第18話

眩い光を放ち始める摩尼車、身構える聖戦士達。偶然の産物ともいえる天使ユリエルの新武装、一体何が起こるというのだろうか。

「…何も、起こらぬ。」

摩尼車の光は徐々に弱まり消え去った。何かが起きた様子はない。


「笑止!所詮は信仰を持たぬ古代人の浅知恵よ。下らぬ余興はこれまで。マリオン、正々堂々決着をつけようぞ!」

ノエルの信仰が燃え上がり、防衛転じて神敵討伐の態勢に入る。




―――複写完了。これより転経を開始する。




突如高速で回転を始める摩尼車。今までとは異質の衝撃が天使達を襲う。

「ぐぬ…なんだこれは…頭の中に何かが流れ込んでくる…!」経験したことのない衝撃に苦しみ始める戦士たち、いったいこれは何なのだ。

「分かったぞマリオン君、おそらくそれは思想洗浄装置だ!相転移の力を信仰動力と連動させ衆生の脳を神の教えで満たす、まさに至高の聖典だ!素晴らしい、やはり私の仮説は間違っていなかった!相転移エンジンは神へと至る鍵なのだ!」

神の従者マリオンの思想を複写した摩尼車。摩尼車の回転は思念波となりノエルたちに流れ込む。戦士たちの脳がマリオンによる神の教えで満たされていく。


「愚かな!このようなもの単なる洗脳兵器にすぎぬ!反逆者マリオン、破戒僧の精神汚染など聖戦士である我らに通用すると思うか!」

「神王国はこのような恐ろしき兵器を所持していたとは!だが相手が悪かったなマリオン!私は正義実行者、貴様ら邪教の洗脳などに屈しはせぬ!」

さすがは天使操縦者、類稀なる信仰でマリオンの思念波を押し戻す。もしも思念波が押し負ければマリオンの脳漿は破裂してしまうだろう。


「むむ!さすがは天使に選ばれし戦士達だ、なんという信念よ!もしここで私の脳が爆ぜてもそれは私の信仰が奇跡を起こすに足らぬというだけの事!戦士たちよ!我らの信仰と貴殿らの想い、どちらが正しいか神の審判を仰ごうではないか!」

戦士たちの信仰が燃え上がる、天使たちの出力も呼びかけに応え青天井に上昇していく。かつてないエネルギーがロドス島の上空で展開される。摩尼車の回転が光速を超えたとき、夥しき思念波の奔流と共にかつてない大きさの転移光が天使たちを包み込む。





―――オン……オン!





「マリオン!」

「…。ここは…。」

マリオンの目の前にあるのは神の門。あたりを見渡せばそこは次元間トンネル。ここは天の国の入り口。私は破れたのか。神はなんと慈悲深いのであろうか、聖戦に敗北した戦士に迎えをよこすとは。





「一秒ほど気を失っていたようだな。そのような事では戦士は務まらぬぞ。」

マリオンはノエルの呼びかけで正気を取り戻す。天使たちの無限ともいえるエネルギーはマリオン達を一秒で次元間トンネルの終点に転移させたのだ。


「くっ…気絶など神の従者として一生の不覚…。なぜ止めを刺さぬ?」

「馬鹿なことを申すな。我らが同志、真なる聖戦士を殺めるなどなぜできようか!」

「…!ノエル殿、ドリアン殿…!」

次元の間を満たすは摩尼車から放たれたマリオンの思念波。天はマリオンを選んだのだ。


「許してくれマリオン!私の人生は一分一秒全てが誤りだった!神の教えを知らぬまま生き偽りの邪神にうつつを抜かしていたなど、愚かな私はこの罪をどう償えばいいのだ!」

山の国のクレオもまたマリオンのおかげで真なる神の教えに目覚めた。今までの人生を振り返りつつ、涙を流し己の罪を懺悔する。


「よいのだクレオ。汝は教えに目覚めた、神は必ずや罪を赦してくれるだろう。」

クレオを含めここにいる四人は今や真なる神の教えに目覚めた聖戦士、いわば神に選ばれし者と言ってもよい。

「さあどうする、わが同志達よ。我らは今や真の聖人。目の前には天の門、今すぐにでも永遠の安息を得ることが出来るであろう。」


「そんなもの聞くまでもない!」

「我らの答えは決まっておる!」

ノエルとドリアンが即答する。

「我らの使命は正義で世を満たす事なり!今すぐ再び地上に戻り、神の教えを広めるのだ!」

真の教えに目覚めたクレオにも迷いはない。

「おお同志達よ!汝らならそう答えると思っていたぞ!行くぞ聖戦士達よ!安息にはまだ早い、地上に戻りて我らの神命を果たすのだ!」

再びマリオン達の信仰が燃え上がる。天使達の出力が上昇し、四大天使は次元間トンネルを凄まじきスピードで下ってゆく。





ロドス島の上空に転移光が出現、現れたるは四人の聖戦士。最初の転移に一秒、戦士たちの決意にコンマ五秒、帰還の転移にコンマ一秒合わせて1.6秒。島民たちは1.6秒に及ぶ眩き発光と天使たちの神々しい姿を前に、皆一様にひれ伏した。


「行くぞ皆の者!この地に神の教えを広めるのだ!今の我らなら出来るはずだ!」

マリオン達の信仰が燃え上がり、天使の出力が上がっていく。摩尼車の回転が光速を超え、相転移の力に目覚めた四大天使の力が思念波をロドス島中に拡散する。

戦士達の思念波がロドス島の島民にしみわたる。島中の信仰動力が反応し、さらに思念波が拡散していく。

神王国と山の国。長きにわたる聖戦で世界中に普及した信仰動力、その全てが共鳴し瞬く間に神の教えが世界を満たす。

世界中全ての人、動物、植物が神の教えに目覚めたとき、生きとし生ける全ての者たちの信仰を受けて天使たちの出力は無限となる。


「おお、感じるぞ!今この世に生を受けしすべての者が神の教えに目覚めた!まさしく世界が神の正義で満たされたのだ!」

美事なり聖戦士達。あらゆるものの信仰を一身に受け、マリオン達は己の使命が果たされたことを身を以て知るのであった。


「おお、見るのだマリオン!天から降り注ぐあの光を!」

ノエルが指さす先には転移光。天使達の無限の出力に呼応し出現したのであろう、もはや世界を飲み込まんばかりの大きさである。



「今の私には分かる、あれこそまさに終末の光!全ての者が神の教えに目覚めた今、この世界は仮の世を離れ神の次元に旅立つのだ!」

マリオン達の信仰が燃え上がる。

「行くぞ!我らの力でこの世界を神の世に導くのだ!」

四大天使の出力が無限に上昇し、聖法バリヤーが世界を包む。転移の光が全てを飲み込んでゆく。



聖人ノエル並びに天使ミカエル。

聖人ドリアン並びに天使ラファエル。

聖人クレオ並びに天使ジブリール、改め天使ガブリエル。

聖人マリオン並びに天使ユリエル。

四人の聖人と四大天使は衆生を神の世に導き、使命を終えた聖戦士たちは永遠なる安息の地に旅立つのであった。

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聖戦士マリオン @SPmodeman

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