第10話 紀行6日目 グリーンスターからのお土産

 本日地球へと帰還します。

 私たちは早めの朝食を終え、ロビーで魔鈴を待ちました。

 そして約束の時間通りに、妹の魔鈴が現れました。しかしその横にはミッキッコの兄の貴虎、佳那瑠の弟の鳳飛、悠太の姉の華武が一緒に付いて来てくれていました。


「おはよう、お兄さんたち」

 元気良い朝の挨拶が魔鈴からあり、リーダーである私は我がチームを代表して、「みなさん、おはようございます」とまず返し、「この旅行ではいろいろとお世話になり、本当にありがとうございました」とお礼を述べました。


 それにしてもホテルを出発するまでにはまだ充分時間があります。私はみなさんをコヒーショップへと誘い、一つのテーブルを囲みました。そこで私たちはしばらく旅の思い出などの雑談をし、その後頃合いを見計らって、私は口火を切りました。

「宿題でしたよね、私たちの四神倶楽部、それをどうして行くかの件ですが、約束通り、昨夜結論を出しました」

「そうですか、それは良かったですね。それでどのようになされるおつもりですか?」

 グリーンスターの四神倶楽部、そのリーダーの貴虎が早速興味津々に訊いてきました。

 これを受けて、私はまずミッキッコと佳那瑠、そして悠太の顔を見て、「いいな」と目で確認を取りました。みんなが「はい」と頷くのを私は確認し、その後ゆっくりと話しました。


「今回のグリーンスターへの旅、それは私たちの四神倶楽部の慰安旅行のつもりでした。だけど、この旅行中にいろいろと学ばせてもらって、また四神の末裔であるという重い責務も知りました。それで私たち四神倶楽部の日本での今後ですが、四神の本来のミッション、力およばずのところもあるかも知れませんが、――、日本を守って行こうと結論致しました」

 私のここまでの決意表明、みんなは身じろぎもせずにじっと聞いていてくれました。そして、しばらくの沈黙の後、魔鈴が「お兄さん、ありがとう」としみじみと言葉を漏らしました。

 魔鈴はよほど嬉しかったのでしょう、あとはポロポロと涙が……。


「龍斗さん、それにみなさん、その勇気ある決断に敬意を表します。いずれにしても私たちは兄弟姉妹、可能な限りのサポートさせてもらいますので、愛する星や国を守るという同じ目的に向かって頑張りましょう」

 貴虎はこう明言し、さらに力を込めて、「地球の四神倶楽部、そしてグリーンスターの四神倶楽部、ここに四神同盟を結びましょう」と私たちの意志を窺ってきました。私は話しの展開が少し早いかとは思いましたが、もう引き返せません。

「四神同盟……ですか、そのようにさせてもらいます」


 これは一種のハズミでした。

 しかし、みんなも賛成してくれると自信もあり、また貴虎には強い連帯を要請する返事でした。そんな有り様を確認してからです、悠太の姉の華武が書類をテーブル上に開きました。

「差し出がましいのですが、四神同盟が結ばれたということで、みなさんのために、ここに秘密基地を用意させてもらいました。そこの地下に、コンピューターや他のファシリティー、グリーンスターの基地とまったく同じものを全部準備させてもらいました。ご自由にお使いくださいませ」

 私たちはその書類に目を通し目が点になりました。華武が言った秘密基地、それは京都の御所近くにある一軒の町屋まちやだったのです。そして、私たち4人が名義人となっています。


「華武姉さん、なぜ僕たち、京都なの?」

 悠太が姉に甘えるように尋ねますと、華武はよほど弟の悠太のことが可愛いのでしょう、「京都は古くから四神の所縁ゆかりの地なのよ。悠太を守ってくれるパワーがあるわ。だけど気を付けてね、恐い土蜘蛛星人がまだ生存してるから。佳那瑠さん、悠太のこと、よろしくお願いします」と目を細くしました。

 私たちはこの華武の、なぜ京都なのかの話しに納得しました。しかし、最後に付け加えられた言葉、「佳那瑠さん、悠太のこと、よろしく」に違った意味を感じ、ぎょぎょっとしました。

 だけど、当の本人の佳那瑠は満更でもなさそうで、「はい、わかりました」と微笑みをたたえているじゃありませんか。

 私はどこでどうなってるかわかりませんが、やっぱり佳那瑠は鞍馬山以来、悠太を気に入ってしまってるのかなと、この場で考えなくてもよいことをふと思ったりしたわけです。


 そんな時に、今度は佳那瑠の弟の鳳飛が小さなケースをテーブルに乗せました。

「これ、昆虫の知能ロボット、インセノイドです。使ってください」

 そう言われてケースを開けてみますと、そこには動いてはいませんが、うじゃうじゃと……、いたのですよ。蟻にゴキブリ、そして蜂に蜘蛛などなどがね。

 スイッチオンすると、アニマノイドの目は緑でしたが、インセノイドたちは目を赤く光らせて、チョロチョロと動き始めます。


「キャアー!」

 ミッキッコが覗き込み、派手な悲鳴を上げました。その後、自分で自分の悲鳴に驚いたところもあり、少しリアクションが大き過ぎたかと反省したのでしょう、それから気を落ち着かせ、「こんな昆虫、何に使うのよ?」と。

「お姉さん、いろいろだよ。小さいけど一匹ずつ個体識別名を持っていてね、パソコンからの遠隔操作で思い通りに動かせるんだよ。必要なら猛毒を持たせることもできるから」

 ミッキッコの弟の鳳飛が姉を諭すように、こんな答えをくれました。それにミッキッコは叫んだ割には、「へえ、そうなの、何かに利用できそうね、ありがとう」と軽いです。私はこの執着のなさが朱雀の末裔であるミッキッコの本性かなと悟りました。


 それからグリーンスターの4人に向き合い、「これで、魔界王解析ソフトと宇宙検索エンジン・四神王のアプリケーションソフト、他にインセノイドたち、そして秘密基地一式、これらを全部頂いてしまいましたよね。どうお返しすれば良いのでしょうか?」と遠慮深く尋ねますと、「お兄さん、気にしないで、当然のことなのよ。こうすることが先祖たちからの遺言なの。だからこれからは助け合ってミッションを遂行して行きましょう」と魔鈴が力付けてくれました。


 私は立ち上がり、「ああ、そうしよう。これからもよろしくお願いします」と伝えました。そして、この旅のお礼と四神同盟の前途を祝し、全員とハグをし、別れを告げたのであります。


 このようにして私たちは4泊滞在した地底都市のホテルを後にしました。

 地底から地表へと出て、アニマノイドたちが自由に生きる草原の、来た道を返し、鬱蒼とした森の中の沼へと着きました。その後、沼の底から湧き出てきた宇宙カプセルに搭乗しました。

 身体はまた不思議な国のアリスのようにしゅるしゅるしゅると小さくなったわけですが、帰路の機内泊ということなのでしょう、その宇宙貫通カプセル内ホテルに1泊しました。


 今回の私たちの旅、実にいろいろなことがありました。そして大きな決意もしました。私たち4人はそんな意義ある思いの中で、グリーンスターからのお土産を一杯手にし、地球への帰途に就いたわけです。

 すなわち時空を貫通する。

 そうなのです、折りたたまれた着物の帯を上から下へと貫き通すかのように、20光年の時空を宇宙貫通カプセルに乗って一気に移動したのでありました。


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