第8話 紀行4日目 自立と尊認

 縁あって私たちが結成させた四神倶楽部、特に社会的な目的は何もありませんでした。

 しかし、昨日、このグリーンスターの四神倶楽部のメンバーに会った時、ミッションを持って走らせてはどうかと提案がありました。

 さらに、この慰安旅行の最後に、私たちは今後どうして行くか、その思いを聞かせて欲しいと魔鈴から要望がありました。


 それで私たちは少し気が重くなってしまったのですが、悠太は秘密基地のシステムを見せ付けられて感動してしまってますし、また佳那瑠とミッキッコは宇宙検索エンジン・四神王のアプリケーション・ソフトをもらって舞い上がってます。

 私はこんな様子を見ていて、まあ結論までにはまだ時間があるし、もっといろいろと見物して、とにかく楽しもう、と気持ちを切り替えました。


 本日の予定はまだ聞かされておらず、とにかく魔鈴に任せてあります。そして約束の時間となり、昨日と同じように自家用小型天車で飛んできて、私たちをピックアップしてくれました。

「魔鈴、今日はどこへ連れてってくれるの?」

 私は妹に尋ねました。

 そうなのです。昨日、魔神村を訪問して幼い頃を思い出したのです。魔鈴は確かにおしゃまな妹だったと。

 それと同じように、ミッキッコの兄は貴虎、佳那瑠の弟が鳳飛、そして悠太の姉が華武だと判明しました。


 その上にですよ、魔鈴は貴虎と、また鳳飛と華武はカップルで、近々結婚すると言います。まことに目出度い話しです。私は「それはよかった。末長く仲良くしてね」と祝いました。

 これに魔鈴は「お兄さんたちも、考えてね」と囁いてきたのです。私はこれがどういう意味なのかわからず、「何を?」と聞き返しました。すると魔鈴は、「四神カップルよ」と実に軽く言い放ちました。

 これで私はやっと魔鈴が何を言おうとしているのかを察しました。そして、ぶつぶつと、「ということは、もし、グリーンスターの四神倶楽部の組み合わせで考えれば、俺はミッキッコと、それと悠太は佳那瑠とカップルになるのかな?」と、正直嬉しくなってきました。


 しかし、そんなほんわか気分に浸ってる時に、私の心の奥底を読み切ったのでしょうね、ミッキッコと佳那瑠が口を揃えて言い切りました。「あり得な~い!」と。

 とは言っても、私たち全員で8人、身近な兄弟姉妹となりました。そのためかもうお互いに遠慮はいりません。

「そうね、今日はグリーンスターの政治を見てもらうわ。私たち四神倶楽部は、理想とする国の形、そこへの国造り、それを秘密裏に工作してきたのよ。まだ途上だけど、お兄さんたちにぜひ参考にして欲しいわ」

 魔鈴が私の、今日はどこへ、の問いに、しばらく天車を飛翔させてからこんな回答をしてくれました。そして私たちもそれに照れもなく、「政治ね、面白そうだね」と本音で返せるようになりました。


 佳那瑠も興味があるのか、遠慮もなく要望します。

「魔鈴さん、この星の政治はどういう構造になってるのか、まずはそのレクチャーをしてくださらない」

 私は佳那瑠の関心事は男だけだと思ってましたので、彼女はこういうことにも興味がそそられるのだと初めて気付きました。意外ではありましたが、佳那瑠の本質は、実は政治好きなのかも知れませんね。そしてそれに応えて魔鈴が語り始めます。

「このグリーンスターって、自転していなくって、生物が住める所は星の表と裏、その境界の限られた帯ゾーンだけでしょ。だから結構過酷なのよ。だけど、そのためなのか余計にこのグリーンスターが愛おしく、私たちにとって掛け替えのない星なの。それで私たちの四神倶楽部は表には出ませんが、一所懸命サポートしてきたのよ」

 これに早速佳那瑠が「今回訪問させてもらって、それがよくわかりましたわ」と返し、私たち全員は「その通りだね」と頷きました。


「目指してる世界は、この小さな星を未来へと繋げて行くために、地表の自然、それを加工することなく、あるがままに守る。そして、それを受容し、緑星人たちはその条件下で共存し、持てる知恵を駆使し活き活きと生きる。そんな社会を私たちは目指してるのよ」

 魔鈴は運転しながらではありましたが、力強く言い切りました。私たちはその迫力に負け、しかしそこには明確な未来像があり、なんとなく羨ましい気分となりました。

「自然を加工せず、それをあるがままに守る。そして、その義務を果たして行く中で共存し、人たちは活き活きと生きる、そんな社会をね」

 私たちは魔鈴の言葉を繰り返し、なるほどと感心しました。そんな反応を魔鈴は確認し、嬉しそうです。


「その目指す社会を実現させるための基本的な方針、それは──インデペンデンス(independence)とリコグニション(recognition)よ。それらを世の中に根付かせ、より醸成じょうせいして行くこと、それが私たちの四神倶楽部の使命なの」

 魔鈴のさらなるこの熱弁、私たち4人はまったく納得できるものであり面白かったです。だけどもう少し咀嚼そしゃくした形で、私は「そのインデペンデンスというのは、個々の自立ということ?」と質問しました。


「お兄さん、その通りよ。大きくはこの星自体、そこから始まって国や自治体、そして個々の人たちも、インデペンデンス。要は自立よ」

 魔鈴がインデペンデンスについて熱く語り、その後、私はもう一つ確認しました。

「魔鈴が言った二つ目の方針、リコグニションていうのは結構難しいんだよなあ、日本語に訳せる言葉がないんだよ。魔鈴が言いたいリコグニションて、認知でもないし、見返りでもないし、そうだなあ、あえて漢字に変えて言えば、互いに認め尊ぶことで──ってことかな?」


 魔鈴は兄貴がしてくれた、ちょっと意外な解釈に、「尊認て、お兄さん、うまく訳してくれたわ、まったくその通りよ」と微笑み、「お互いに尊認し合う、それを緑星人たちが生きて行く上で、そう、森羅万象の軸に置いてね、社会を躍動させることが第一義なのよ」と、さらに理屈っぽく答えました。

 この展開に、ついに悠太が辛抱堪らなくなったのでしょう、「へえ、そうなんですか、だけど魔鈴さん、そのインデペンデンスとリコグニション、つまりその自立と尊認のために、四神倶楽部として、具体的にどういうサポートをしてるですか?」と話しに割り込んできました。それに対しも、魔鈴は動揺せず丁寧に。

「そうね、悠太さん、これはインデペンデンスの一つの例だけど、このグリーンスターでは50万人くらいを一つの自治体として、自立できるようにしてますわ。東京のような一局集中に絶対にならないように、地域のそれぞれの特性を活かし、そして伸ばすようにしてます。日本でもやっと今、地域の自立に目覚め始め、道州制を導入しようという方向でしょ」と。


 これにミッキッコが少し熱くなり、自分の信じるところの意見があるのか、「そうね、現状の日本は問題を多く抱えている。その諸悪の根源は東京一局集中だわ。もっと地域地域が自立でき、それぞれがにぎわう国の形にしないとね」と発言がありました。

 それが私には思い掛けないことで、「えっ」と驚きましたが、彼女もちゃんと考えてるんだ、と一安心させてもらいました。


 魔鈴もそんなミッキッコを心強く思ったようで、「次にリコグニション、尊認ですが、人は人として、自分の存在を、社会あるいは組織の中で認めて欲しい、そんな欲望がどんな人にもあるでしょ。そしてそれが認められた時、また尊ばれた時に、人は充足感、すなわち心は満ち足り、幸せを感じると思うのよ。だからそのリコグニション、つまり尊認ある社会へと、私たち四神倶楽部が誘導してるのよ」と言葉を途切らせません。

ここで私はついつい本音を。

「そらそうだよな、誰しも認めて欲しいよな、特に会社の中でもそうあって欲しいもんだよ」と。


 しかし、これはちょっと横道かなと思い直し、「で、政治として、具体的にはどのようなことをしてるの?」と聞き返しました。

 魔鈴は私の会社の話しで笑ってましたが、「そうね、尊認の一例として、お兄さん、それぞれの人には得意分野があるでしょ。料理でもスポーツでも、絵でも小説でも何でもよいのよ。それを登録さえしておけば、専門機関が個々に声を掛けてきてくれてね、そして評価もしてくれるわ。まあ言ってみれば、プロもアマチュアも、専門分野も含めての千差万別の……、努力とその結果を評価する、そう、星レベルのサークル活動ね。そんな仕組みを、政治として社会に導入してるのよ」と説明してくれました


「ふうん、なるほどなあ、みんなが繋がっていて、社会から見放されず、互いに認め合ってる。それって幸せを感じるよな、素晴らしい」

 私が無条件に納得すると、さすが佳那瑠です、「でも、その尊認って、結局は形にしないとわからないわよね。つまり見返り、そう、お金なんでしょ。頑張った分、報酬を手にしないとね、面白くないわ。だから、尊認を推進する政府には結構大きな予算が必要となるんじゃないの?」と肝心なポイントを衝いてきました。


 これに魔鈴は少し間を取って考え、「佳那瑠さん、ちょっと違うんだよね。リコグニションて、人が求めているものはなにもお金だけじゃないわ。一所懸命生きてることを、社会的に認めて欲しいということだと思うの。だから、小さなことかも知りませんが、頑張ってるね、よくできてるよ、ありがとう、みんなそんな言葉が欲しいのよ。まさに個々に、そして互いにとうとく認め合う、すなわち、リコグニションが軸にある社会を私たちは目指してるのよ。言ってみれば、美徳ね。だからシステムがしっかりし、きっちりと運営さえできれば、政府としてもあまりお金はいらないのよ」と整理してくれました。


「うーん、確かにね。リコグニションがとなったら、みんなが幸福を感じる素晴らしい社会となるわ」と、ここまでの魔鈴の話しで、佳那瑠は腑に落ちたようです。そしてミッキッコも「ホントだわ」と納得してました。


 しかし、私はさらに現実論で、「尊認は美徳、その思いや仕組みは理解したけど、だけど現実にはやっぱり財源が必要だろ。一体税金はどうなってるの?」と突っ込んでみました。

「お兄さん、その通りよ。緑星人の税金はフラット・タックスなの。言い換えれば、貧富の差なしに、各人も法人も一律に所得や利益の三分の一を頂いてるわ」


 魔鈴があまりにもあっさりと答えました。私は奇異に感じ、「それじゃ、貧しい人は苦しいんじゃないの?」とすぐさま問い返しました。

「それは福祉やサポートの分野でしょ。そこでカバーしてるわ」と魔鈴にブレはありません。


「じゃあ、年金はどうされてるの?」

 今度はミッキッコが、将来自分の身に起こってくる年金問題、それが心配なのでしょう、興味津々に突っ込みました。魔鈴はそれに自信たっぷりに、「ベーシック・インカム(basic income)よ。それ以外は個人年金になるわ」と。

 この答えがあまりにも簡潔明瞭だったものですから、ミッキッコは一度「ふうん」と頷きましたが、さらに「ベーシック・インカムって、誰でも一律に、例えば、毎月7万円もらえる最低限所得保障のことでしょ。そしてそれ以外は、個人の意志で積み立てる個人年金ね。これって一番シンプルで、経費も削減されて、理想の仕組みだと言われてるよね」と自分で咀嚼し、独り勝手に納得してるようでした。


 他の者たちも、ミッキッコと同じように一応頷きましたが、今度は悠太が「魔鈴さん、インデペンデンスにリコグニション、それとフラット・タックスにベーシック・インカム、いろいろとよくわかったのですが、その根幹にある政治そのものは一体どうなってるのですか?」と質問が止まりません。


 これに魔鈴は落ち着いて、「そうね、やっぱり詰まるところは政治よね。多分ここが日本とはかなり違うと思うわ。まず元首だけど、日本のように天皇がおられませんから、ちょっとそこが弱点だよね。気を付けてないと、独裁者が現れる可能性があるわ。だから、徹底的にが混同されないように工夫してあるの」と。


 魔鈴は今回私の妹だと判明したわけですが、まあ、しっかりした女性です。私は頼もしくなってきました。

 そんな魔鈴に、「それって、どんな工夫ですか?」と悠太の問いがしつこいです。

「それはね、元首は地方自治体の長が立候補し、すべての星人の個人からの直接投票よ。そして任期は最大4年、これで絶対に交代してもらうの」と魔鈴が答えると、悠太はそれを理解し、「そら、天皇のような権威は得られないけど、よく工夫されてるよな。それと、実際の政治の動きはどうなってるの?」と次へと質問を飛ばします。


 それでも魔鈴は嫌な顔一つせず、丁寧に答えてくれます。

「日本の政治と基本的に大きく異なってる点は、政党がないの。私的な倶楽部はあっても、日本のような政党を結成することは禁じられてるわ。その代わりに、地方自治体単位で政策を立案できてね、その政策ごとに地方自治体の長の全員が投票して決めていくの。もちろんその長は住民からの直接投票で選ばれてるのよ」

 私はこの説明を聞いて、堪らず疑問をぶつけてみました。

「魔鈴、それだったら地方同志でケンカしたり、地方のエゴが出過ぎたりしないか? それに、将来を充分見据えることができず、現状容認だけの甘い政治になったりしないか?」


 魔鈴はそれは当然の心配事というような表情をし、「だからね、お兄さん、その危惧のようなことを防ぐために二つの仕組みが機能してるのよ。一つは、立法時に50年計画書が必要なの。またもう一つは、施行してから3年に一度、地方自治体の長全員による結果評価システムがあって、期待した効果が計画の6割に達していない場合はね、それは即廃案よ」とニコリと笑いました。

 私はまだその程度のことで、この星の未来は安泰とは思えず、「へえ、結構厳しいんだね。だけど、それでもエゴが続く場合があるだろ。そんな時はどうなるの?」と質問をぶつけました。


 だがこれに対して、魔鈴は戸惑いもなく言い放ったのです。

「だから私たちがいるのよ。緑星人でない、そう、四神民族の私たちが、そうなのよ、四神倶楽部がコントロールしてるの」と。

「えっ、コントロールって、武力でもってか?」

 私の胸の鼓動が急に速く打ち始めてます。

「そうね、お兄さん、必要ならね。それが私たち四神倶楽部の……、そう、覚悟でもあり、使命なのかも」


 こんな言葉を聞き、私たち4人はもう何も返せず、黙り込んでしまいました。そんな私たちを心配したのでしょうか、「お兄さん、武力行使は内向きだけじゃないわ。むしろ外向きに必要なのよ。今、土蜘蛛つちぐも星人が侵入してきてるわ。ヤツらはこのグリーンスターを乗っ取ろうとしてるのだけど、日本でも活動を活発化させてるようだから、お兄さんたちにも頑張って欲しいのよ」と魔鈴は励ましてくれたのです。


 私はと聞いて震えがきました。

 なぜなら京都の土蜘蛛伝説を思い出したからです。

 平安時代、武将の源頼光よりみつが北山の蓮台野れんだいのへと行った時、髑髏しゃれこうべが空を飛ぶのを見ました。

 頼光はそれを追い掛けると古い屋敷に辿り着いたのです。

 そこでその夜宿泊すると、いろいろな魑魅魍魎が現れ出てきました。


 さらに美女が現れ、妖術を掛けてきました。頼光は刀で斬り掛かると、女は消えて行きました。

 しかし、そこには白い血痕が残り、頼光はそれを辿って行きますと、山奥の洞窟に辿り着きました。

 そしてそこには、妖怪の大きな土蜘蛛がいたのです。

 頼光はこの土蜘蛛と戦い、殺してしまいました。

 するとその土蜘蛛の腹から1,990個の首が出てきました。また無数の子蜘蛛も出てきて、さらに20個の髑髏もあったのです。


 私がこんな伝説を、沈黙したまま頭の中で巡らせてますと、魔鈴が気遣ってか、「お兄さん、多分、京都の土蜘蛛のことを考えてるんでしょう。その通りよ、そいつが土蜘蛛星人の女王蜘蛛なのよ。そこで腹から出てきた子蜘蛛たちが、京都でずっと生き長らえてきて、今、新しい女王蜘蛛がその中から現れて、そいつが指揮して、悪さをするようになってきてるのよ」と声を掛けてきてくれました。


「えっ、そんなことになってんのかー」

 私はそうとしか返せませんでした。そしてミッキッコに佳那瑠、また悠太も、何かに迷っているようでした。私は、みんな仲間ですから、それが何なのか読み取れ、リーダーとして告げたのであります。

「なあ、みんな、魔鈴が昨日言ってくれただろ、帰る時に聞かせてもらったらいいからと。俺たちの四神倶楽部、これからどうして行くか、その結論はあとにしよう」

 あまり前向きではない提案であったわけですが、3人は「そうしましょう」と大きく頷き、同意してくれました。


 こんな会話をしている内に、魔鈴が運転する天車はスムーズに地下都市内を飛翔し、一つの古い建物へと着きました。

「さあ、ここが国会議事堂です、ちょっと見て行きましょう」

 魔鈴が案内してくれました。

 それはそんなにも大きくもなく、また立派なものでもなかったです。訝しがってる私たちに魔鈴は、「要は、形通り小さい政府なのよ」と、さらりと。


「魔鈴、それにしてもこの近辺に他の省庁、例えば財務省とか経済省とかはないの?」

 周辺も同じように閑散としていました。

「財務省はこの近辺にあるのだけど、他はすべて地方に分散しているわ。東京のように一局集中でその効率を取るか、分散して地方の疲弊を少しでも緩和して行くか。結局は臨場感あるTV会議などが開発されて、またネットの進歩で、遠近の物理的な距離がなくなってしまったの。どこにいても一緒なのよ。ならば自然が一杯ある地方の方が子育てにも良いと、それぞれの省庁は地方へと分散して行ったわ。この動きは民間企業の本社も工場も同じだったわ」


「そうか、日本もそうなるかなあ」

 私がそんな呟きをすると、魔鈴は「四神倶楽部として、ちょっと後押しが必要かもね」と曖昧あいまいに答えます。

 すぐさま「後押しって?」と問い返しますと、「それはね、地方それぞれのインデペンデンス、自立ね。四神倶楽部がその方向に導くことなのよ」と、またまたしっかりしてます。私たち4人は「ほー」と感心の声を上げるしかありません。


 国会議事堂を一通り見学した後、魔鈴が次の二つの訪問地を案内してくれました。それはいずれも工場でした。

 一つは野菜工場で、地底にありました。太陽の光を地上から引っ張ってきて、壇上になっている畑にナスやトマトやレタスが豊に実っていました。

 またもう一つはロボット工場です。ここで生産されていたのは人間型知能ロボット、いわゆるヒューマノイドでした。

「お兄さん、この子たちアニマノイドと一緒で、緑の目をしているでしょ。このグリーンスターでもね、日本と同じく少子化で、労働力が不足してるわ。労働ロボに介護ロボ、それに家事手伝いロボに友達ロボ、いろいろいてるのよ。今では全人口の20%くらいかな。これ以上は増やしませんけどね」


「へえ、そうなんだ、ちゃんと限度を見極めてるんだ」

 私は感心するしかありませんでした。それでももう一つ尋ねてみました。

「ところで、工場は電気も一杯使うだろ、発電はどうしてるの?」

 これに魔鈴は昨今の日本の原発問題を知っているのでしょう、「正直、ここまでくるのに紆余曲折うよきょくせつあったわ。でも最終的にはメインに地熱を選択したの。それも一つの理由だったわ、緑星人がなぜ地底へと積極的に潜って行ったのかのね」と参考になるコメントをしてくれました。

 私たちは「ふうん、そうなのか」と深く頷くしかありませんでした。


 ミッキッコに佳那瑠、そして悠太に私、妹の魔鈴の弁によれば、四神の末裔の私たちはこのグリーンスターで生まれました。そして縁あって、幼い頃に地球の日本に派遣されました。そして普通の人として育ってきました。

 だが、今の日本を見れば、少し景気は回復してきたことは事実ですが、庶民の暮らしはまだまだ苦しい状況が続いています。


 果たしてどれだけの人たちが、現在の暮らしに満足しているのでしょうか?

 それに比べこのグリーンスター、その目指す社会、それはこの小さな星を未来へと繋げて行くために、地表の自然、それを加工することなく、あるがままに守る。そして、それを受容し、緑星人たちはその条件下で共存し、持てる知恵を駆使し活き活きと生きる。そんな社会を目指しています。


 そしてそのための方針は──インデペンデンス(independence)とリコグニション(recognition)、つまり自立と尊認を成し遂げて行くことだと言います。

 グリーンスターとして、目指すべき大きな姿形すがたかたちがあります。そして、そこへの方針があり、その下に種々の具体策があります。


 こんな話しの展開や見学により、まことに残念な話しですが、今の日本のままで果たして未来があるのか、単に大宇宙を彷徨さまよう遭難船のように思えてくるのです。

「あ~あ」

 私たち4人はもう溜息を吐かざるを得ませんでした。

「お兄さんたち、気をしっかり持ってね、だから四神倶楽部の存在の意義があるのよ。さっ、研修旅行はここまでにして、これからは観光にしましょ」

 魔鈴はこう気遣い、そこからの半日、いろいろな観光地を案内してくれました。


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