第3話

「お待ちしておりました、聖戦士殿。」

ワの国についたマリオンは、神王軍に出迎えられた。


「ご苦労。しかしどういう事なのだ、神王軍が蛮族ごときに苦戦を強いられるとは。それほどまでにヒミコの呪術は強力なのか。」

「それもありますが…。お恥ずかしながら神への信仰が足らぬこの地では、聖戦兵器が本来の力を出せないのです。」

マリオンの問いに出迎えの兵が申し訳なさそうに答える。

聖戦兵器の動力は信仰である。宣教師達の尽力によりワの国にも神王教が広まってきたとはいえ、未だこの国では土着信仰が主流である。


「任せておけ。必ずや呪術を撃ち破り、ワの国を神の正義で満たすのだ。すぐに現場へ向かう」

ヒミコの力が強力とはいえ、所詮は蛮族が組み上げた幼稚な呪術だ。天使の力にかなうはずがあるまい。



戦場についたマリオンが目にしたのはおぞましい光景だった。

おぞましく醜い5メートル程もある人型の怪物達。神王軍の聖戦車部隊は怪物の素早い動きと剛力に翻弄され、一機また一機と引き裂かれていく。

「あれはヒミコが使役する醜女しこめと呼ばれる物の怪です。皆あの物の怪たちに苦戦を強いられています」


「あのような醜い物は神の世に存在してはならぬ。神に代わって私が裁きを下してくれよう」

何処からともなく天使が現れた。怪物の群れを見下すその姿は、さながら終末の世に現れた救世主のようだ。

天使と一体化したマリオンが正義を実行する。信仰が根付かぬ土地故普段より出力が低いが、醜女どもを屠るには充分すぎるほどだ。天使の聖性によって瞬く間に怪物達が浄化されていく。


「さすが聖戦士殿だ。醜女などものの数ではない。神王国万歳!」

神王軍から歓声が沸き起こる。醜女を蹴散らせば、残るのは原始的な武器しか持たぬ蛮族だけだ。あとは聖戦用戦車部隊だけで充分だろう。


「あきらめてはなりません。皆で力をあわせ異国の神からこの神聖なる土地を守るのです。」

ワ国側から声が挙がった。見れば年端もいかぬ少女ではないか。

少女が呪詛を唱えると地鳴りと共に巨大な山が姿を現した。


「恐れることはありません。我らの神ヤマタノオロチが我々を守ってくださります。」

山に見えたそれは、山ではなく巨大な怪物だった。八本の首をもつ禍々しい竜、ヤマタノオロチと呼ばれる精霊だ。


ヤマタノオロチが火を吹く。天使は聖法バリアーを展開するが、防ぐだけで精一杯だ。


「うおー!ヒミコ様ばんざーい!」

絶望の底に沈んでいた蛮族達が再び希望を取り戻す。見ればヒミコの親程の年齢の兵達が、男も女も恋する少年少女のようなまなざしをヒミコに向けている。


「ヒミコめ、なんとおぞましい。あのような邪神を使役するばかりか蛮族どもに邪な癖を植え付けているとは。もはやこの世に生かしておけぬ。」

マリオンの怒りは信仰に変わり、天使の出力が上昇する。


「聞け、ワの国の民よ。我らが神は貴様らのような小児性愛者の存在を赦すような慈悲を持ち合わせておらぬ。聖戦士マリオンが神に代わって正義を行い、貴様らの歪な信仰を矯正してくれよう」

聖法バリアーが炎をかき消す。戦場は神の奇跡に満ち溢れ、邪神ヤマタノオロチと小さき毒婦ヒミコは瞬く間に粉微塵となった。


「おお…あの方こそ神の使いだ…。」

指導者ヒミコをうしなったワの国の民。しかしながら、神の奇跡とマリオンの性を超越した美しさを目の当たりにした彼等の信仰は矯正され、毒婦ヒミコをうしなった悲しみよりもこれから真の神に仕える事ができる喜びの方が大きかった。


「マリオン様ばんざーい!神王国ばんざーい!」

マリオンを見るワの国の民の目にはかつてのような邪さは宿っていない。劣情を抱くことすら許さぬマリオンの完璧な美しさの前に、彼等の瞳にはただただ尊敬と信仰の輝きで溢れていた。

晴れて正式に神王国となったワの国。彼らのもとにはこれからも正義の祝福が降り注ぎ、未来永劫神の属領として繁栄し続けるであろう。

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