こちら、書店でライトノベル担当を経験された著者さんの奮闘を綴ったエッセイです。
カクヨムにいらっしゃってくださるみなさま、そして私たちのような出版関係者にとっても最重要拠点である書店の裏で、担当さんがどれだけいろいろなことを考えて行動していらっしゃることか!
そして書店という場がいかに繊細で残酷な理に支配されているものか!
そんな知られざる真実がやわらかい文調で赤裸々に語られていくんです。
それだけでも感心しちゃいますし、知らない世界をのぞき見る楽しさを得られるわけですが……
著者さんの担当者としての目利きっぷりと、それを支える観点までもが見えるのは実に興味深いところです。プロアマ問わず、出版を意識すれば「売れるものとはなにか」を考える必要がありますから、こうした最前線の状況やその最前線に立つ担当さんの目線、ぜひとも学んでおきたいところですからね。
お仕事系読み物として、出版系資料として、二方向からぐぐいと推させていただきます。
(心の脇腹を抉る 3選/文=髙橋 剛)
昔、自分が勤めていた書店には、若くて美人の同僚がいました。
どのくらいかというと……職場体験学習にきた学生さんの相手をしていても、中学生男子の目が♥になっているのが、はたから見てもわかるくらい(笑)。
当時、店にはレジが2台ありまして、同じ契約社員の後輩(男子)もよく言っていましたっけ。
彼女と同じ時間帯にレジに入ると、こっちが開いていても、男性客は彼女のいるレジの方に並ぶんですって。
彼女のレジでは、買いにくい本が欲しいときもあったでしょうに(黒)。
このエッセイを読んでいてふと、そんなことを思い出しました。
2軒のリアル書店で実際に働き、閉店に立ち会った経験を持つ、コミナトケイさん(ラノベ担当)のエッセイです。
自分も書店員をしていましたが、担当が違えば、知らないことも結構多いもので……特に畑違いのラノベのタイトルは、元書店員でも読めない……読めませんでした(泣)。
また、いずこも同じだと思う本屋ならではのあるあるや、現役時代に知っておきたかったこと、食品保存容器の意外な使い方、へえ~こんなこともあるんだ~という内容満載で、楽しく読めます。
後半では、ラノベ以外のことにも触れますが、雑誌の担当だった元同僚(前述の女性とは別人)にもぜひ読んで欲しい!と思いました。
もちろん、書店員経験者でなくても楽しめますよ。
特に、ラノベ作家として作品を紙の本にして書店に並べることをお望みの方や、既にプロになられた方々も必見! いや、必読です。
リアル書店のラノベ棚は、新人作家さんたちの主戦場。
大変な激戦区でありますが、そこで日々戦ってきたコミナトさんの経験は、あなたが生き残っていくのに必ず役立ちます。
この素晴らしい書店員エッセイに祝福を!!
ところで、コミナトさん。
「疫病神」の読み方は、「カラミティ」ですか?
書店ガールや重版出来!など、最近何かと話題な出版業界。(話題かしら?)
このエッセイは、そんな出版の業界の最前線である書店員の体験談を綴った、このカクヨムで読まれるに相応しい内容になっている。
著者は、実際に二つの書店で働いた経験のあるとのことなので、その内容は実にリアルであり、生々しくもあり、悲喜交々がヒシヒシと伝わってくる。もちろんそれだけでなく、本好きでもよく理解していない「取次」や「返品システム」、「定期購読」などを、詳しく、分りやすく、コミカルに説明してくれる。ほんとう、本屋で働く書店員の皆様、ご苦労様です!
エッセイの後半では、本を持ったまま町に出ると言ったタイトル通り、著者が経験したイベントのレポも綴られている。思わず「ぷいきゅあ、がんばれー」と叫びたくなること間違いなしっ!
このエッセイを読めば、必ず明日本屋に行って本を買いたくなるはず――
「さぁ、カクヨマー諸君、本をもって町の本屋さんに行こうではないか――そこには、僕たちの楽園が広がっているはずだ!」
僕は書店が大好きです。きっとこのエッセイを読もうとしている人もそうでしょう。
十年前、二十年前までは街に多かった書店がすっかり減ってしまった現状に胸を痛めている人も多いと思われます。
このエッセイには読んでいるだけでまるで書店の中に居るかのような気分が味わえます。
インクの匂い、忙しなく歩きまわる店員さん、土日のイベント、そういったものの実感が文章を通して伝わってくるその瞬間。貴方は間違いなくコミナトさんの思い出の中の書店に居るのです。
感慨にふけり文章を読み進め、そして読み終えたならば街へと出ましょう。もしかしたらまだ、貴方の知らない素敵な書店が待っているかもしれないのですから。たぶん
読者と本をつなぐ最初の接点である”書店”。
Web通販が勢力を拡大し、外に出なくても買い物ができるようになった現代でも、実際に店に足を運んで商品を買うという行動がなくなることはありません。いえ、むしろそんな時代だからこそ「実際にモノを手にとって買う」という行動ができることの意味が重くなってくるのではないでしょうか──。
書店員さんとして働いていた経験のある作者さんが実際にお客さんと接し、また本を商品として販売することに携わられてきた経験をもとに書かれたこの作品を読んだ感想は、そんなことを考えていた私の思いが一層強まるものでした。
知らないことや腑に落ちること、それから不思議なことやもっと知りたいこと・・・・・・色々な本屋さんの秘密がここにはあります。おもしろかった!
一つ読んでいて気になったのですが、固有名詞を伏せ字にすると、「その単語を知ってる人にしか通じない話」となってしまいます。
ですので、もし想定する読者の間口を広くとるのであれば、基本的に作品名などはそのまま出してしまったほうが詳しくない方にとっては親切なのではないでしょうか。(せっかくのWeb小説ですし、紙で読むよりもよっぽど簡単に知らない単語は調べられますからね)
昨今、ネットショッピングの(ある意味で)焼き畑農業的な戦略により青息吐息の書籍小売店業。
データによると一日一軒のペースで閉店に追いやられているとか。
この体験型エッセイは、作者さんが閉店間際ぎりぎりの二年間勤めていました。
その間販売した作品、売れ筋の推移、ネットやアニメとの連動で変化する売れ行き、レーベルごとの戦略が余すところなく書かれています。
作品のカラーでネットの方が売れる作品、ある意味で独壇場、自分のカラーを出せるラインナップ、『あのビニールのやつ』を一冊ずつかけていく手間ひま。
どれも想像や取材しただけでで書けるものではなく実際の経験値が如実に生かされています。
ネット小説を紙書籍、大手出版社で上梓したい、そんな人にもお勧めです。
もちろんこれを読んで今すぐ、などというものではありませんが、本を買ってくれる方、顧客の傾向を読み解けば見えてくるものも多いはず。
作者さんへ――――小売店が寂れていくのは時流です。個人的にもとても寂しいですが、決してあなたのせいじゃありません。
「取次」、「トーハン」、「返品制度」など、ただ書店に通うだけでは知ることのないような事柄についても簡単に、わかりやすくふれているので、書店をブラブラすること自体が好きなお人も目を通してみてはいかがでしょうか。上で挙げられた言葉について個人的に学ぶ機会があったため、おおよそ事実であることが窺えます。やはり書店は厳しい状況にあるようです。
ライト文芸というジャンルについては、10年ほど前にはまだ存在していなかっただろうと個人的には思うところです。現在、20代以上の年齢の方には何となく察せられるのではないでしょうか(個人のオタク歴にもよる?)。そういったところも含めて考えながら読むのが楽しい作品です。