第15話 ミッション遂行

 いよいよ現実にミッション遂行です。それは土蜘蛛星人の女王蜘蛛に天誅を加える。その実行を開始することです。

 そして、その前夜、京都の秘密基地でさらに調査したり準備したりしました。そのためほとんど徹夜となりました。

 そして夜が明け、扉を通って、私たちはそれぞれの東京の部屋に一旦戻りました。そこでしばらく身体を休め、昼前に全員、私のアパートに集合しました。昨夜はほとんど眠らずの一夜だったわけですが、疲れたなどと言ってられません。


「さあ、出発するぞ!」

 私はそう声を掛け、用意しておいたいろいろな小道具をどっさりと私のオンボロ車に積み込みました。そして四神倶楽部の使命感に燃えたみんなを乗せ、アクセルを踏み込みました。向かう先はもちろん富士山麓の現地です。

 そこに広がる青木ヶ原樹海、その深い原始林の森の中に大室山があります。そして、その麓に三つ洞窟、すなわち富士風穴、本栖風穴、大室洞穴があり、それらを結んだ三角形の中心に世間では未だ知られていない百鬼洞穴があります。

 私たちは調べてわかってました。土蜘蛛星人の女王はそこの地底深くに潜っているのだと。


 私たちはまず富士五湖の西湖へと車を走らせ、そこから71号線を5キロほど南下しました。そしてその地点から徒歩で、1キロメートルほど先にある百鬼風穴を目指しました。

 距離はそれほどないのですが、帯磁した鉄分含有の溶岩で磁石はまったく働きません。その上に鬱蒼と茂る樹木で先を見通すことができず、また360度見渡しても同じ森の風景です。これにより簡単に道に迷い、樹海からは出てこれない危険があります。

 また視界不良で、果たして目的地の百鬼洞穴に辿り着けるかどうかも危ういものです。


 しかし、私たちにはグリーンスターから持ち帰った知能昆虫ロボット、インセノイドがいます。私はリュックサックに収めていた小さなケースから蜂インセノイドを取り出しました。

 悠太はそれを受け取り、タブレットPCから位置誘導プログラムを作動させ、目標位置ならびに現位置のXYZ座標信号を送りました。そして、蜂インセノイドの赤目が点滅するのを確認し、空中へと放ちました。


 蜂インセノイドは久々に飛べるのか、嬉しそうにあちらこちらへと飛び回っていましたが、しばらくしてから私たちの前へと来て、羽をぶんぶんと鳴らせてのホバリングです。

 それから私たちの歩調に合わせて道案内をしてくれました。結果として、私たちは正確に、より樹海の奥へと入って行くことができたのです。

 そして、2時間ほど木々の隙間を縫って歩き進んだでしょうか、この近辺にすでに魔鈴からの宇宙カプセルが着陸しているはずです。私たちは蜂インセノイドに、目指す目的地を宇宙カプセルと指令修正しました。

 空中をぶんぶんと飛ぶ赤目の蜂インセノイドは原生林の上方へと高度を上げ、そして位置を確認したのでしょう、その後私たちの面前へと飛び戻ってきました。それから若干の前進角度を変え、私たちの道先案内をしてくれました。


 その後、3、4分は歩いたでしょうか、ミッキッコが指をさし、「龍斗、カプセルって、あれじゃない」と声を発しました。

 私たちはミッキッコが指さす方向を見ますと、木々の合間に小さな沼があり、その水辺にオパール色に輝く、高さ5メートルくらいの宇宙カプセルを発見しました。私たちは一斉に早足で歩み寄って行きました。そこは沼の横にある20メートル四方に開けた場所でした。


「20光年先の宇宙から、よくこんな小さな空間に、ピンポイントで軟着陸できるものだなあ」

 私はその技術の高さに感心しました。

「さっ、みんな、このカプセル、早く開きましょうよ」

 佳那瑠が張り切ってます。それに「そうだな」と返し、私たち4人は、昨夜魔鈴が教えてくれた通り、守り玉を持ってカプセルを囲みました。するとどうでしょうか、シュワーという音とともにカプセルのドアーが開いたのです。

 私たちは依頼していた機材や部材が、その中に格納されているかどうか確認するため中へと入って行きました。そして要求していたものはすべて確認でき、もう百人力を得たようなもので心強かったです。


 私は早速その中からナノチューブのロープを取り出しました

「200メートルほど先に百鬼洞穴があり、それは三洞窟の三角形の中心に位置する。そしてここはその三角形の外だよなあ。まあ安全だと思うけど、まずは念のために、先にあれをやっちまっておこう」

 私はそのようにみんなに指示を飛ばしました。

 するとミッキッコが私のそばに寄り添ってきて、「そうね、龍斗、あれね、そうしないと私恐くって……」と半泣き状態です。一方その横にいる悠太と佳那瑠、当然すべてを飲み込んでいるのか、さっさと手渡したロープをほどき始めてます。


「さあ、ミッキッコちゃん、ここを持って、このロープを木の枝に絡めながら、この沼も含めて、大きな円を作ってちょうだい。それからミッキッコちゃんは朱雀さんだから、南に立ってよね」

 佳那瑠がミッキッコに話しました。ミッキッコも早くあれを作ってしまいたいためなのか、「ちょっと恐ろしいけど、やってみるわ」と言い、ロープの先端を掴み、それを持って沼の向こうへと走りました。そして私たちも一緒になって、広場を囲むように作業し、最後にロープの先端をどうしを結び合わせました。


 私は「ロープを木に絡めながら、ピンと張って」とみんなに叫び、中にカプセルを置いた状態で、径が40メートルほどの大きな円を作りました。

 それからです、ミッキッコは朱雀だから南の位置に、悠太は玄武で北に、佳那瑠は白虎、だから西に位置取りしました。そして私は青龍ですから、みんなと同じようにナノチューブのロープを持って、東の位置に立ちました。

「さあ、守り玉を中に向かってかざして!」

 私のこの呼び掛けで、4人は同時に持った玉を円の中央に向けました。するとこともあろうか、稲妻がピカピカと空から円内へと走りました。

「これで結界が張れたぞ。円の中は聖域だよ。さあ、みんな中に入って、これで安全だよ」


 昨夜、魔鈴から結界を張りなさいと助言をもらい、そして伝授してもらったその張り方、それは一種の儀式のようなものでした。

 しかし現実に、この樹海の中に円のゾーンを作りました、つまり広い魔界の中に聖域を作ることができたのです。これで邪悪な土蜘蛛星人は聖域から発せられる霊気に妨げられ、入ってくることができないでしょう。

「わあ、この中にいると、私、なにか清々しい気分になるわ」

 ミッキッコが安心したのか、声が上擦ってます。そんなミッキッコに私は気を留めることもなく、「さあ、まだまだ作業があるよ。佳那瑠さん、カプセルの外壁に京都の秘密基地へ繋がる扉を貼り付けてくれないか。それと悠太とミッキッコは、俺と一緒に機材を準備するから」とみんなに指示を飛ばしました。

 佳那瑠はそれを受けて、「イエッサー」ともうカプセルに向かって呪文を唱えてます。また残り3人は、カプセル内から機材を外に持ち出し、地表に並べました。


 こうしていろいろな準備をし始めて、しばらくの時間が経過した時です、佳那瑠が「扉がやっと貼り付いたよ」と報告をくれました。私たちはこれで京都の秘密基地へと扉を通って入って行くことができるようになりました。

 この遠く離れた樹海の中にありながら、京都の秘密基地のすべてのシステムが使えるようになったのです。言葉を換えれば、この樹海の中に結界が張られた40メートルの円内、そこは京都の本拠点の出張所のようになったのです。


 そして私たちはケースから、大きさは25センチくらいはあるでしょうか、2匹の古代蜘蛛、そのインセノイドを取り出しました。それへの通信をONとし、赤目が点灯したことを確認し、インセノイドに蜘蛛の巣作成の指示を出しました。

 糸はもちろんナノチューブで、径1ミリのものを選びました。その太さであれば、たとえ1本でも1トンの外力に耐えられます。

 そんな強い糸で二重にも三重にも織った蜘蛛の巣、相手がたとえ5メートルもある土蜘蛛の女王であっても、一度絡まればそれを破り脱出することは不可能です。それほど強い蜘蛛の巣なのです。


 そして大きさは、大きな女王蜘蛛がすっぽり包み込んでしまうことができるように、直径20メートルと設計しました。

 悠太がナノチューブの巻かれたドラムから糸を引き出し、その先端を古代蜘蛛のインセノイドに掴ませました。そこからせっせと巨大な蜘蛛の巣を編み出したのです。そして2匹の古代蜘蛛の効率の良い組作業で、なんと1時間弱で完成させてしまいました。


 その後、グリーンスターから送られてきた300羽のカナリヤのアニマノイドを作動させました。そして、この巨大な蜘蛛の巣に、私たちが絡まらないように気を付けながら、カナリヤたちにくちばしで摘ませました。

 それからカナリヤたちは一斉に飛び立ち、蜘蛛の巣が広がった状態でふわりと持ち上がりました。そして、女王蜘蛛が潜む百鬼洞窟の入口へと遠隔操作で運ばせ、そこにしっかりと張らせました。

 魔界王ネット百科事典の情報では、土蜘蛛星人は聴覚能力や電磁覚能力は高いが、視覚能力は低い。大きさ1センチ以内の物は視覚識別できません。したがって、径1ミリメートルの糸は見えず、それで編まれた蜘蛛の巣は認識できないはずです。


「お兄さん、今到着したよ」

 ここまで女王蜘蛛退治の準備を進めている時に、私たちの背後から声が掛かってきました。私たちはその声で振り返りますと、そこにはカプセル内から飛び出してきた魔鈴が立っていました。

「魔鈴、よく来てくれたね。ところで、どのようにして、ここまでやってきたの?」

 私はなぜ魔鈴がカプセルから出てきたのか不思議で尋ねました。すると魔鈴は、ブルーの作業服をすでに着用していて、その裾を引っ張りながら教えてくれました。

「もちろん、宇宙貫通カプセルに乗ってよ。このカプセルは二重構造になっててね、同じ道を通って、このカプセル内に到着できるように設計されてるのよ」

 私は「ほー」と驚くしかありません。まあそれはそれとして、今はその高度な技術の解説を受けてる場合じゃないです。


 私は魔鈴に、「早速だけど、あの子の組み立てお願いね」と頼みました。魔鈴はそれに快く、「あの子の部材は運んで来たから、それで頑張ってみるわ」と言い、「ヨシ!」と気合いを入れました。そして休憩を取ることもなく、すぐに作業に掛かってくれました。

 私たち4人も精一杯あの子の組み立ての手伝いをしました。そして2時間ほど掛かったでしょうか、完成しました。


 あの子は今、私たちの面前に威風堂々の姿を見せてくれています。これは本当に感動ものでした。

 そのあの子とは、グリーンスターの大空に悠々と飛翔していた──翼竜のケツァルコアトルスです。

 翼の開長が10メートル。もちろん動物の知能ロボットのアニマノイドで、緑目をしています。

 時々「ニッ」と笑ってくれて、もう可愛いったらありゃしません。


 そんな翼竜を私が太郎と呼び掛けていたら、「この子、太郎じゃないわ、女の子よ」とミッキッコが文句を付けてきました。それに佳那瑠が横から「太郎じゃ嫌だよね、花子ちゃん」とあの子を撫でています。まあ、これで名前が決まってしまいました。

 魔鈴はそんな花子に頬ずりをし、「花子を、お兄さんにプレゼントするから大事にしてやってね。じゃあ、私帰るわ。グッドラック」と言い、カプセル内にあるカプセルに乗り込んで、さっさと帰星して行きました。


 魔鈴がいなくなり少し寂しい気分にもなりましたが、私たちはそんな感傷に浸っている場合じゃありません。まだやるべきことがたくさん残っています。

 そして、次にやるべきことは百鬼洞窟内の探索です。

 誘拐された4人の幼稚園児とバスの運転手、それに1人の保母さん、さらに若きニューリーダーの坂本氏、彼らは百鬼洞窟の地底のどこかに捕まっているはずです。


 百鬼洞窟の中の構造はどのようになっているのか?

 そして、働き蜘蛛がどれくらいいて、また兵士蜘蛛の数は?

 さらにターゲットの女王蜘蛛はどこにいるのか?

 これらを調査する必要があります。

 悠太がケースより3匹のコウモリのアニマノイドを取り上げ、空へと放ちました。悠太はこれらを操作し、百鬼洞窟内へと侵入させたのです。

 私たちは佳那瑠がカプセルの外壁に貼り付けてくれた扉を通って、京都の秘密基地へと戻りました。そして、そこでコウモリがキャッチする音波情報を視覚映像に変換し、スクリーンに映し出しました。


 コウモリのアニマノイドは洞穴を飛び、どんどんと地底へと潜り込んで行きます。そして地表から200メートルも入ったでしょうか、そこには近代的な町のようなものがあり、赤黒の縞模様のある土蜘蛛星人たちがウロウロとしていました。

 ざっと目測すれば軍服を着た兵士蜘蛛が約100匹、そして働き蜘蛛が500匹くらいはいたでしょうか。しかし、どだい蜘蛛の形ですから、私たちは反吐が出そうなほどの嫌悪感を覚えました。


「ねえ、あっちの方に大きなシェルターのようなものがあるわ、あそこにコウモリを飛ばしてみて」

 ミッキッコが悠太に頼むと、悠太はまるでゲームを楽しむかのように、いろいろな飛行技を使い、3匹のコウモリのアニマノイドを侵入させました。

 その一番奥に電灯でも点いているのでしょうか、ぼんやりとした部屋がありました。そしてそこへ潜らせますと、なんと誘拐された園児や他の大人たちがそこで軟禁されていることが判明しました。


「ああ、無事だったようね。早く助けて上げましょうよ」

 佳那瑠がもう黙ってられないという風に立ち上がり、今にも駆け出しそうです。

 私は「ちょっと待って。俺たちの突入は女王蜘蛛をやっつけてからだよ」と佳那瑠を制止しました。そんな間にも悠太は、3匹の内の1匹のコウモリを操作し、より地底へと伸びているトンネルへと侵入させました。

 そこにはケーブルカーのレールのようなものが敷かれていて、それに沿って巡行速度を最大の毎時50キロメートルまで上げ、約10分ほど飛ばしました。そして地底8キロメートルの位置までコウモリを下ろしました。


 そこには30メートルくらいの空間があり、その中央に大きなガラス箱のようなものがありました。それはどうもケーブルカーの車両のように推察されます。そしてその内部を覗いてみますと……、いたのですよ。土蜘蛛星人の女王蜘蛛が。

 女王がいるガラス箱内をコウモリに赤外線チェックさせ、温度情報を取りますと、摂氏25度程度でした。多分、空調を利かせてるのでしょう。

 しかし、ガラス箱の外壁は100度近くありました。こんな状態から察するに、マグマ溜まりはかなり近いかと思われます。

 そしてさらに詳細に観察を進めますと、ガラス箱の前方に縦トンネルがあります。女王蜘蛛が重機を遠隔操作し、そこをより地下へとボーリングし、縦穴を掘り進んでいるのです。


 この状況から読めてくること、それは女王蜘蛛がマグマ溜まりを掘り当てようとしている。つまり縦穴を使って、まるで原油が一気に噴き出すかのように、富士山の噴火をさせようとしているのです。

 女王蜘蛛はマグマが噴き出した時、そこのケーブルカーでさっさと上のシェルターへと逃げるつもりなのでしょう。

 最近富士山が大きな噴煙を上げました。これは女王蜘蛛の作業が順調に進んでいて、富士山噴火の前兆なのでしょう。


 いずれにしても、土蜘蛛星人の女王蜘蛛の目的は、富士山の大噴火させ、日本を騒乱状態に導く。そして、それに乗じて日本を乗っ取ってしまうことです。

 もうここまでその事実を確認すると、私たち四神倶楽部としては許すわけにはいきません。

「さあ、ヤツを退治してしまおう!」

 私は怒りで大きく声を張り上げました。みんなも同じ義憤を感じているのでしょう、「っちまおう!」と声を上げました。


 私たちが練り上げてきた策、それは女王蜘蛛を地底からおびき出し、百鬼洞窟の入口に張ったナノチューブの蜘蛛の巣で絡め捕ろうというものです。そのためにはおとりがいります。その段取りのために、私たちは秘密基地から樹海の結界内へと戻りました。

「龍斗、この子たちまるまる太って、ホント美味しそうだわ」

 ミッキッコはカプセル内から、囮のアニマノイド3羽を抱えて出てきました。私はそれを見て、美味しそうというより美しいと思いました。ミッキッコはちょっと私とは視点が違うようです。


 囮となる3羽のアニマノイド、頭に赤い冠を被り、尾は赤く長く、もちろん目はエメラルドグリーンです。そして姿全体は黄金色に輝き、キラキラと火花を散らせてます。

 そんな囮たち、そう、それは女王蜘蛛の大好物の──火の鳥です。

 私たちの作戦は、このアニマノイドたち、3羽の火の鳥を地底深くまで飛ばし、憎き女王蜘蛛を地表までおびきだそうというものです。


「うまくいくと良いけどね」

 私がちょっと自信なげに漏らしました。するとミッキッコがえらい剣幕で「龍斗、なに言ってんのよ。魔鈴さんが私たちのために、一番高度な知能をこの子たちに搭載してくれたのよ。魔鈴さんは妹さんでしょ、もっと信じてあげなさいよ」と叱責してきました。

「うん、そうだな」

 私はミッキッコに怒られてそうとしか返せません。そんな時に、準備万端となったのか、悠太が「頑張ってこいよ!」と火の鳥のアニマノイドを百鬼洞窟へと放ちました。火の鳥たちは実に優雅にひらりひらりと入口へと飛んで行き、穴へと入って行きました。


 私たちは再び秘密基地へと戻り、火の鳥たちが感知する視覚情報をスクリーンに映し出しました。それを見てやきもきしながら、少し時間が掛かりましたが、火の鳥たちは女王蜘蛛のいる地底まで辿り着きました。

 もちろん火の鳥ですから、そこはマグマ溜まりの近くで高温ですが、別に問題ありません。


 それから3羽の火の鳥たちは、女王蜘蛛が入ってるガラス箱の前で優雅に舞い始めました。女王蜘蛛が火の鳥を見付けたようです。その証拠に、ガラス窓に蜘蛛の目を貼り付けてます。

 火の鳥たちはそれを確認し、長く美しい尾羽を振り振りさせながら、ゆっくりと上方へと舞い上がって行きます。それに魔法を掛けられたかのように、女王蜘蛛が乗るガラス箱のケーブルカーが上昇し始めました。


「おっおー、あいつ、引っ掛かったぞ!」

 私たちはもう拍手です。そして火の鳥は巧みに土蜘蛛星人の悪の首謀者を地表へとおびきだしたのです。

 もちろんそこまでの間、たくさんの兵士蜘蛛が火の鳥に襲い掛かろうとしました。しかし、火の鳥を捕まえて食べることができるのは女王蜘蛛だけです。他の蜘蛛たちは火の鳥を殺すわけにはいきません。また、たとえ襲い掛かったとしても、火の鳥ですから熱く、反対に焼き殺されてしまいます。そんなことで兵士蜘蛛たちは、ただただ傍観しているだけでした。


 百鬼洞窟から現れ出てきた女王蜘蛛、久しぶりの外界なのか初め茫然とし、しばらくじっとしていました。そんな目の前で火の鳥は優美に、いや実に美味しそうに舞い続けています。そして、満を持して女王蜘蛛は火の鳥に飛び掛かりました。

 確実に10メートルはジャンプしたでしょうね。しかし、火の鳥たちはまことに素早かったです。翼を一振りすると同時に羽根を折り畳み、まるでロケットのように一直線に天空へと飛び立ちました。


 バシャバシャバシャ。

 土蜘蛛女王がナノチューブの蜘蛛の巣に掛かりました。8本の足や頭に糸は絡まり、藻掻もがいています。しかし藻掻けば藻掻くほど糸が纏わり付いていってます。

 さすがナノチューブで編まれた巣、強くて破れません。

 そこへ待ってましたとばかりに、300羽のカナリヤのアニマノイドたちが飛んで行きました。そしてくちばしで巣の縁を摘み、暴れる女王蜘蛛を大きく包んでいきました。


「さっ、今だ! 飛ばそう」

 私はそう指令を発しました。悠太は「よっしゃ!」と声を出し、操作を始めました。

 そうです、それは魔鈴が宇宙貫通カプセルに乗って、わざわざここまで来て、組み立ててくれた翼竜、ケツァルコアトルスのアニマノイドです。

 名前は花子、鋭い緑目をギラッと輝かせ、10メートルの翼を広げました。そして、なぜか私たちにニッと笑い、ブワッブワッと羽音を轟かせ飛び立ちました。

 花子はあっという間に百鬼洞窟の入口まで飛び、巣に絡まった女王蜘蛛を巣ごと鋭い爪で摘み上げ、樹海の大空へと舞い上がりました。


 翼竜から送られてくる映像には、眼下に広がる青木ヶ原の樹海が広がってます。そして北へと飛行を続け、7キロメートルほど飛んだでしょうか、湖の上へとやってきました。

 高度は1,000メートルです。花子はそこで3回の旋回をしました。

 風向きや風速、そして吹き上がり状態などの情報をインプットし、落下軌跡を精度良くシュミレーションし、狙いを定めて巣に絡まった5メートルの女王蜘蛛を放ちました。


「あっあー、土蜘蛛が落ちて行くぞ!」

 私はそう声を発しましたが、瞬きする間もなく、女王蜘蛛は錐揉みをしながら真っ逆さまに、湖面へと。

 大きな水しぶきが上がりました。

 湖面への突入速度は毎時200キロメートルはあり、大きな衝撃です。

 これにより即死かと思います。それから渦を巻き、ヤツは水底へと沈んで行きました。

 たとえ湖面への衝突で即死していなくとも、土蜘蛛は水が大の苦手です。水中では生きられません。

 すぐに窒息死です。


 水底から水面へとぶくぶくと泡が噴き上がってきています。

 翼竜ケツァルコアトルスの花子は眼球鋭く、その湖上を何回となく旋回しています。そして最後に、ボコンと大きな泡が湖面上に噴き上がり、破裂しました。それを目撃し、女王蜘蛛の水死を確認したのです。

 そして翼竜の花子は向きを南へと変え、富士山の方向へと大きな羽を羽ばたかせました。それからしばらくして、私たちのいる樹海の聖域ゾーンへと帰ってきました。


「花子ちゃん、よくやったわよ」

 ミッキッコと佳那瑠が緑目のアニマノイドに頬ずりをしてます。それに花子はニッと笑い返しました。

「さあ、まだ終わってないよ。子供たちを助け出そう」

 私はもう一度喝を入れ直しました。そして洞内を確認すると、土蜘蛛星人のすべてを支配していた女王蜘蛛が死亡し、兵士蜘蛛も働き蜘蛛も腑抜け状態であることがわかりました。


 こうして私たち4人は結界の外へと踏み出し、百鬼洞窟へと入って行きました。

 コウモリや火の鳥のアニマノイドたちの道案内で、誘拐された人たちがいるシェルターへと向かい、何事もなく辿り着きました。そしてそこから全員を救い出し、地上へと導き出しました。

 しかし一方で、そこには宇宙カプセルなどがあり、またその聖域ゾーンを京都の秘密基地の出先と位置付けています。このことから、ここが日本のどこかを知り公開されると、私たちの今後のミッション遂行に支障が生じてくると考えました。したがって、洞窟から外へ出る時に目隠しをしてもらいました。


 このような救出劇、その間支配者を失った土蜘蛛星人たちは何をして良いのかわからず、茫然自失でした。そして私たちの姿を見た途端、さあっとどこかへ逃げて行きました。これが蜘蛛の子を散らすということなのかもしれませんね。

 それから私たちは、目隠しをしたままで彼らをカプセルに貼り付けてある扉を通り、京都の秘密基地へ。そしてそこからまた扉を通り、東京の私のアパートの部屋へと。


 もうすっかり陽は落ち、暗くなっていました。私は彼らを車に乗せ、しばらく走り、スカイツリーの近辺でやっと目隠しを取り、開放させてもらいました。

 もちろん私たちの名前も、そして四神倶楽部の情報も伝えてません。ただただ良かったですねと言い、あっさりと別れました。その後、私たちは樹海の中の聖域ゾーンへと戻って行きました。


 ナノチューブのロープで張った結界、この聖域内にはカプセル、そしていろいろな機材に、インセノイドにアニマノイドたちもいます。また京都の秘密基地へと繋がる扉もあります。

 これからの私たちの四神倶楽部、きっと活動は基地内だけではなく外部が増えるでしょう。私たちはこの聖域ゾーンを外部基地第1号として残すことをすでに決めていました。

 もちろん今回働いてくれた蜂、鬼蜘蛛、カナリヤ、コウモリ、火の鳥、そして翼竜の花子、彼女たちも大事に温存します。


 しかし、問題は手狭です。一応樹海の中にあり人の目には付きにくいのですが、それは時間の問題です。いつかここは発見されるでしょう。

 こうして私たちは決断しました。未だ世間で発見されてない百鬼洞窟に移ろうと。

 まずその洞窟の入口に結界を張りました。そして洞窟内にいる土蜘蛛星人たちを地底奥底のマグマ溜まりの近くの空間へと追い込み、封じ込めてしまいました。そしてこちらへと侵入してこないように結界を張りました。


 しかしこのままでは、いくら悪行を働いてきた土蜘蛛星人でも、私たちが大量殺戮することになります。

 さてさてヤツらの扱いをどうしようかと迷いました。そこでやっぱり私たちは守り玉をかざし、守り神の麒麟さんに登場してもらったのです。

「お前たち、ようやった。土蜘蛛星人たちの処理じゃろが、そんなの簡単や、故郷のエリダヌス座のスパイダー星へ送り返しちゃれ」

 私たちはこの教示を受けてなるほどと思いました。そして魔鈴たちに頼み、宇宙貫通カプセルに順繰り乗せることにしました。もちろん費用は土蜘蛛星人の着払いです。


 こうして誘拐されていた4人の園児たち、そして運転手と保母さん、さらに若きリーダーの坂本氏を奪還することができました。

 また富士山の人為的な大噴火、その危惧を払拭することもできました。

 このようにして四神倶楽部の初仕事、まずは成功裏に終わり、本当に良かったです。


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