心に残る物語がまた一つ。

ダイアログによってすべてが記録され過ちが決して消えず、許されない世界。
その中に横たわる重い秘密。”わたし”の心にあったものとは?

 良作です。

お勧めできる理由としては、
・「自己」まつわるSFは数多ありますが、良くも悪くも哲学方面に傾斜してしまいがちです。
 しかし、この物語は難解な言葉を使わず、ほぼ女子高生の対話と自問自答と言う形を取って進みます。

・第1話が終わる頃にはこの二人の性格の違いが明瞭に読者に浮かび上がる仕組みになっており、このあたり、大変な構成力です。
また、物語で最重要の冒頭の牽引力は最後まで衰えません。
(ただ、若干の戸惑いを覚えた読者のかたは、作者様の近況ノートである程度の方向性を確認するのも良いでしょう)

そして明かされる謎。
一瞬感じた意外性も、読了と同時に霧散していきます。
「彼女」は許さなかったのか。許されなかったのか。
「彼女」は救ったのだろうか、救われたのだろうか。
 その答えは読者によってさまざまでしょう。
 読み返すごとに答えが変容することもあるかも知れません。

忘却だけが許しになる「ことも」ある。不滅の意識にはある意味、救いがないのかもしれない。
ゆえに最終章の語りには思わず涙しました。
私はこう思ったのです。
……彼女はこの物語に登場する誰よりも強く、人間らしい人間である、と。

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