マスコット・バースディ!!

青石憲

第一章

0. Introduction

『わたし、精一杯頑張ります!』

 意気込んだ少女。

 その周りには何種類ものヒヨコサイズの生物が、ふわふわと空中浮遊している。

 飛んでいるのではない。言葉通り、浮いているのだ。

 マスコットと呼ばれているこれら小動物は、よく"ゆる可愛い"という言葉でもて囃されている。

 確かにどれもこれも、ほどよくデフォルメされていてゆるーい見た目だし、動物の赤ちゃんみたいに小さくて可愛らしいとは思う。

 色だってカラフルで、七色の金平糖を眺めているようだ。

 だから、そう表現されることは納得できる。

「うーん」

 けれど、これが本物の"生き物"かどうかを考えると、首をかしげてしまう。

 私のまん前で繰り広げられている絵本的・少女マンガ的な和やかな一コマは、あろうことか紛れもないリアルであり、マスコットは間違いなく"生きている"らしいのだけど……。

 私は、未だにそれを信じることができない。

『さあさあ、くぐってくださーい!!』

 しかも、この陽気な生物たち、人間の言葉を喋るときた。もうわけがわからない。

「……っ」

 そんな摩訶不思議な小動物、マスコット。

 彼らが、豆粒みたいな手と手を取り合って作り出した虹色のゲートを、少女は颯爽とくぐり抜け――

 大いなる幸せに満ちた夢への一歩を踏み出しましたとさ。

 めでたし、めでたし。

「……なーんて、是非ともここで終わらせてあげたいけど」

 残念ながら夢の続きとやらが、これから始まってしまうわけで。

 今まさに夢の島"マスコッ島"に降り立った少女の、純粋無垢な期待に満ち満ちていている無駄極まりない憧憬と、夕空に浮かぶ一番星のような見苦しいオーラを纏った姿が、これからどう変貌していくのか。

 私はこうして草葉の陰から監視していかなければならないわけで。

「まーせいぜい、絶望すればいいよ」

 気付かれないようコソコソと気配を消していた自分が馬鹿らしくなってきて、思わず本音が口からポロリ。

 聞かれてしまってもおかしくないくらいのボリュームだったから、ちょろっと焦ったけど、そんな私に少女は感づきすらせず……。

「まったく、夢見心地のようね」

 どうやら少女は、完全に周りが見えていないらしい。

 こんなんじゃ、この先どうしたものだか。

「……別にいっか」

 ま、しばらくは生暖かく見守ってやろうじゃないの。どうせこれから、少女は知ってしまうのだから。


 ここ、世界的テーマパーク、"マスコッ島ランド"の真実を。


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