第11話

かつての神王国第二都市奪還のため、ウィーンに旅立つマリオン。かつて神の信仰が溢れた地に蔓延るのは、世にもおぞましい怪物達だった。


「なんということだ。山の国はあのようなものを完成させていたとは!」

ウィーンに到着したマリオン達が目撃したのは偽天使ウリエル。それも一体ではない、かつてユリエルを苦しめたおぞましき偽天使が群れをなし、悪魔の軍団となって神王軍を待ち受けていたのだ。


「あれが山の国の新兵器、量産型能天使です。やつらのせいで何人の神徒が犠牲になったことか…。」

恐るべきは山の国。神の使いたる天使を模倣するだけでは飽き足らず、超高効率信仰動力によって偽天使の量産化を成功させていたのだ。


「来たか邪教の戦士よ。貴様が各地で働いた狼藉の数々、このウィーンにまで知らせが届いておるぞ。しかしそれもこれまで、死にぞこないが一人増えたところで我らが誇る能天使軍団の敵ではないわ。大罪人マリオン!我らが神の名に懸けて、能天使軍団が貴様を撃ち滅ぼす!」

悪魔たちの出力が上がっていく。その一体一体がかつてリフテンを襲撃した偽天使ウリエルに匹敵する魔性を発揮している。悪魔たちの邪法がウィーンの地を蝕み、その瘴気にあてられた前線の兵士たちが次々と粉微塵にされていく。


「見くびるな邪教の徒よ。貴様ら急ごしらえのガラクタがいくら集まったところで、この大天使ユリエルを止めることは出来ぬ。」

マリオンの信仰が燃え上がり、どこからともなく天使が現れる。天使ユリエルからあふれ出る聖性が瘴気を浄化し、聖法バリヤーが悪魔の魔性をかき消していく。


「異教徒どもよ、神に代わってこの天使ユリエルが裁きを下す。おぞましき偽天使を量産し神都ウィーンを侵略した罪、この世では到底贖いきれぬ。地獄の業火を以て贖罪とするがよい。」

天使の出力がかつてないほどに上がっていく。自らの意思で聖戦を選んだその熱き信仰の前には邪教の天使などものの数ではない、圧倒的な聖性が悪魔の軍団を瞬く間に粉微塵にする。


「これにて邪悪はこの地から去った。ウィーン奪還を以て、神王国再興の第一歩とする」




天使に向けて突如どこからか砲弾が放たれる。まだ生き残りがいたか。間一髪で躱したマリオンは不届きな残党を撃ち滅ぼすため、弾が飛んできた方向へ構えた。


「貴様の戦いしかと見届けさせてもらったぞ!その力、まさしく仏教徒が操る異形の力なり!」

なんと目を向けた先には神王軍、砲弾は味方の聖戦車から放たれたのだ。


「バカな、私の力は全て神に対する信仰によるもの!あのような外法の力であるはずがない!」

「嘘をつくな!貴様の戦いは各地で目撃されているのだ、おまけに今見せた悪魔の軍団を一瞬で屠る恐ろしき力、神の信仰が失われたウィーンの地であのような出力が出るものか!」

神王軍聖戦兵器の全砲門が天使ユリエルに向けられる。


「聖戦士よ!異形の力に手を染めた罪により、汝に破門を申し付ける!破戒僧マリオン並びに堕天使ユリエル!精神汚染が進んだウィーンの愚民共とまとめて、神の名のもとに貴様らを撃ち滅ぼしてくれよう!」

号令と共に全砲門から聖戦弾が発射される。敬虔なる神の従者が今まで経験したことのない、味方からの聖性がマリオンを襲う。


「愚かな!真の敵を見間違えたか。天使の力は神敵を屠るのみにあらず、汝ら神と向き合い懺悔するがよい!」

天使の出力が上がっていく。神聖結界が周囲に広がり、聖性にあてられた聖戦兵器群の動力は一瞬にして停止する。


「この聖戦士マリオン、誓って神の教えに背くような行いはしておらぬ。敬虔なる神の従者達よ!しばしの間神と向き合い、真に討つべき相手は何か、己の心に問い直すがよい!」

愚かなる神の子らを尻目にいずこかへ飛び立つ天使ユリエル、その姿はどこか哀しみに暮れていた。

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