2.誓いを光に!! ―最終話(前)―
『ミントちゃん。いこう?』
行こうって?
わたしはもう一番行きたい場所(リンボ)に来ちゃいましたから、そんな必要はありません。
『ちがうよ。こーえんとかこーみんかんとか。それとも、わたしのおうちににくる?』
ああ、あなたは本土の学校の生徒ですね。
何を今さら。
あなたは、わたしを裏切ったじゃないですか。
『あのときは、そうするしかなかったんだよ……』
なんですかそれ。
そんなの、あなたがあなたのためにやったことですよね。
そんな身勝手な人が言う事、信じられません。
『じゃあ、どうすればしんじてくれる?』
そんなの知るわけないです。
だって信じられないものは信じられないもの。
『じゃあ……もういっかいだけチャンスをください……』
いやです。
嫌に決まってるじゃない。
『わ、わたしと……おともだちになってください……!』
そんな見え見えのウソ。
興味、ないですから。
『ちょっとまって! ミントちゃん!』
『ごめん。ごめんなさい。だからちょっとだけでもはなしをきいて……おねがい……』
『ちょっとだけ……ちょっと……』
『ちょ…………』
ちょっと、まって。
なんですか、これは。
彼女は最後になんて言いました?
"ちょ"って言いましたよね。
これは過去、わたしの友達だった人がクロエさんでしたということですか?
そんなのは、絶対にあり得ません。
今だってあの三人の顔と名前は思い出せますけど、クロエさんではないと自信を持って言えますから。
それにそもそも、お友達になってくださいなんて、言われたことないですし。
なんですかこれは……。
夢? それともわたしの願い?
たしかに、あんな人がいたら、少しは本土の印象が変わってたかもしれないですけれど。
いいえ、それどころか、あの学校にクロエさんみたいな人がいれば、違う今があったのかもしれませんが……。
※ ※ ※
ここは――?
水の中……。
そっか。急に地震が起きて、洞穴なかに水が流れ込んできて。
部屋がたちまち水に飲みこまれたのでした。
そしてわたしは気を失ってしまって、あの夢を見ていたんですね。
「あれ、息ができる……」
どうやらマスコットタブレットから発せられる光に包まれているおかげで、水の中でも窒息せずに済んでいるみたいです。
両手を大きく伸ばしながら泳いでみましたが、いくら泳いでも水は海のように果てしなく続いています。
進んでも進んでも周りは夜のように真っ暗で、私はさながら夜の海の中を漂う……。海ほたるそのものでした。
「まさかわたし自身がこうなるなんてね……」
さて、少なくともここは、あの洞窟穴の中ではなさそうです。
かなり遠くまで流されたのでしょうか。
「どうしよう……」
どれだけの間、気を失っていたかはわかりませんが、マスコットタブレットの力で息をすることができる時間には、限りがあるはずです。
セルメントは有限ですから。
いち早く、水の外に出なくてはいけません。
「でも……」
自分の身の安全よりも先に、クロエさんやクマ太郎を見つける必要があるのではないでしょうか。
わたしはこうして息ができますが、彼女たちがそうとは限りません。
なんとかして、助け出さないと。
でも、どうやって?
水は深く広く続いています。
この中を泳いでいって二人を探すのは到底不可能でしょう。
だとしたら、いっそ……。
「この水自体を消しちゃうとか?」
どうしてこんなこと、真っ先に思いついたのでしょうか。
「それしかない」
しかも、根拠のない自信までついてきています。
今のわたしならこの大量の海を消すことができるという確信があります。
肝心の方法が分かりませんが……。
いや、分からないのであれば考えるのです。
セルメントの力が許す限り――
そもそもです。
この水は何でしょう。
この世界の水。
リンボに流れ込む水を、わたしはどこかで見たことがあります。
そうです。
クマ太郎がスライドショーで見せてくれた、巨大な月から流れ出てきた水です。
それ以外にリンボに水が流れてくる原因をわたしは知りません。
だとしたら、あの写真について考えてみましょう。
あの写真では、水は砂漠を浅瀬に変え、リンボのマスコットさん喜び、飲めや歌えやの大騒ぎをしていました。
そんな中で、ひときわ印象に残っているのが、倒れ込んでいるマスコットさんが手厚く救助されいた写真でした。
浅瀬の中で気絶するマスコットさんたち。
そのマスコットさんは、まるで……。
「あれって、マスコット界に来たときのわたしたちと同じだったんだ……」
わたしとクロエさんもこの世界にやってきたとき、浅瀬の上で気を失って倒れていました。
ということは、セルメント・デイというのは"ゲートが開く日"ということにならないでしょうか。
そして、本来ゲートが開かれる時が一年に一回だけだということを考えると――
年一度の放水が二回も起きたら、洪水が発生する……。
そして、もう一つ。
そもそもゲートが開く意味って何なんでしょう。
それはマスコッ島とマスコット界を繋ぐため。
繋ぐ理由は?
もちろん世界を行き来するため。
ということは……。
スライドショーで見た、浅瀬で倒れていたマスコットさんは、リンボ行きになった"不合格のマスコットさん"ということ。
これで話が繋がります。
クマ太郎もこの水と一緒にマスコット界に戻り、リンボまで流されてきたのでしょう。
だとしたら、この水は言ってしまえば"不合格の水"とも言えるわけです。
不合格。
落選。
選ばれなかったマスコット。
選ばれなかった水。
選ばれなかった世界。
そうか。
わたしがさっきまで見ていた夢は、現実では絶対にありえないことでした。
さらには、この水にマスコットタブレットによるセルメントの力が加わることによって発生した、副作用のようなものなのではないでしょうか。
そして、不合格になったマスコットさんと、絶対にありえない夢。
この2つには何かしらの共通点があるからこそ、現実世界からこのマスコット世界へと流れ出ているのです。
それは――
「どちらも現実の世界で、選ばれなかったということ……」
だとしたら。
この水はすべてセルメントに変えることができるのではないでしょうか。
今わたしの周りを取り囲んでいる光のように。
うん。できる。
やってみせる。
どうして、こんな壮大な考えを思いついたのかはわかりません。
わたしにしては心なしか頭の回転が速いような気もします。
ですが、なぜだかそうだとしか思えないのです。
そして、そう結論が出た以上、マスコットタブレットを両手でしっかりと握りしめ、強く願う他ないのです。
「お願い。この水をすべて、セルメントに、光に変えて……!!」
反応は、なし。
でも、諦めてたまるものですか。
マスコットタブレットがあるから、わたしの周りだけ水がセルメントの光になって息ができているんです。
だったら、この水を全部セルメントの光に変えることだって、できるはず。
「お願い! みんなを、助けたいの……!」
自分は、どうなってもいい。
「わたしは、友達を助けたいの……!!」
そして――
押し寄せる水圧に負けて、自分の体が潰されていくのを感じながら。
視界はわたしの放つ、黄緑色の光に満ちていきました。
―――
――
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