国内を一人で旅するのが好きだった祖父。しかし、その趣味の秘密を、孫は知ることになる。過去に対するどうにもならない感情を実直に描いた現代ドラマ。読後の心の中に、悲しさや切なさが砂漠のように広がっていきました。祖父の語りから浮かび上がっていく光景が美しくも寂しくて、祖父のどうしようもない気持ちを表していると感じました。思いやっているからこそ、生まれてしまったすれ違いが尾を引きます。
一生を通じて彼らの幸せを願い続けた祖父。思いを寄せていたのは本当は誰だったのか。短いながら錯綜するそれぞれの思い。読了後は、彼ら全てに幸あれ、そんな気持ちになります。例の歌詞をあらためて検索すれば、より「尊さ」が感じられることでしょう。この作品は、「お題」を超えたその先へ読者の想像力をいざないます。良作というより名品、でしょうか。今回の「同題異話」の中ではもっとも刺さりました。……おすすめです。
祖父は快活で一人旅が好きな人、と思っていたら突然の独白。主人公は戸惑いながらも傾聴していくと、そこには切ない話と祖父の懺悔があった。秋の夜長にピッタリのお話です。