第9話 紀行5日目 魔神山登頂
昨日は一種の社会見学でありましたが、今日は美しい景色が望める山、魔神山に登ってみましょうと魔鈴が誘ってくれました。案内はすべて任せていましたので、特に反対はすることはありません。
朝食後、ホテルで山登り用のジャケットやトレッキングシューズなどを借り、身支度をして魔鈴を待ちました。そして魔鈴は約束の時間通り、いつもの小型天車を操縦し迎えにきてくれました。
「おはよう、今日は天気が良さそうよ」
「ああ、今朝のテレビの地表天気予報では、快晴と言ってたよね。今日もよろしく」
私は魔鈴にそう話し、四神倶楽部の他の3人とともに天車に乗り込みました。そして魔鈴の運転でしばらく飛び、エレベーター口へと着き、そこから地表へと昇りました。
天気予報通り雲一つない大空が頭上には広がっていました。
空気はどこまでも澄んでいて、さながら地球なら紺碧の空です。だがこのグリーンスターはまた違った眺めです。それは地平線にある太陽からのプリズム現象によるのでしょう、エメラルドグリーンの神秘な空が広がってます。
「さあ、こちらよ」
魔鈴から呼ばれて付いて行きますと、そこには白馬の4頭立ての馬車が待っていました。
「えっ、これに乗って行くの、素敵だわ」、「ほんとね、まるでシンデレラになったような気分だわ」と、ミッキッコと佳那瑠がもう舞い上がってしまって、興奮気味です。
「みなさん、このキャリッジで3時間ほど揺られたら、あの山の山頂に到着するのよ」
魔鈴は指を差しました。その指先の方向を見た悠太は「結構高い山じゃん、標高1,000メートルくらいはあるよな。あのテッペンに登るって、楽しみだなあ」とテンションを上げました。
こんな興奮の中で、私たちは緑目をした4頭の白馬が引く馬車に乗って、さあ、出発!
深い森を抜け、草原をカッポカッポと揺られ、そして渓谷を縫って行きました。もちろん途中途中に駅があり、そこで休憩を取りながらの楽しい物見遊山です。
雪渓を越え、険しい山を登り行き、予定通りに山頂へと辿り着きました。
そこからの眺望はこの世のものとは思えないほどの絶景じゃありませんか。南から北への空は明るいエメラルドグリーンに染められ、北の空へとだんだんと色は濃くなって行ってます。
北の地平線方向は冬の漆黒の夜空でした。それを背景に幾千万の星がまるで地上に零れ落ちるかのようにキラキラと輝いています。
南から北へと繋ぐ中天では、七色のオーロラがゆうらゆらと揺れ動いていました。
それから南の眼下に目を落としますと、第3日目に訪ねた故郷の魔神岬が遠望できました。訪ねた時に感じた通り、岬は鋭く海に突きだしている、そのことを再確認致しました。かつ、それを頂点として、濃密な緑の大地が眼下の左右にどこまでも広がっていました。
「これがグリーンスターなのよ、美しいでしょ。だけどもっともっと南に行けば、70度の灼熱、そして北へと進めばマイナス40度の極寒なの。温暖なのは、自転のないこの星を巻く、帯巾100キロメートルほどのゾーンだけなの。だから私たちは余計に愛しいのよ、この星が」
こんなことを口にした魔鈴、この星を
「そうだね、大事にしていかないとね」
こうぼそりと呟いた私に、魔鈴は一言だけを返したのです。「地球もね」と。
私たちはこの言葉に、胸にぐさりと突き刺さるものがありました。そして、ただただ大きく「うん」と頷くだけしか応答のしようがなかったです。
この日はこのような魔神山登頂と観光で終わり、地底都市へと戻ったわけですが、その後はミッキッコと佳那瑠の買い物に付き合い、時間を
だが明日は地球への帰還のために出発します。私たちには、それまでに済ませておかなければならない宿題が残っています。
「魔鈴、俺たちの四神倶楽部をどうするか、それを今夜みんなで話し合って決めるよ、翌朝旅立つ前に結論を報告するから、それまで待って欲しいのだけど」
夕食後、私は魔鈴にそう頼みました。
「お兄さん、いいわよ、大事なことだもの。どうするかはみなさんに任せるから、今夜ゆっくり話し合って下さい」
魔鈴は私たちに余計なプレッシャーを掛けないよう気を遣ってくれました。そしてその夜のことです、ミッキッコと佳那瑠、それに悠太と私、この4人は集まり、深夜まで私たちの四神倶楽部の今後について話し合いました。
私たち4人、たとえ幼い頃にグリーンスターから地球に派遣されたことが事実だったとしても、地球の父母によって育てられ、少年少女期から青春、そして大人へと普通に生きてきたと言えるでしょう。
そして縁あって、東京のネット販売会社の、それも同じフロアーに集結し、結果として四神倶楽部なるものを発足させました。
とはいえども、ごく普通のサラリーマンとオフィスレディーに、一体何ができるのでしょうか?
4人の討論は深夜まで白熱し、答は揺れ動きました。しかし、私たちは私たちなりの結論をついに出しました。
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