ひさびさにいいなあと思った小説ですね。多くの作品の中でも一際異彩を放つ世界観、キャラクター、展開、抜け目のない伏線の回収。まちがいなく良作です。
もちろんドールという乙女の世界、男性的な作品ばかり書いたり読んだりしている私には、完全には共感できていない部分もあるかもしれません。しかし恋愛ものとしての感情の機微や、色鮮やかなドールブティックのイメージははっきり伝わってきました。かわいらしさ、美しさというのはジェンダーを超えるんだなーって思いました。
キャラクターではメルのところへ訪れる双子のユイハとユウハが好きですね。シーンで好きなのはお茶とお茶菓子。何かといってはその描写が挟まれるのですが、これが読者の想像力をかきたてる程よいアクセントになっており、うまいです。ラストのアレが実はアレだったなんてのもお約束ではありますけど、期待通りで良かったですね。
私は小説を読むときにカラーを重視するんですが、「他では読めない面白さ」や「読者に届く作品にこめた熱意」はまちがいなく成功しています。カラーが強い、しっかりした世界観と一貫性のある筆致に支えられた作品です。
好きで好きで仕方がない。伝えたくてたまらない。それがこめられた小説です。是非、みなさんもメルの隣でこの世界を感じ、味わってほしいと思いますね。
舞台はどこかの世界のどこかにある“花咲く都”。騎士を目ざしていたメルレーテ・ラプティは邪術師の呪いで剣を持つことができなくなった少女だ。
これ幸いと政略結婚を進め始めた家族に絶望し、家を飛び出して夜の街を駆ける中、彼女は運命との会合を果たす。運命の名は『ドールブティック茉莉花堂』。
彼女はドールドレス職人として、新しい自分の人生へ一歩踏み出した。
主人公のメルレーテさんはもちろんですけど、ブティックのお客さんもみんな乙女です!
ドールというものが持つ魅力や魔力、その粘土でできた体を飾るドレスの素敵さ、特別さがこれでもかと詰め込まれた、愛あるエピソード満載です!
読んでて思わずにやーりとしてしまいましたよ数十回。そしてこの作品、愛だけじゃあありません。
作者さんのやわらかな筆が情景をふんわり且つ精細に描き出してくれていて、実に想像がはかどるんですよねぇ。
恋の行方なども含めまして、最初から最後まで目が離せない一作です。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)
この物語のストーリーの面白さは他の方がレビューで書いているようですので、私は違う視点で。
自分だけの一品を持ちたいと思ったことはないだろうか?
スーツや靴に腕時計、若いときならバイクやテニスラケット。
今はPCのカスタマイズ。
私はこういったモノに、自分だけの、自分らしい、一品を欲しがった。
ほんの少しだけでもいいから他人と差別化された良いモノ、使いやすいモノが欲しいと思った。
だから、「ドール」への関心や知識などなくても、この作品内で触れられているドールの製作、ドールの購入、ドールの飾り付けに携わる方々の気持ちが判る。
可愛いから欲しい。
でも自分の好みにカスタマイズしたドールへの愛着はひとしおだろう。
製作側も、自分なりの拘りをドールに反映し、そしてそのドールを喜んで買って下さるお客様がいる幸せを味わえる。
この作品には、モノに関わる欲求を満たす描写がところ狭しと描かれている。
作者さんが丁寧に選んだ柔らかい語彙で作られた世界。
時には茶目っ気のある描写で、読者を笑いを誘う。
こうした描写に作者さんの人柄を感じられて、読んでる私も微笑ましい気持ちになる。
この作品は冬村さんだから描ける世界を持っていると感じた。
現在、第一章をほぼ読み終えたところだが、最後まで楽しめそうで嬉しい。
ドールに関心がなくてもモノに拘りを持ったことがある方には是非読んで欲しい作品です。
人間、買わなかった物に対しては酷く後悔しますが、買ってしまった物に対しては不思議と後悔しません。たとえそれがどんな高価なものであっても……
さて、本作は男性には少々取っ付くにくいかのように思われがちですが、じつはそんなことはありません。
普通に読めます。そして面白い。気がつけば世界観に引きずり込まれていく。
特にドレスの描写がすばらしく、まるで実物を手にとっているかのような錯覚までも覚えるほど。
これはもう、愛ですね。好きな物を詳しく書いちゃう。愛なら仕方ない。
ほとんどの登場人物が愛用のドールを抱えており、そのドールにも名前があるので、文章だけだと多少混乱してしまうかもしれません。
しかし、そこに重要な作品の肝があり、決して省略できない要素です。一度読んで終わりではなく、何度も読み返してみるのが良いでしょう。
しかも、それが飽きない。伏線が随所に散りばめられ、一つ一つが一見無関係に思えても、最終的に一つの大きな謎に繋がっていく。
アイツの正体がアレとは、さすがに誰も予想できないでしょう。しかも、そこに説得力というものがある。行動の理由に納得がいくのです。
そうか、だったら仕方ないな、とつい思ってしまうのです。その是非はともかく。
そしてヒロインが強い。決して守られるだけのお姫様ではない、自立した女性として描かれています。
それにしても強い。ヒロイン無しではお店の経営がヤバイ程度には強い。寿退社は認められない。もっとも、本人は望まないでしょうけどね。
乙女向けとありますが、乙女でなくても何らかの趣味に打ち込んでいる方は、特に楽しめます。
と、思って一歩踏み入れたら、最終話を読むまで帰ってこれなくなりました。
その世界の住人は、ドールのように可愛い少女と、気のいい仲間と、ちょっぴり人間とは違った妖精や不思議な人たち。(それと、若干名の男…)
絵のような美しい街や自然を舞台に、甘いだけじゃない、スリルやアクションも有る日々が綴られます。
その描写が細密で繊細。特にドールやドールドレス、紅茶やお菓子に関しては特にです。(正直、おっさんの私には意味がわからない単語も多いけど、文字の雰囲気だけでもかわいい…)
そして、いつまでも続くかと思われた楽しい仲間との日々にも終わりは訪れます……。
その時、タグの、「乙女向き」はこのことなのかもって思いました。
強いです。現代の夢見る乙女は強いんです!(男が頼りないからか…)
そんなわけで、乙女向けってなってますけど、男が読んでも面白い作品ですので、乙女の夢の世界へ行ってらっしゃいませ。
多くのものを得られたお話でした。
ドールはよくわからない?
と、お思いになるかもしれませんがお気になさらずに。気軽にどうぞ。
この世界に訪れた方は可愛い娘さんがお出迎え致します。
その少女を中心に繰り広げられる温かな物語が貴方をきっと素敵な体験へと導いてくれるでしょう。
登場人物それぞれがドールに抱いた気持ちが時に切なく、時に温かく、物語の鍵となって人と人とを繋いでいきます。
読了後の幸福感は保証いたします。
さあ、お店の扉を開いてください。
新しい剣と魔法の世界へとご案内いたしましょう。
心に温かさをお求めなら、ドールブティック茉莉花堂へ。
ただしお財布の紐にはご注意を……
ドールブティック茉莉花堂は、ドールのためのドレスや服や帽子やアクセサリー、乙女心をくすぐる魅力的な品々を取り揃えています。訪れるお客様のなかには、自分のドールのために、専用のドレスを依頼する方もおられます。
これは1人の少女が、ドールのためのドレスを造る物語。
そのお仕事は、ドールの寸法を測って、上等な布を仕立てて、綺麗にお裁縫をするだけではありません。
ドールには持ち主がいます。ドールにも、そして持ち主にも、それなりの歴史が、人生があるものです。オーダーメイドのドレスを依頼できるほどの人物なら、尚更のことです。
ドールに、そして持ち主に寄り添って、そこに刻まれた歴史を汲み取って、茉莉花堂のドールドレスは、その歴史に加わるに相応しいものが造り上げられるのです。
ドールを通じて描かれるのは、人と人との物語。
華やかで、甘くて、可愛らしいものに溢れているけれど、決してそれだけではありません。
読み終えた後には、暖かい気持ちに包まれることでしょう。章の途中で読むのをやめることは、きっとできないはずです。
最後まで、楽しく読ませていただきました。完結お疲れさまでした。
あ、僕はゼローアが好きです。
ふわふわした甘いだけの砂糖菓子ではありません。
れっきとしたお仕事ものでした。
ドールの可愛さ美しさはもちろんですが、そうでない部分もきっちりと描かれています。
主人公のメルことメルレーテ嬢は新米ドールドレス職人。
まだまだ未熟ながらも、お客様やそのドールひとりひとりのことを考えて、一生懸命それぞれに合ったドレスを作っていく。
お客様はみんなそれぞれに事情を抱えていて、つらく悲しい過去を癒すためにドールを大切にしている。そのドールのために、メルはドレスを作る。
レビューではたくさん「可愛くてメルヘンで女の子のための世界」と書かれています。
もちろんその面も素敵です。ドレスの描写は細かく書き込まれているし、恋模様も甘く苦しく溶けてしまいそうになるし、ドールとは直接関係のない町や貴族の邸宅や湖、はてやケーキやお茶の様子まで綺麗でお洒落。
でも私が推したいのはそこではないんです。
この作品はお仕事ものなんです。
メルは本当にドレス作りが大好き。その大好きなドレス作りを通じてお客様を幸せにしようとしている。ドレス作りやお客様と向き合う姿勢は真摯そのもので、ものづくりとは何をすることか、顧客を大切にするとはどういうことか、仕事と趣味の違い、仕事と恋の両立、そういうところも丹念に描き出されています。
メルはドールやドールドレスを売るために自ら看板娘としてドールドレスのようなドレスを纏っています。でも本当は、その長く美しい髪も「作業の邪魔」だと考えている。美容の大敵なのに作業は寝ないでやってしまう。しかも彼女はもともとは騎士志望で、今でも十二歳の女の子を抱っこして運べるほどの力持ち。ドールが好きでドールのような見た目だけど、ドールではないんですね。彼女はあくまでドールドレス職人なんです。
メルの師匠のシャイト先生も魅力的。彼はまさに職人。人間とコミュニケーションをとるより、貴族の邸宅でお客さんらしく振る舞うより、作業のことや布製品のことが気になってしまう。ドレス作り以外のことはあんまりちゃんとできない(失礼、すみません……)。でもドレス作りの腕は一流です。古き良き職人の姿。この作品の魅力はそういうものづくりの姿勢についても考えさせられるところです。
そこらじゅうで花の咲いていそうな、どこかフランス的なイメージのある街並みのお店なのに、こういうところはなんだかドイツ的。がっつりとした、職人の物語なのです。
とは言えやっぱり綺麗で可愛いドールドレスの描写が秀逸なので、ビジュアル作品にするとしたら、女の子向けアニメだよなあ、と思うのです。もちろんお父さんお母さんが一緒に見ても面白いストーリー性! 春の章、夏の章、ともにすっきりとまとまっていてそれぞれ楽しめます。
優しく甘くほろりもあるよなこの世界、皆さんにも堪能してほしいです。
余談ですが、なんだかんだ言ってベルグラード男爵が一番かっこいいですよね。
剣を使えなくなった騎士のヒロインが、ドールドレスの世界に入っていく。そのうち、彼女の夢はドールへと傾いていく。
最近、ここまでメルヘンなものを読んでなかったのですが、いざ読んでみるとスッと入ってくるのは、作者様の文章力のなせる技だと思います。
衣装や小物の描写が特に細かい。ドールドレスをまったく知らない自分がその服装をイメージできるのは、まさにこの描写のおかげです。
第1章を読みましたが、「はうう、可愛い~」とニマニマ読んでました。
可愛いものを、文章でも可愛く書ける。それがどれだけ難しいことか。
読んでいて心がほっこりする、とても素敵なお話でした!
ドールブティック。その名のとおり、人形のドレスを作る専門店。お店の売り子であり、縫い子として目下修行中のメルが、この物語の主人公です。
お店を訪れるのは、大切なドール――分身を抱きしめた人々。分身のための可憐なドレスやインテリアを求めています。
吟味に吟味を重ねるはずだったのに、笑顔満開のメルによって、お財布の紐はするする緩む解ける。家計に大打撃。
その一方で。
メルの作るドールドレスは、それを纏ったドールを通して誰かの心を癒し、温めていきます。
もちろん、恋い焦がれる相手――白薔薇の貴公子様の心も。
沢山のドールに囲まれて暮らしている貴公子様――この人の心を真に温められる日は、まだまだ遠いのかしら?
そんな、実は身分差な恋の行方とか。
メルが一人前の職人と認められる日が来るのか、とか。
また、世間を脅かす不穏な物品とか謎の組織?の存在とか。
可愛らしいだけではなくってよ!
フリルとレースに縁どられたドキドキハラハラを、一緒に追いかけてみませんか?
ドールがテーマのこの作品、何より引き込まれるのはその描写の細やかさです。
作り込まれた世界観を、目の前にあるように語られるので、まるでそこを良く知っているような気になります。
作り上げられた料理の描写も、或いは人物像も、そしてそして、何よりも華やかなりしドール達!
彩り豊かな、色が薫ってくるような文章。もしかして、人形なんて興味ないよ、なんて強がっているあなたも是非一度読んで、この世界に旅立ってみてはいかがでしょうか。
一度でもそのお店のドアをくぐったなら、ちらりとでも、そのお店のショーウインドウを覗いたなら。
きっと、強がる余裕はありませんよ?
剣を奪われた騎士見習いの少女メルが飛び込んだのは、未知なるドールドレスの世界。
そこでは何もかもが小さく誂えられ、誰かに『お迎え』されるドールが、いつかのその日を待っている……。
この設定だけでわくわくできて、さらに本編では胸がときめきっぱなしでした!
一言で言うなら、かわいいの洪水。
ブティックに並ぶお衣装や小物も、メルが生み出すコーディネートも、色形にとどまらずディテールまで詳細に描写されているので、頭にデザインがはっきり浮かぶんです。
さらに個性豊かなキャラクターが紡ぐストーリーは優しさに満ちていて、気づけばメルの『ドールを通して誰かを幸せにしたい』夢を応援しながら読んでいました。
レースにフリル、ドールと魔法と多種多様な種族が織りなす、ミルフィーユのようにやさしいお伽噺をぜひ味わって。