第7話

王都から東に位置する国、天竺の都の外れに異教徒達の寺院はあった。

天竺が神王国の属国となって以来人々は神の教えに目覚め、仏教は廃れもはや彼らの拠点はこの寺院しか残っていない。

荘厳な石造りの寺院、しかしその隣には不気味にそびえる悪趣味な金色の像。この一帯だけは何故だか不気味な風音が聞こえてくるようだ。まさに聖法を弄ぶ外法どもの棲家にふさわしい。


「お待ちしておりました、異国の方々❤あなたがたが此処へ向かっていることは高次元世界との接触で既に予知しておりました❤」

マリオンを始めとする神王軍を出迎えるのは尼僧寂聞、仏門を極めた天竺の高僧である。だがその目はどこか邪な光を宿している。

それもそのはず、寂聞が身に纏いしは法衣とは名ばかりの淫らな装束、その剥き出しの股には男の色欲棒を模した黒い張型。外法の力で動いているのだろうか、先程から聞こえる風音の正体はこの禍々しきからくりが発する振動音だ。


「驚かれましたかな、異国の方よ。寂聞様は既に一切の煩悩を捨て悟りを開いた身、本来ならばすぐにでも解脱出来るお方。しかしながら心優しき寂聞様は、衆生を見捨てておけぬと寿命が尽きるその日まで、色欲に身を浸し現世に留まる道を選ばれたのです。」

寂聞の脇に従う小僧の一人がそう話す。見れば皆眉目秀麗な少年少女ばかり、彼らが普段寂聞からどのような命を受けているか、想像に難くない。

寂聞は己の解脱を防ぐため、自身の色欲によって肉体を現世にとどめているのだ。


「異教のものどもよ、事の次第では神の教えに帰依すれば見逃してやろうと考えていたが、どうやら私が浅はかだったようだ。貴様らのような色欲狂いを赦すほど神は寛大ではない。」

救世を騙り民の高潔な魂を汚染する外法の僧。このようなものを神王軍として決して見過ごすことは出来ぬ。


「外法の娼婦寂聞!神の名のもとに聖戦士マリオンが裁きを下してくれよう!」

マリオンが高らかに聖戦の開戦を告げる。マリオンの信仰が高まり、どこからともなく天使が現れる。異形の像を天から見下ろすその姿、まさしく異教徒を正しき道へと導く聖典の天使そのものである。


「愚かな異国の者たちよ…❤小僧衆、お前たちは下がりなさい❤無益な殺生は好みませんがこれも救世の為❤ガルバ起動準備❤これより救世いたします❤❤」 

脇を固める小僧が下がれば代わりに屈強な僧兵たちが現れる。股座の張型が抜け落ち、寂聞が瞑想を始めると、金色の外法像が動き出す。僧兵たちが己の色欲棒で寂聞の肉体を荒々しき淫欲の波に飲み込めば、外法像が出力を上げ寂聞達と一体となる。

救世法具ガルバ。神を信じぬ異教徒の悪しき兵器、異形の力で動く信心を否定するかのごとき世を乱す神敵である。


「娼婦寂聞よ、吐き気すら覚える貴様の振る舞い、最早生かしておけぬ。神に仇なす異形の像と共に、地獄で悔い改めるがいい。」

マリオンの怒りが信仰となり、天使の出力が上昇する。天使の周囲には聖性が満ち溢れ、神の裁きが神敵ガルバに下る。


寂聞は瞑想を深める。ガルバの周囲に諦念結界が展開され、神の裁きがかき消される。

「矮小なる異国の者よ❤偉大なるガルバの動力は高次元世界とーの接触でエネルギーを取り出す相転移エンジン❤あなた方の信仰動力では❤ガルバに傷一つつけることは出来ません❤❤」

寂聞がさらに瞑想を深め、僧兵たちは腰の躍動を一層激しくする。ガルバを纏う諦念結界が膨張し、取り込まれた兵たちは粉微塵となっていく。

天使は聖法バリヤーを展開するが、ガルバが発する外法の力に圧され動くことが出来ない。


「聖戦士マリオンよ、見ればそなたは美しい❤ここで粉微塵となるより、我らが救世の礎となるのが世の為というものです❤仏門に帰依し、世の為人の為私と共に色欲の海に身を浸そうではありませんか❤❤」

「私がそのような悪魔の甘言に乗ると思うか、娼婦寂聞よ。私の肉体は毛髪一本、細胞一個に至るまで神への奉仕のためにある。貴様ら色欲狂いと共に外道に落ちる道理はない。」

マリオンをはじめ、敬虔深い神の徒は皆神に身を捧げている。神王軍の聖戦士然として、マリオンの回答に一切の迷いはなかった。


「ならば仕方ありません、異国の者よ❤はあなたが輪廻の果てに仏教に出会うことを心より祈りましょう❤❤」

深き瞑想と荒き息遣いが極まり、諦念結界の出力が高まる。聖法バリヤーは今にも破られんばかりだ。


「---同志マリオン、聖戦開始の合図を受け我ら聖戦士三人衆が援軍に参りました!貴殿に天誅砲の使用許可を要請します!」

見方から援軍が入る。見ればはるか後方にはわが神王軍が誇る天誅砲、それを操る聖戦士三人衆の姿があった。

聖戦士三人ががりでなければ動かない、決戦兵器天誅砲。その威力はガルバはおろかマリオンが操る天使や天竺の都そのものを吹き飛ばしてしまうだろう。


「同志たちよ、援軍に感謝する。天誅砲を発射し、我共々あの禍々しき外法像を滅するのだ。」

マリオンに迷いはない、天誅砲に力を与えんと、マリオンの信仰はより一層燃え上がった。

「ご協力感謝します!聖戦士マリオンの名は、英雄として後世まで永遠に語り継がれるでしょう!」

聖戦士マリオンが見せた決死の決意、同志たちの信仰はマリオンに負けてはならぬとより一層燃え上がる。天誅砲の出力が瞬く間に上昇する。



「あのような兵器で天竺の民を傷つけてはなりません❤どうやら私も現世を去る日が来たようです❤」

寂聞は色欲で澱んだ眼を閉じる。


「如来光発現準備。総員抽送を止めなさい。」


「畏まりました。寂聞様と共に涅槃へ行けるなど、光栄至極の極みです。」

僧兵たちの腰が止まる。寂聞が本気で瞑想を行うと、金色のガルバが光り輝き諦念結界ごと亜光速移動を始める。


「緊急!上空から神敵反応!間もなくこちらに到着します!」

見張りの兵が叫ぶ間もなく、聖戦砲の上空にガルバとその諦念結界、そして結界に封じ込められた天使ユリエルが出現する。


「如来光発現。これより解脱します。」

ガルバの光が一層強まり天誅砲や神王軍、天使ユリエルを包んでゆく。如来光による高次元世界への過剰接触によって次元間トンネルが出現、ガルバの光はすべてのものを飲み込み高次元世界へと転移するのだった。

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