第5話 彼女の実態

ケヤキさんは金持ちの娘だった。

それもかなりの……というのは、僕は今ケヤキさん家の車に乗っているからだ。俗にいうリムジンに。

「何か飲みたい物あったら言ってね。あ、ごろ寝したかったら勝手にしてくれて大丈夫だよ。」

「いえ……大丈夫です。」

人生初のリムジン体験に僕はビビっていた。

「あの……ケヤキさんって……」

「ああ、学校では母親の姓を名乗っているから、あんまり気づかれないんだよね。私学校が認定した免除者ってことにしてもらっているから、誰もそんなに話しかけてこないし。」

と本当の名前は明かして貰えなかった。それもそうか。

「それともこのまま病院に行った方がいいかな?っていうか、私の家に。」

「え?それはどういう……」

「雪柳総合病院ってところだから。」

「?!」

この市一番の総合病院の名を言われて、僕は更に縮み上がった。

「病院長の娘?!」

「んー……正確にはちょっと違うけど、まあそんな感じ。」

「もう連絡を入れてありますので、そちらに向かっておりますお嬢様。」

前方の方からそう声がした。

「あ、そうなんだ。ありがとう、シラカバ!」

彼女は明るくそう答えた。

シラカバさんというのは、運転手兼ケヤキさんの第一執事さんらしい。

「あまりお戯れをなさらないようにお願いします。お父上の名に傷がつきます、お嬢様。」

「分かってるってば。……気をつけますー。」

ブー垂れて、彼女はお嬢様らしからぬ肩肘をついて窓の外を眺めた。

「分かっていただければ幸いです。」

そしてまた車内は静寂で満たされた。

僕は病院で一通りの検査を終えて、何も異常がないと診断された。

「良かったねえー、タチバナ君。何もなくて。」

「良かったのはケヤキさんの方じゃないの?」

と答えると、

「意地悪だねえ、タチバナ君は。」

と片方の口を少しだけ上げて、彼女は笑った。その後僕は自宅に帰された。

少しだけ僕の両親とシラカバさんが話をしてから。

「じゃあまた明日ね、タチバナ君。」

「……ありがとう、ケヤキさん。」

「お礼を言われるなんて、それは私のセリフなんだけどなあ。ありがとう、じゃあね。」

そして僕の劇的な一日は終わりを告げた。

彼女も学園に通っているのならば、僕の噂の片鱗くらいは聞いたことがあると思っていたのだけれど、彼女はそんな事微塵も気にせずに、普通に接してくれた。

そのことが僕は嬉しかった。

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