第14話 修羅場は突然に

そんなある日の放課後のことだった。

いつもの様にヒイラギさんと帰っている途中で、一人の男性が僕たちの目の前に現れた。

「よお、キョウコ。元気そうだな。」

その人は、あの日ヒイラギさんと言い争っていた男性だった。

「何よ?まだ何かあるの?」

ヒイラギさんは、負けじと一歩前に出て、男性とにらみ合った。

「そんな奴で満足してるのかよ?俺の代わりはいねえだろ?」

男性はそう言って、ヒイラギさんに詰め寄った。

「満足も何も、タチバナ君はパートナーが初めてなのよ?まだまだこれから私が教えてあげるの。邪魔しないで頂戴。」

さ、行きましょと、ヒイラギさんは僕の腕を(これにも慣れた。)掴んで歩き出そうとした。しかし、男性が、

「ちょっと待てよ、お二人さん。」

と僕の肩を掴んだ。僕は二人から体を抑えられる状態になった。なんでこんなことになったのだろう?と一人自分の不運を呪う。元?恋人同士の間に挟まれるなんて……。

「ちょっと、離しなさいよ。」

彼女は僕の肩に乗っかっている、彼の手を払いのけようとした。が、男性も負けじと僕の肩に指を食いこませた。痛い痛い、と抗議の声をあげようにも出なかった。

「こっちはまだ納得してねえんだよ。勝手に解消の申請を出されて、バッジを回収されて。」

「何言っているのよ?もとはと言えば、あなたが浮気をするからいけないんでしょ?自業自得よ。」

そう言って彼女は強引に僕を引っ張ろうとしたが、彼の方も力を加えて僕を押さえつけるから、ビクともしなかった。間にいる僕は、かなり痛かったのだけれど。

「取りあえず、俺はもう一度お前とやり直してえんだ。こんな奴と組むなんて、納得がいかねえ!」

「タチバナ君はあんたよりも、すっごおく優しいのよ。悔しかったら、見習ってみなさいよ!」

彼女も負けじと言い張った。

「俺の方が、お前にずっと尽くしてきただろう?!」

彼女の言葉に煽られたのか、力が更に籠められて、僕の肩は悲鳴をあげそうになった。

これじゃあ僕は、大岡越前の岡っ引き状態だ?!と思い、叫びだす瞬間だった。

「そのへんで止めたらどう?」

ケヤキさんの声が聞こえた。

3人同時に、声のした方を見た。その時、二人とも、僕にかけていた力を緩めた。

「誰だよ?お前。」

「またあなたなの?邪魔しないでよ。」

口々に彼女に向かって、言いたい放題彼らは言った。それをケヤキさんは、意にも返さずに受け流した。

「さっきからさあ、タチバナ君が一番可哀そうだよね。どっかのバカップルの痴話喧嘩ちわげんかに巻き込まれてさ。」

淡々といつも通りの態度で。

二人ともケヤキさんに注意がいっていたから、僕はすんなりと彼らから離れることが出来た。

「何言っているのよ!?」

その時力をかけていた相手(僕)が居なくなったことで、二人は少しだけ体勢を崩した。

「ちょ?タチバナ君?」

「おい!お前?!」

今度は僕が二人から睨まれる番になった。

「痛かったし……」

二人から十分に距離を取った場所に移動してから、僕はそう答えた。ケヤキさんもすかさず僕のところに移動してきてくれた。

「タチバナ君、ケガ大丈夫?」

「後で見てみなきゃいけないけれど、多分そこまでひどくないと思うよ。」

僕は、より強く掴まれた肩の方を触ってみたけれど、出血もしていないみたいだったから、大丈夫だと確信した。

「で、お二人さんは、これをどう説明するんですかね?」

ケヤキさんは、冷静にだけど逆にその言い方が怖いと感じるくらいに言い放った。

「どういう意味よ?私はパートナーなのよ?タチバナ君の。こいつが全面的に悪いのよ?」

ヒイラギさんは、彼を示してそう言った。

「俺は、キョウコに話があっただけだ。ただ、そいつが邪魔だっただけで。」

男性の方は、少しだけケヤキさんの気迫にビビっていたけれど、すぐに持ち直して言った。

「二人とも、タチバナ君を振り回していたことは、悪いと思っていないんですね?」

ケヤキさんは静かにそう問うた。二人は何のことか?と眉根を寄せた。

「よおは、お二人が話し合えばいいんじゃないのですか?タチバナ君は関係ないですよね?」

そう言って、彼女は僕の襟元に着けてあったバッジを外して、二人の足元に投げた。

「これでパートナー制度は解消になりませんかね?タチバナ君は君のパートナーでない。むしろ、元のさやに戻ってもらった方が、こちらとしては助かるんですけどねえ?」

そして紙をスカートのポケットから出した。

「それは……無効よ?当人同士でないと、それは成り立たないし、受理されないわ!」

ヒイラギさんがそう叫んだ。すると、

「タチバナ君が提出したら、それでいいでしょう?」

と事もなげに彼女は言った。その言葉に、ヒイラギさんはヒッと顔を青ざめた。

「そ……そんな……ねえ?タチバナ君。もう一度話し合いましょう?私、あなたとパートナーを解消するなんて嫌よ。」

ヒイラギさんは、完全に何かに怯えていた。

彼に対してなのか、ケヤキさんに対してなのかは分からなかったけれど。

「それに、私とパートナーを解消して困るのは君の方じゃないかな?また、あの日々に逆戻りだよ?ねえ、そうなりたくないでしょう?」

そう言われて、僕はドキリ!とした。

ああ、そうだ。きっと一人になったら、また遠巻きに見られるのだ。今みたいに、気さくに話しかけられたりとかしない……それなら、我慢して……。

そう僕が思っていたら、ケヤキさんは、もう一枚別の紙を取り出した。



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