第15話 そして僕は
「それなら問題ないわ。彼は私とパートナーになるから。」
何でもない風に、淡々と彼女は告げた。
その時僕の心は、ドキン!と大きく鳴った。
「はあ?」
「え?ケヤキさん……そんな……あんなに嫌がっていたのに?!」
僕は思わず動転して、彼女にそう聞いていた。考えてみれば、僕に取っては願ったりかなったりな状況なのに、それでも、何故だかこれでいいのか?と思ったのだ。そんな僕の問いかけに、ケヤキさんは少しだけ柔らかく微笑んで、
「あんな女に君を取られるくらいなら、君とパートナーを組んで学校生活を楽しんだ方が、何万倍もマシだよ。」
と言った。その言葉だけで、僕はもう十分だった。
でも、ヒイラギさんはそうでなかった。
「意味分からない!やっぱり、他人のモノになったから、惜しくなっただけなんでしょう?あなたこそ、自分勝手じゃないの?タチバナ君は、モノじゃないのよ?」
そう叫んだ。でもケヤキさんはその何倍も度胸があった。
「そうよ、あなたみたいなバカ女に盗られるのが、嫌になったの。それに私は何度も彼からパートナーになって欲しいと頼まれた身だからね。強引に繋いだあなたよりは、有利だと思っているけど?」
「……タチバナ君!ちょっと、この言い方どう思う?君の気持ちを弄んでいる気がしない?」
と言われて、僕は、
「……良いと思う。」
と答えた。すごくそっけなくだったけれど、それが僕の本心だったから。
「それに、少しヒイラギさんと居るのに疲れたんだ。……解消してくれない?」
そう言うと、彼女は信じられない者を見るかのように僕を見つめて、
「勝手にしたら?!こんなの要らないわよ!」
とバッジを投げ捨てて、歩いていった。
その後を元彼である男性は、追いかけていった。
二人が去った後で、ケヤキさんは二つのバッジを拾って、
「じゃあ、とっとと学校に戻って、申請しちゃおうか?」
と僕に向かって言った。
「ねえ、本当にいいの?ケヤキさん。」
そう問うと、
「何が?」
「パートナーのこと。めんどくさいって……この前……」
自信が無くて、とぎれとぎれになってしまったけれど、そう聞いた。すると、
「そんなこと、言ってもいいの?私の気が変わっちゃうかもしれないのに?」
と意地の悪い口調で言われた。だけど、
「嫌々ながら組まれるのは、自分で懲りたからね。ちゃんと、お互いが納得してから組むべきだ、こういうのは。」
と今度はちゃんと自信を持って言えた。
「何だか、一皮むけたみたいだね、タチバナ君は。私は、ちゃんと納得したから、ここに自分で記入したんだよ?」
と紙を見せてくれた。そこには、ケヤキさんの字でしっかりと、彼女と僕の名前や申請事項が書かれていた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。さて、事務が閉まる前にさっさと行かないと、またあのお嬢さんの気が変わってしまったら、大変なことになっちゃうよ。」
と二人して走って学校に戻った。
どうにかその日のうちに、申請は通った。
「やあやあ、タチバナ君。良かったね、ケヤキさんと組めて。」
「はい……会長。」
翌日、またもや僕は生徒会室に呼ばれていた。ケヤキさんも一緒に。
「ケヤキさんも、やはり組んでみたくなったのかな?目の前で見せつけられて。」
そう会長が茶化すと、
「そうかもしれませんねえ。まあ、会長にはどうでもいいことですよ。」
とケンカを売った。その時の顔が真顔だったからか、
「……ケヤキさんにはこれ以上、茶々を入れないようにしよう。」
と会長はスッと引き下がって、僕たちは解放された。
久し振りに、ケヤキさんの隠れ家に行った時に、
「本当はどうして、僕と組んでくれる気になったの?」
と再度聞いてみた。答えてくれるかの保証は無かったけれど。
すると、ケヤキさんは一瞬考えてから、ニンマリとした顔をして、こう言った。
「気まぐれかもしれないよ?」
僕は彼女には、一生敵う気がしない。
≪END≫
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