第13話

神敵の襲来に一人立ち向かうマリオン。ロドス島を襲うは山の国の能天使軍団、彼らを率いるはマリオンが見覚えのあるものであった。


「あれは天使ガブリエル!いや違う…では、あれはいったい何なのだ!」

天使ガブリエル、神王国が誇る大天使のうちの一体である。よく見れば細やかな装飾に差異があるものの、あれは天使ガブリエルに違いない。


「見つけたぞマリオン!リフテンでの決着、このロドス島でつけさせてもらう!」

天使ガブリエルから聞こえるのはマリオンが良く知る人物の声であった。


「貴様はクレオ!なぜ貴様がガブリエルを操っている?」

「天使ガブリエルなどもうおらぬ。ここに見えるは我らが天使ジブリール、偽天使が転生した真の天使よ!」

げにおぞましきは山の国よ。彼らは天使ガブリエルを撃破、拘束するだけでは飽き足らず、邪道の力で改修し天使を我が物としたのだ。


「おのれ異教徒どもめ!我らが聖法を弄び天使を堕天させるとは。貴様らの悪魔の所業、神の従者として許しておけぬ!」

マリオンの信仰が燃え上がる。どこからともなく天使が現れ、山の国の偽天使軍団と対峙する。


「ようやく姿を表したか偽天使よ!ユリエル並びに虐殺者マリオン、我らが神の名に懸けて、正義実行者クレオが裁きを下してくれよう!」

ジブリールの出力が上がっていく。神の属領ロドス島に邪教の魔性が満ち溢れ、ユリエルが放つ聖性と激しくぶつかり渦を巻く。


「どうしたマリオン!一年の間に腕が鈍ったか!」

ジブリール率いる能天使軍団。彼らが放つ恐るべき魔性が孤軍奮闘の天使ユリエルを圧倒する。


「おのれジブリール!よもやこのような邪法にここまで押し込まれるとは!」

己の信仰に迷いが生じているマリオン。天使の出力が思うように上がらず、ただでさえ恐ろしい相手に苦戦を強いられている。天使ユリエルの機体はあまりの衝撃に音を立てて軋みはじめ、聖戦バリヤーは今にも破られんばかりだ。



「マリオン君!助太刀に来たぞ!」

後方からマリオンを呼ぶ声がする。そのよく通る声の主は賢者アルキメデス、彼も戦うつもりであろうか。


「賢者様、お下がりください!ここは私が食い止めます故、そのような旧式機体では悪魔の群れには敵いませぬ!」

アルキメデスが乗り込むは神王軍の新鋭兵器、対神敵用重戦車。しかしそれも昔の話、今は単なる市街戦用装甲車、天使はおろか聖戦車よりはるか以前の旧式兵器に過ぎぬ。


「おお、君は天使と戦っているのかねマリオン君!見れば新しい信仰動力で動いているようだな、量産機にも関わらずあの出力、自然神学者として実に興味深い。君もそう思わないかねマリオン君…。君は聖戦士ではないかマリオン君!聖戦士ならあのような神敵簡単に屠れないでどうするのだね!まあいい、私が見本を見せてあげよう、後学のためよく見学したまえ。」

話を聞かぬアルキメデス。どうやら本当に悪魔とやりあうつもりらしい。


「何なのだあの装甲車は。よもや本当にあれで我が軍に歯向かうつもりではあるまいな。仕方ない、たとえ弱者であろうが神敵は神敵、異教徒相手に容赦はせぬぞ!我が同志よ!思いあがった異教徒を殲滅せよ!」

偽天使の一体から放たれる悪魔の雷、アルキメデスは難なく躱す。その速さ、装甲車の速度ではない。


「げに恐ろしき出力よ!聖法を乱すあの力、賢者として決して見過ごすわけにはいかぬ。被害が広がるその前に、この場で私が屠ってくれよう…。それにしても素晴らしい動力だ。ここ最近は相転移エンジンの研究ばかりだったが、なかなかどうして信仰動力も進んでいるのだな。よし!ここは研究の為に一機…いや二、三…。とにかく何機かもらっておこう!マリオン君!君はそのまま魔性を防いでくれたまえ!」

悪魔の雷が幾重にもなり装甲車に降り注ぐ。それを受けるはアルキメデス、類稀なるハンドル捌きで邪法の雨を掻い潜り、正確無比な砲身操作で悪魔に向けて弾を撃つ。両手両足心の臓、賢者の放つ聖弾があれよと言う間に悪魔の身体を打ち砕く。


「みたまえマリオン君!どうやらあれは五発当てれば落とせるようだ。どうだ、君もやってみるかねマリオン君…。君は聖法バリヤーを張らなきゃダメだろう!よそ見をしないで自分の作業に戻りたまえ!…ああしまった!これは中央部に動力があるタイプか!思わず大事なサンプルを破壊してしまった!仕方ない、次からは胸の代わりに頭を狙うことにしよう。」

何の変哲もない装甲車、そしてその武装もなんの変哲もない聖戦弾である。しかし賢者アルキメデスの放つ弾は、どう見ても装甲車の威力ではなかった。悪魔達の攻撃にひるむ事なく、一機また一機と能天使を撃ち落としていく。天使開発者アルキメデスの異動先は聖戦部隊。天使が台頭するまでの僅かな期間、数々の神敵を屠ってきた知る人ぞ知る歴戦の兵つわものである。


「一、二、三、四、五…よし!これだけ集めれば十分だろう…。いやダメだ、最初の一機は動力を壊してしまったのだった!まあいいや。あと一機…しまった、弾がない!私としたことが補給を怠っていたようだ!すまないマリオン君、悪いがあと一機ほど落としてもらえないだろうか?」



「よかろう賢者アルキメデスよ。我が信仰の力、とくと見るがいい。」

天使の出力が上がっていく。アルキメデスの戦いがマリオンの心に火をつけた。武器の性質など関係ない。重要なのは信仰心、神に対する奉仕の心そのものなのだ。


「天使ユリエルの途方もない力の正体、一介の戦士である私には知る由もない。しかしこのマリオンの信仰心、神に誓って嘘偽りなどありはせぬ!」

天使の聖法バリヤーが再び力を取り戻し、瞬く間に悪魔の魔性を打ち払う。


「私は神の従者マリオン、神命実行のためこの世に舞い戻った。異教の戦士クレオ並びに堕天使ジブリール!穢れにまみれた汝らの身体、神と向きあい邪法の穢れを祓うがよい!」

マリオンの信仰が今までにないほど燃え上がっている。かつてないほどの聖性が圧縮され、悪魔の軍団に向け一気に放出される。

天使ユリエルが放つ神聖相転移砲は山の国の悪魔たちを一気に飲み込み、神の光が偽天使たちを一体残らず天国へと誘うのであった。



「見事だマリオン君!さすが聖戦士、あれほどの敵を一体残らず粉微塵にしてのけるとは…。これでは動力が回収できないではないかマリオン君!私は一機落としてほしいと言ったのだ!これでは一機も回収できないではないか!全く、君は本当におっちょこちょいだなマリオン君!」


「賢者殿、あなたのおかげで迷いを捨て去ることが出来た。お礼と言っては何だが、山の国の能天使などより役立つものを差し上げたい。」

天使ユリエルは海へと降り立つ。天使の聖法バリヤーが海面を割り、海に沈む巨人を悠々と引き揚げる。巨人を抱きかかえ天に昇りしその姿、まさしく人々を救う天使そのものだ。


試練を乗り越えより一層の信仰に目覚めた聖戦士マリオン。その雄姿は人々の心に深く刻み込まれ、ロドス島の人々に終末の世まで語り継がれることであろう。

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