第11話 紀行7日目 決意の旅を終える

 地球への帰還、ゴーという音とともに、奥深い森の泉の底から宇宙カプセルは浮き上がり、観音さま桟橋に停泊しました。

「無事に戻って来たようだね。さっ、降りよう」

 私たち4人は再び身体を膨らませ、お土産が一杯入ったキャリーバックをよっこらせと引っ張り、桟橋へと降り立ちました。


「おーおー、可愛い孫たちよ、おかえりやす」

 白髪の老婆が皺一杯の顔に笑みを浮かべて、私たちを迎えてくれました。

「おばあちゃん、帰ってきたよ」

 ミッキッコと佳那瑠が老婆へと駆け寄り、思い切り抱き付いてます。

「おお、そうかいそうかい、お嬢たち、それは良かったのう」

 老婆は今にも涙を零しそうな二人がよほど可愛いのか、よしよしと二人の身体を摩ってやってます。そんな時に、カプセルはまるで船の警笛のようにボーボーと音を発し、オパール色に輝きながらボコボコボコと青い泉の奥底へと潜って行きました。私たちは名残惜しく泉を覗き込むようにして、精一杯手を振って見送りました。


「さっ、孫たち、こちらへきやしゃんせ」

 老婆はそう言って、私たちを森の中にある大きな屋敷へと案内してくれました。そして、そこには立派な池泉回遊式ちせんかいゆうしきの和風庭園があり、それが一望できる座敷へと通してくれました。


「結構長旅だったからな、戻ってきて、こんな景色を眺めたら、ほっとするよな」

 私たちは無事に戻ってきた安堵感で、気持ちはもうゆるゆるです。

「さあさあ、一服していきんしゃい」

 老婆は抹茶を点ててくれました。それを遠慮なく頂き、横に添えてある京和菓子を摘みました。口の中で苦さと甘さが交錯し、その微妙なハーモニーが旅の疲れを癒やしてくれました。

 私たち4人は足を思い切り伸ばし、しばらくくつろいでいますと、お婆さんが奥の部屋から古い小さな箱を抱えてきました。そして私たちの目の前にそれを置いて、おもむろに開けます。

 私たちは身を起こし、何だろうかなと覗き込んでみますと、箱の中には径が3センチほどの四つの玉が入っていました。


「おばあさん、これ、何なの?」

 悠太の問い掛けに老婆は、私たち4人の顔をもう一度しっかりと見据えて、一つ一つの玉を取り上げ、それぞれの手に握らせてくれました。

「これはね、お前たちの親から預かってたんえ。四神の子孫として、いつかきっと覚悟する時がくるだろう、その時、ここの泉を通ることになるだろうから、渡してやってくれと言付ことづけられてたんだよ。さっ、この黒玉は玄武の悠太へ、青玉は青龍の龍斗さ、白玉は白虎の佳那瑠だんべ、それからこの赤玉は朱雀の美月子なんよ、お前たちのそれぞれの守り玉だんべ」


 私たちはそれぞれの玉を受け取りましたが、訳がわかりません。

「おばあさん、守り玉って?」

 ミッキッコが尋ねますと、老婆は「さあ、それをぎゅっと握ってみやしゃんせ。ほんでから握った手を前へ突きだして、みんなで重ねっちゃ。そして目を瞑って……、何か見えへんかえ?」とニッコリと笑ってます。

 私たちは言われるままにやってみました。すると、「あっ、見えたわ。おばああさん、これ、何?」と佳那瑠がすぐに声を上げました。私も動物のようなものがそこにいるのが見えました。


「見えただろうが、それがお前たちの守り神の──五神の麒麟だよ」

 老婆がそう語ると同時に、私たちは思い出しました。あれはそうですね、私たちが四神倶楽部を結成するために居酒屋に集まりました。そしてその最後に円陣を組んだ時に、かすかに現れたのです。

 ミッキッコも思い出したのでしょうか、「あの麒麟さんは、私たちの守り神だったのね」と記憶を辿ってます。


「そうだよ、これからのお前たちの人生、時として決断を迫られ、迷うこともあるだろうべ。そんな時に、そうやって守り神に相談するのも良かろう。ちゃんと行くべき道を教えてくれるっちゃ」

 私たちは確かに四神の末裔として今回大きな覚悟は決めました。しかし、何をして良いのやらはっきりせず、不安でした。だが、親から託された四つの守り玉を手にして、なにかふつふつと剛気が込み上げてくるのを感じました。

 老婆も、孫たちに四つの玉を渡し、やっと親たちからの約束を果たしたと満足な面持ちになっています。


「さあ、もう時間だから、そこの宇宙カプセル駅から地下鉄に乗って、地球・東京駅へ戻りんしゃい」

 もういとまの時です。私は「おばあさん、ありがとう。四つの守り玉、大事にするよ」と礼を述べ、他の3人と一緒にやってきた1両だけの電車に乗りました。

「だってさあ、これからっちゃ、お前たちの本当の旅が始まるんやで、一路平安どすえ」

 老婆はいつも通りの方便ごちゃまぜの言葉を、最後に掛けてくれました。そして私たちが見えなくなるまでホームに立って、ずっと手を振ってくれていました。

 それからです。カタンコトン、カタンコトンとしばらく電車に揺られ、私たちは地球・東京駅へと着きました。そしてオフィスの片隅にある扉を通り抜け、現在ある東京の日常へと戻ってきました。


 こうして私たち4人の6泊7日の慰安旅行、いや研修旅行、いやいや、この旅により四神倶楽部の絆はより強くなり、この旅を終えたのでした。


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