第14話

山の国が誇る能天使軍団。仏教徒との戦いから約一年、偽天使たちの軍団は各地で猛威を振るい、山の国はかつての倍ほどに領土を広げていた。


神王国と山の国の国境。今日もまた能天使軍団が神王軍防衛部隊を襲う。前線の聖戦車は瞬く間に粉微塵にされていく。いくら神王軍の戦士といえど、あのような怪物相手では分が悪かろう。戦士たちの奮闘むなしく、今日もまた神の地が蹂躙される。

あれよという間に全ての戦車が破壊され、もはや残るのはわずかな猟兵のみ。悪魔の魔性が膨れ上がり、偽天使達から止めの雷が放たれようとしている。このまま死んでは神に申し訳が立たぬ、敬虔深き兵たちはせめて一矢報いようと悪魔の群れに向かって聖戦砲を構える。


戦士達に残虐非道な悪魔の雷が下る。おお勇敢な戦士たちよ、全知全能の神は必ずや汝らの信仰を見ていよう。たとえその身が滅びようとも魂は天に上り永遠の安息を得るであろう。

否、神の子らはまだ生きている。悪魔が放った雷は、突如何らかの力でかき消されていく。


「神王の同志よ!このマリオンが来たからには何も恐れることはない!」

雷をかき消したるは天使ユリエルの遠隔聖法バリヤー、悪魔の軍団の遥か上空には我らが神の従者マリオンの姿があった。


「神の世を乱す悪魔の群れよ!神の名の下に、このマリオンが裁きを下してくれよう!」

マリオンの信仰が燃え上がる。天使ユリエルの出力が上がり、神の光が偽天使達の頭上に降り注ぐ。天使が放つ昇天光は瞬く間に悪魔の軍団を消滅させ、神の地に満ちた穢れを浄化していく。


神の奇跡を目撃した神王軍防衛部隊。今やマリオンは神王国にとって神敵扱い、神王軍はマリオンを見つけ次第始末する事となっている。

しかしながら、今マリオンに刃を向けようとするものは誰一人としておらぬ。それもそのはず、奇跡としかいいようのない天使の力、マリオンの圧倒的な信仰と美しさ、マリオンが神敵などではない。神の従者に他ならぬことを全身で理解してしまっているのだ。


「聖戦士万歳!マリオン様万歳!」

どこからともなく声が上がる。マリオンを讃える声は瞬く間に全軍に広がっていく。それを顧みることなく何処かへ飛び立つマリオン。破戒僧マリオンの孤高の戦いはこれからも続くのだ。



「見つけたぞマリオン!各地で勝手なことをしているようだが貴様の思い上がりもここまでだ!」

飛び立つマリオンを呼び止める美しき声。声の主はいかめしい甲冑に身を固める二人組、それを見た周囲にどよめきが起こる。


「その声はノエル様にドリアン様!我が同志よ、なぜあなた方がここにいるのですか。」

聖戦士ノエルと聖戦士ドリアン。かつてマリオンが共に戦った同志達だ。


「破戒僧マリオン、もはや我々と貴様は同志ではない。貴様のおかげで下らぬ天使信仰が各地に広まっておるのだ。」

ノエルとドリアンの信仰が燃え上がり、どこからともなく天使が現れる。


「破戒僧マリオン並びに堕天使ユリエル!外法を広める汝の行い、神の従者として決して見過ごすことは出来ぬ!我ら聖戦士の名に懸けて、貴様の命もらい受ける!」

ノエル操る天使ミカエルにドリアン操る天使ラファエル。神王国最強の二大天使がマリオンの天使ユリエルと対峙する。三人の聖性がぶつかりあい、天使同士の戦いが始まろうとしていた。

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