3.お願い!? デンデンさん、ピエロさん!?
歩き始めてから休憩の時間も合わせて、かれこれ10時間が経ち――
「ちょ、まずいわね。マスコット界の夜がこんなに暗いなんて」
日が落ちて、あたりは真っ暗になってしまいました。
「ですね……」
「あ、そのタブレットに懐中電灯みたいな機能ないの? ピカーってなるやつ」
「さっきすみずみまで探しましたが、そんなものは無いみたいです……」
といいますか、あったらとっくに使ってます。
「ちょ、なにそれ、いまどきケータイでも付いてるのに??」
「なんか、すみません」
「ちょーつっかえないわねー。でもこの暗さ、明かりがないと危ないったらありゃしないわよ?」
「ですねー。どうしましょう」
クロエさんの言うとおり、暗闇で3mくらい先はもう何も見えません。
時間が経つにつれて、どんどん見える範囲が狭まってきていますし、暗がりに目が慣れてくれば大丈夫という具合ではなさそうです。
このままでは、歩くのを中断せざるを得ません。
「ちょろーっと貸してみ、タブレット。見落としてる機能あるかもだし」
「そ、そうしたいんですけど、これわたしの指しか反応しないみたいなんですよね」
もちろんこれは嘘です。
わたし以外にもこのタブレットは操作できます。
どうして嘘をついたのかというと、これを渡してしまったら最後、この"本土のスパイ女"に何をされるか分からないからです。
「あそ、だったら横でこうして見てるからさ、私の言うとおりに動かしてよ」
なんて図々しい。
そこまでして確認したいのですか。
「はあ、それならまあ……」
まあでも、嫌がって断るくらいでは通用しないことは分かってきましたから、とりあえず言われるがままにしてみますか。
「やっぱ気になるのは、この電話マークのアプリよねー。ちょろっとタッチして」
「はいはい」
「んで、フレンドのサムネイルみして」
サムネイルというのは、一覧用の小さな写真のことです。
「はい……ていうか顔、近すぎますよ」
前のめりになって画面を食い入るように見つめるクロエさん。
タブレットの半分はクロエさんの後頭部で隠れて見えなくなっています。
「あーわたしさ、眼があんまし良くないのよ。モニター見えにくいかもだけど、ちょろーっと勘弁して」
「……なら、仕方ないです」
わたしとしては画面が見えにくいことよりも、そのさらさらな黒髪がいちいち主張してくるのが目障りなだけなのですが。
というか、なんでこんなにいい匂いがするのですか。バラの香水ですか。
これはこれで、お母様とはまた違った種類の豊かな匂――
いやいや、そんなことはどうでもいいんです。
「やっぱビンゴだわ。これミミさんの写真はパンのミミになっちゃってるけど、デンデンさんとピエロさんってやつはまだ正常な写真のままよね」
「……ですね」
「ならさ、デンデンとピエロにはまだ何かしら助けてもらえるんじゃないかな」
あ。
なるほど。
「ミミさんを呼び出して、パンのミミが出てきたようにですか」
「そゆことー。カンペキじゃないにしろ、何かしらね」
単純な事ですが、盲点でした。
「じゃあさっそく――」
「ちょーーー! まった!」
「はい?」
「ミントゲーツ。アンタちゃんと考えてから呼び出しなさいよ。さっき留守電になったとき、食べ物を願ったように強く念じなきゃでしょ?」
「あー」
そっかそっか。
これまた一本取られました。
「じゃないと何も起こらないと思うのよ、こいつの原動力ってセルメントの力でしょ。さらに言っちゃえば、さっきみたいに完璧な魔法や召喚は見込めないわけだし」
危ないところでした。
「一理ありますね。でもそうしたら何を願いましょう」
「んー。デンデンさんのセルメントは何?」
「たしか、ガイドとかルートを……」
「ちょ、それよそれ!! なんで今まで思いつかなかったのよ、もー。それってリンボへの道案内を願えばいいだけじゃない!」
「実は、わたしも少し前にそれを考えたんですけど」
「ちょ、けど何よ?」
「ガイドとか案内って本人が出てこれないと、どうにもならないなーと」
本人を呼び出せないこの状況では、意味の無い願いになってしまうのです。
「言われてみればそうね……でもほら、代わりに地図が出てきたりするんじゃない?」
「地図が出てきたところで、ここ一帯は何も目印がないんですよ、現在地がわかりません」
見渡す限りまっさらな世界に、地図は無意味です。
「ちょ、じゃあタブレットの画面にGPSとかで現在地がわかるマップのアプリを出してもらえばいけるわよ!」
「それ、願いのレベルが複雑すぎて無理だと思います。それができるならミミさんの時に極上ランチやディナーが出てきてます」
今この場所でできるのは、おそらくパンのミミ程度のセルメント……。
「ちょ……ミントゲーツもたまには冴えたこと言うのね」
「思ったことをそのまま言っただけです」
「ちょろーっとは考えられるのね。まあ正論だわ。となると、んーどうしよっか」
つまり、万事休す……。
「なので、ここはいっそのことダメ元です。物は試しに――」
「ちょーーー!! だから、もうちょろっと考えてからにして!!」
「でも、どうするんですか」
「だったら……別の角度からも考えるのよ。ピエロさんのほうは? セルメント何よ」
「マジックです」
ざっくり。こう考えるとセルメントって色々ですね。
「ちょ。もう何でもありって感じかー。いっそのことドロンってテレポートでもしてくれたら助かるけど」
「それ、パンのミミクオリティで考えたら、テレポートが発動した瞬間に小指の爪だけペロっと剥けて何処かへ瞬間移動しそうですね」
「ちょちょちょ……! 痛すぎ、やめて。拷問な上にありえそうだからやめて……」
「はい。わたしも言ってから後悔しました」
二人して顔をしかめてしまいました。
「……」
「……」
はてさて、どうしたものか。
「よし決めた。ある程度、根拠のある賭けに出るわよ」
「コンキョのあるカケ、ですか?」
「セルメントの中でも、更にマスコットの得意分野をピンポイントで狙うってのはどう?」
はあ。
「というと?」
「アンタはミミさんに"食べ物"っていう大雑把な願いをしちゃった。だからあんな結果になった」
なるほど。
「もし、ミミさんお得意の"オムライス"が食べたいと願っていたら……」
「そ、叶ってたかもしれない。得意分野ほどセルメントは強くなるからさ、ここに届きやくなるはず」
「たしかに」
「ってことで、マジック。あの日のピエロのショーで一番すごかったやつを願いましょ。なんだと思う?」
そういえばクロエさんもあの日のショーを見ていたんですね。
「うーん」
「私は一択だけど」
あ!そうか。
「わたしも一択でした」
「じゃ、答え合わせよ、いい?」
「いいですよ」
「「せーの」」
「グランドフィナーレ」「クライマックス」
「バラバラ……」
「……ちょまー、同じ意味ではあるわね」
「あー。そうです。もっと限定して、あの最後の演出で何が凄かったのか、なら……」
「やるわね。それなら、今度こそ同じだと思うわよ」
「しかもとっても有意義ですね」
「そゆこと。んじゃいくわよ」
「「せーの……」」
「「光!」」
「……」
「……」
「決まりね」
「ですね」
※ ※ ※
「ちょー明るい!」
「やりましたね」
結果は見事、成功でした。
タブレットから一直線に光が伸びて、足元を照らしてくれています。
クロエさんはちょーと言っていますが、わたしからすれば最低限の細い光。
でもこれなら何とか歩き続けられそうです。
「これで安全ね。そろそろ寝むたいけど」
「もう少し頑張りましょう」
「そねー。せっかくセルメントが成功したわけだし」
「はい」
「さーて、残るはデンデンよねー。案内に得意も不得意もないだろうし困ったわねー。なんかないのミントゲーツ」
「うーん」
「何でもいいわよ。とりあえずテキトーに言ってみなさいよ」
「……デンデンさんはハトみたいです」
「他」
「デンデンさんは、喋るときよく同じ言葉を2回繰り返します」
「んー。他~」
「あとは……島に戻ってきてから一番に友達になれました」
「あー、すぐ友達にねえー。ずっと他人の道案内してるわけだし、仲良くなるのが得意ってのはあるか」
「でもそれってガイドのセルメントとはちょっと違いますよね」
「ま、そねー。言うなれば得意能力じゃなくて特殊能力って感じね」
「特殊ですか……」
「仲良くなる特殊能力か…………あ」
「どうしました?」
「ミントゲーツ。タブレット、また電話マークのアプリ開いて」
「え、はい」
「デンデンをタッチしてそのまま長押し」
「長押しですか。よっと……って、並び順を上下に動かせるようになりました」
こんなことできるんですね。
「ちょ、やっぱ知らなかったか。そのまま下にスライドしてピエロの上に乗っけて」
「こうですか」
「そ。んで指を離す」
「はい……ん?」
「ビンゴ。出たわね」
「"友情タッグを発動しますか?"って……」
なんと。
「前にオーナーがやってるのを見たことがあるのよ。仲いいマスコットはタッグができる。きっとデンデンならほとんどのマスコットとできるんじゃないかと」
「すごい……ピエロさんとデンデンさんの合わせ技ってことですか」
「正確には、友情タッグ・セルメントコンボって言うらしいわね」
初めて聞きました。
「友情タッグ・セルメントコンボ……これで"YES"を選べばいいんですね」
「そそ。何を願うかは、当然決めてるわよね?」
「……」
「……」
「……今、決めました」
「ちょ、頼むわよ。まったく頭いいんだか悪いんだか……」
「では、いきます」
「……うん」
「ピエロさんデンデンさん。友情タッグ・セルメントコンボ! リンボを光で指し示して!!」
『……ピッピッピエロ、デンデンデーン――!!』
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