第16話
先の聖戦によって天使を損傷させてしまったマリオン。傷ついた翼で天使ユリエルが向かった先はロドス島、マリオンは賢者アルキメデスのもとを訪れる。
「いかがした、美しき人よ。」
「お久しぶりです賢者殿。…実は激しき戦いの末天使が壊されてしまったのです。天使を直せるのは賢者のみ、アルキメデス様、どうか天使を見て頂けないでしょうか。」
「おお、誰かと思えばマリオン君じゃないか!通りで美しいと思ったよ。何々、天使が壊され…おおそうだ!君にぜひ報告したいことがあったのだ!私の工廠に案内しよう、汚いところだがゆっくりしていきたまえ。」
賢者アルキメデスはマリオンを工廠に招き入れる。だだっ広い工廠の隅には机と椅子、いくらかの工具が置いてある以外は何もない。数々の聖戦兵器を開発してきた賢者の工廠にしてはあまりにも殺風景である。
よく来たねマリオン君、まあ座りたまえ。ええと何だったかな、天使が壊れて…そうだ天使だ!実はねマリオン君、君が以前引き揚げてくれた巨人なんだが、それはそれは素晴らしい発見があったのだよ!マリオン君にはいくら感謝してもし足りないよ。さすがは天使操縦者だ、私一人で作業をしていたらあと何年かかって…。そうだ!天使が壊れたのだ!これは一大事だ、どうして早く言ってくれないのかねマリオン君!いつまでも座ってないで早く天使を呼び出したまえ!」
アルキメデスは慌てた様子で壁のボタンを探し始める。
「ええとどれだったかな…これじゃない…いやこっちかな…この隣の…そうだこれだ。ささ、マリオン君、ここに天使を呼び出したまえ」
アルキメデスがスイッチを押すと工廠の天井が開く。マリオンは言われた通り祈りを捧げ天使を呼び出した。
「おお、ひどい有様だ!見たところ動力もやられているようだ。しかし君は運がいいなマリオン君、私がいればもう安心だ。ええとこの天使は…ラファエル…ミカエル…いいやガブリエルだったかな?…まあ開いてみればわかるだろう。」
アルキメデスが祈りを捧げると突如工廠の床から無数の鋼触手が伸び始め、瞬く間に天使を分解する。特殊兵器用神造工廠、尋常ならざる信仰・集中力・技術を必要とするため賢者以外に扱えぬ代物である。
「おお、これはユリエルだったか!どうしてもっと早く教えてくれないのだねマリオン君!まあいい、思ったより損傷は少ないようだ、これならすぐに直せるさ。君は将来有望だ、賢者の技術をよく見ていたまえ」
工廠の床から更なる無数の触手が伸び、ユリエルの動力部を覆い尽くす。
「よし!これで完成…ああしまった!間違えてミカエルの動力を載せてしまった!しかたない一旦バラして…さて、気を取り直してユリエルの…あれ、これはガブリエルだったかな…それとも…んん?どうしようマリオン君、忘れてしまった!…ええい仕方ない、こうなったら一から作り直すしかない!」
工廠の天井が閉じる。床、壁、天井、あらゆる場所から無数の触手が伸び始め、天使の身体を覆い尽くす。瞬く間に天使の身体は粉微塵に分解され、信仰触手で一から作り直される。
「よし!これで今度こそ完成だ!ええと名前は…そうかユリエルだった、新生ユリエルだ!少しばかり外装を間違えてしまったがいいだろう、天使の本質は外見ではないからな。君もそうは思わないかねマリオン君。」
「おおさすが賢者様、これほど早く直してしまわれるとは。それに心なしか以前よりも強い力を感じますぞ!」
マリオンはあまりの出来事に驚きを隠せない。あまりに美事な賢者の早業、そして天使は以前にも増し神々しく光り輝いている。
「おお以前より力強いと!いいところに気づいたねマリオン君。先日君が引き揚げた巨人に未知の動力が」
「見つけたぞマリオン!よもやこのような辺鄙な島に隠れていたとは。そこのご老人!先程のけたたましい音、一体マリオンと何をしていたのだ!」
マリオンが振り返ればそこには甲冑に身を包んだノエルとドリアン、マリオンを追ってきたのだ。
「おお、マリオン君のお友達かね、よく来てくれた。まあゆっくりしていきたまえ。なにをしていたかって?よくぞ聞いてくれた!実はね、マリオン君の天使を改修していたのだよ。みたまえこの神々しい姿を!この姿の秘密が何かわかるかね?その通りだ!信仰と相転移が直結した神の奇跡、最近発見した新動力を搭載したのだよ!この動力さえあればまさしく聖典に現れる天使の如き力を発揮できるだろう!…ああしまった!また相転移の神秘を漏らしてしまった!ううむ、でも君たちはマリオン君のご友人…。まあいい、君らを殺して自害してからゆっくり考えるとしよう」
アルキメデスは両の手に工具を持つと風のごとくノエルドリアン二人の間をすり抜ける。すれ違いざま兜をかちわり二人の喉を掻き切った後、己の喉に工具の先端を突き立てる。
「…ん?おかしいな?喉を刺したのに私はまだ生きているぞ…。おおみたまえマリオン君!工具がひん曲がっているよ!不思議なこともあるのだなあ。これでは刺さらないわけだ。」
「我らは最上位の聖戦士、何物も我らの身体を傷つけることは出来ぬ。それよりご老人おぬし一体何者なのだ」
ドリアンはアルキメデスの早業にこの老人が只者でないことを感じ取る。しかしながら驚くべきは聖戦士、ノエルとドリアンの不可侵ともいえる美しさ。たとえどんな名刀であろうと彼らを傷つけまいと刃物自ら折れることを選ぶだろう。工具で傷などつくはずもない。
「私は賢者アルキメデス。おお、それより君たちは聖戦士だったか!たしかに聖戦士としか思えぬほど美しい!聖戦士なら神秘を漏らすこともないな、そうだろうマリオン君。いやあ危うく死ぬところだった、君たちが聖戦士でたすかったよ。」
「聖戦士の後ろを取る動き、我ら二人と目を合わせても顔色一つ変えぬ精神力、さすがは賢者殿です。それよりマリオン!先日は取り逃がしたが、神敵の分際で我らの素肌を見た以上生かしておけぬ!その上賢者をたぶらかし相転移の力で天使を堕天させるとは!我々聖戦士の名に懸けて、この神の属領ロドス島で裁きを下してくれよう!」
ノエルとドリアン二人の信仰が燃え上がるどこからともなく天使が現れ、聖戦士と一つになる。
「愚かな!これは賢者殿が進んでやったこと!先の聖戦で私が身を以て信仰を示したというのにまだ分からぬとは!いいだろう、このマリオンと新生ユリエル、お二方が納得するまで何度でも信仰を示してくれよう!」
マリオンの信仰が燃え上がり、天使ユリエルと一つになる。神の属領ロドス島にて、再び天使達が対峙する。
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