生徒会の面々が立っていた。
「同行願う。尚、拒否権は君には無い。」
僕は無言で、生徒会の人について行った。
生徒会に着いて、中に入ると、雪柳学園の生徒会長がデンと椅子に座っていて僕を真向いで出迎えてくれた。
「やあ、来たねタチバナ君。座りたまえ。」
「はい。」
僕は小さくそう言って、生徒会長の前に備え付けられたパイプ椅子に座った。
「さて、君は入学後半年が経つけれど、まだパートナーが決まっていないそうだね。」
「はい。」
「君も知っているだろうが、わが校ではパートナーを作ることが義務付けられている。」
「はい。」
「これは作るべき努力が、私たちには課せられている。分かっているかな?」
ニコリと笑顔を添えて、そう問われた。でも会長の目は笑っていない。
「……」
「私たちが勝手に見つけて、君のパートナーを探してもいいのだけれど、そうするとこれを義務付けている意味がないんだ。君には探す努力をしようとする意思はあるのかな?」
そう更に付け加えられて、僕はビクリと肩を震わした。
【パートナー制度】
在籍している生徒は、必ず誰かとペアを組まなければならない。
カップル同士の男女でもいいし、仲のいい同性同士でもいい。
とりあえずパートナーを作ることが義務付けられている。
これは、様々な学校行事の際に、有効に物事を進める為でもあるし、またコミュニケーションを養うためでもある。
パートナーは作っても解消することは可能だ。すぐに申請できる。
社会での結婚・離婚制度の簡易版と考えてもらえたら分かりやすい。
「ところで、タチバナ君。誰か見つけたかい?」
「いえ、まだ……」
小さくそう答えると、会長の右側の青筋がピクンと動いた気がした。
「その……皆、もうすでに……」
「言い訳はいいよ。……この状態が続いたら、イジメが加速しても我々はどうすることも出来ない。そもそも、義務を果たせていない君が悪いからね。」
その時の会長の声は、一番冷たく聞こえた。
「は……はい。」
「今日から1週間以内に見つけたまえ。そうでなければ、君を退学処分にすることも検討する。」
そう宣告されて僕は帰された。
教室に戻っても針のむしろなのは変わらずに。
物理的な攻撃はない分、精神的な攻撃が常に周りにはまとわりついた。
「ちょ、帰って来たよ。」
「何言われたんだろう?」
「ってかあいつと制度組む奴とか居るのかよ?」
「俺、無理だわー。」
「この前前通ったんだけどさあ、なんか臭かったんだけどー。」
「何々?なんか漏らしてたの?」
「いやだあーもうー。」
クスクスと笑いがそこかしこに充満した。
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