第8話

外法僧寂聞が開いた次元間トンネル、高次元世界にへとつながるその道は、凄まじき転移の衝撃で満ちていた。

神王軍の兵たちと天誅砲を操る三聖戦士は、既に転移の衝撃に耐えきれず粉微塵となってしまった。


「おのれ寂聞!まさかこのような外法道へこの聖戦士を引き込むとは!」

この場に残るのはマリオン操る天使ユリエル、寂聞と僧兵たちが搭乗する外法像ガルバのみである。転移波を防ぐ天使の聖法バリヤーも、このままではいつまで保つか分からぬ。

 

「感謝しなさい、異国の戦士マリオンよ。我々は大いなる如来光に導かれ、輪廻の苦しみから解放された高次元の涅槃へと向かっているのです。」

そこにはもはや色欲にまみれた邪教の尼僧の姿はない。高次元世界へと向かう寂聞の表情

は、どこまでも穏やかであった。


「感じるのです、涅槃の導きを。転移が進む度、我々の精神は高次元に近…づい…て…」

寂聞の様子がおかしい。先程までの穏やかな表情が、次第にゆがみ始める。


「一体これは…私の身体が…涅槃に…拒まれ…て…❤」

寂聞の目に再び色欲の光が宿る。煩悩にまみれた寂聞の身体は高次元に耐えられず、精神と肉体が分離しようとしていた。


「ああ…❤魂が…抜けていく…❤身体が…遠ざかって❤……❤❤❤❤❤」

寂聞と僧兵の肉体から精神が完全に分離する。剥き出しになった精神は転移派の衝撃に耐えきれず、瞬く間に粉微塵となる。


「!!!!!……❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤」

寂聞の目にはもはや浅ましい邪光のみが写る。僧兵達は色欲棒が発する邪念のしもべとなり、寂聞とともに煩悩の渦へと飲まれていく。



哀れなり淫僧寂聞。これが世の理を弄ぶ外法どもの最期よ。魂を失った寂聞と僧兵達の肉体には現世の俗に塗れた色欲だけが残り、次元の間で未来永劫まぐわい続けるであろう。




「同情はせぬぞ、異教徒たちよ。私の使命は神の正義でこの世を満たすこと、このような奇怪な空間で命を捨てるわけにはいかぬ。」

マリオンには彼らにかまっている暇などない。己の使命を果たすため転移の衝撃に砕かれまいと、聖戦士はより一層の信仰で聖法バリヤーを展開し続けるのだった。








気の遠くなるような永い間、マリオンはその強固な信仰心を保ち、転移の衝撃に耐え続けていた。敬虔な神の徒マリオンの前に、いよいよ次元間トンネルの終点、高次元世界の入り口が見えてきた。


「これが高次元世界の入り口…ここから先へ進めるというのか…。」

眼前にある入り口は、さながら聖典にある天国への入り口のようである。これが天国の入り口であるなら、現世で戦い抜いた聖戦士に対する神からの労いに他ならない。

我らが聖戦士マリオン。聖戦を戦い抜いたその高潔な魂は天に上りて神と共にあり、マリオンはすべての神王教徒の見本、聖人として終末まで永遠に語り継がれるであろう。





「神よ!生涯ただ一度の大罪をお許し下さい!私は聖戦士、あなたの教えで地上を満たすまで、私は戦い続けなければなりません!」

天晴なり神の従者マリオン。安息を拒み聖戦の道を進むその姿、まさしく真の聖戦士だ。


「待っていてくれ神王の民よ。もはや一刻の猶予も許されぬ、神の導きに背いた咎で地獄に落ちようとも、天使ユリエルの力を以て再び現世に戻り、神の正義で世を満たさねばならぬのだ!」

天使ユリエルの信仰動力は再び出力を上げる。聖戦士マリオンは、再び現世に続く長い長い次元間トンネルを進み始めるのだった。

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