第7話 それでも一緒にいる
お昼ご飯、僕はケヤキさんと一緒に食べていた。
彼女が持ち込んだお弁当を。
「いーっぱい食べてね、タチバナ君。」
僕の目の前には、今まで見たこともないおかずが詰め込まれた重箱が、並べられていた。
「いつもこんなのを食べているの?」
僕がそう質問したところ、
「一人でこんなに食べるわけはないでしょう?君と一緒って言ったら、シェフが腕を振るってね。だから、遠慮しないでね。」
そう言われて、僕はお箸を運んだ。
一口食べて、口の中でお肉がとろけた。
「おいしい……」
そう呟くと、
「そう言ってもらえたら、シェフは嬉しがるよ。空っぽにしてくれていいからね。」
そう笑顔で言われて、
「いや、そこまでは流石に食べられない。」
と伝える。というのは、軽く5人前くらいはあるように見えたからだ。
「だよねえ?張り切ると作り過ぎちゃうのが、シェフの悪い癖なんだよねえ。持って帰ってもらってもいいんだけど……」
そう彼女は思案していたかと思うと、近くにいた2人組に声を掛けた。
「ねえ、もし良かったらこれ食べてくれない?」
声を掛けられた2人組(ともに男子)は、怖々しながらも僕たちのところに来た。
ケヤキさんがお弁当を指差して、お腹が空いていたのか、呼ばれた男子生徒は目を輝かせて食べ始めた。
「いやー、やっぱり大人数で食べる方が美味しいねえ。」
と彼女は笑顔でそう言った。すぐに他人と仲良くなれるのも、彼女の特性なのかもしれない、と僕は思った。
ケヤキさんとその後一緒に行動することが多くなって、今までの声は止んだ。
代わりに違った声が上がったけれど。
「どういう経緯でタチバナとケヤキさんが一緒にいるの?」
「助けたんだって。」
「学校側は何も言わないの?」
「言ってないみたいだね。ケヤキさんってすんごい人懐っこいよねえ。」
「今まで話したコトなかったから、知らなかったけれど。」
「うんうん。それにツインテールがカワイイし。」
「私もそう思ったー。仲良くなりたーい。」
「タチバナ、ずりーなー。」
と言った風に。ケヤキさんの株は、急上昇にうなぎ上りをした。
そんな時、生徒会長にまた呼び出しを受けた。
「タチバナ君、やれば出来るじゃないか。」
会長はニッコニコと目までも笑っていた。
「はあ……」
真相を知っている僕としては、複雑な気持ちだった。
「ケヤキさんと親しくなれるだなんて。もう、書類は申請したのかな?」
「あ……いや……その……」
「どうした?彼女もまだパートナーが居ないのだから、良いんじゃないのかな?」
「その……申し上げにくいのですが……」
僕は言おうかどうしようか迷った末に、言った。
「断られてしまって……」
最後の方は声が小さくなって、ほとんど聞こえなかったと思う。言いながら情けなさがこみ上げてきた。それを聞いた会長は、さっきまでの笑顔を少しだけ崩して(目の方が笑わなくなって、口元はそのまま)、
「断られた?」
と理解不可能な単語を
「は……はい……」
繰り返されて、僕は更に居たたまれなくなった。ああ……消えてえ……。
「ケヤキさんは、君の申し出を断ったのかい?」
「……はい。めんどくさい、と。」
僕はまあ自分はイタクないから、彼女の返答そのままを答えた。それを聞いて、会長は片側の青筋をピクピクとさせて、
「ケヤキさんをここに呼んでくれ。」
と他の役員に命令した。
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