好きなことを通じて、誰かを幸せにできる日が、来ますように。

 ふわふわした甘いだけの砂糖菓子ではありません。
 れっきとしたお仕事ものでした。
 ドールの可愛さ美しさはもちろんですが、そうでない部分もきっちりと描かれています。

 主人公のメルことメルレーテ嬢は新米ドールドレス職人。
 まだまだ未熟ながらも、お客様やそのドールひとりひとりのことを考えて、一生懸命それぞれに合ったドレスを作っていく。
 お客様はみんなそれぞれに事情を抱えていて、つらく悲しい過去を癒すためにドールを大切にしている。そのドールのために、メルはドレスを作る。

 レビューではたくさん「可愛くてメルヘンで女の子のための世界」と書かれています。
 もちろんその面も素敵です。ドレスの描写は細かく書き込まれているし、恋模様も甘く苦しく溶けてしまいそうになるし、ドールとは直接関係のない町や貴族の邸宅や湖、はてやケーキやお茶の様子まで綺麗でお洒落。
 でも私が推したいのはそこではないんです。
 この作品はお仕事ものなんです。
 メルは本当にドレス作りが大好き。その大好きなドレス作りを通じてお客様を幸せにしようとしている。ドレス作りやお客様と向き合う姿勢は真摯そのもので、ものづくりとは何をすることか、顧客を大切にするとはどういうことか、仕事と趣味の違い、仕事と恋の両立、そういうところも丹念に描き出されています。
 メルはドールやドールドレスを売るために自ら看板娘としてドールドレスのようなドレスを纏っています。でも本当は、その長く美しい髪も「作業の邪魔」だと考えている。美容の大敵なのに作業は寝ないでやってしまう。しかも彼女はもともとは騎士志望で、今でも十二歳の女の子を抱っこして運べるほどの力持ち。ドールが好きでドールのような見た目だけど、ドールではないんですね。彼女はあくまでドールドレス職人なんです。
 メルの師匠のシャイト先生も魅力的。彼はまさに職人。人間とコミュニケーションをとるより、貴族の邸宅でお客さんらしく振る舞うより、作業のことや布製品のことが気になってしまう。ドレス作り以外のことはあんまりちゃんとできない(失礼、すみません……)。でもドレス作りの腕は一流です。古き良き職人の姿。この作品の魅力はそういうものづくりの姿勢についても考えさせられるところです。
 そこらじゅうで花の咲いていそうな、どこかフランス的なイメージのある街並みのお店なのに、こういうところはなんだかドイツ的。がっつりとした、職人の物語なのです。

 とは言えやっぱり綺麗で可愛いドールドレスの描写が秀逸なので、ビジュアル作品にするとしたら、女の子向けアニメだよなあ、と思うのです。もちろんお父さんお母さんが一緒に見ても面白いストーリー性! 春の章、夏の章、ともにすっきりとまとまっていてそれぞれ楽しめます。
 優しく甘くほろりもあるよなこの世界、皆さんにも堪能してほしいです。

 余談ですが、なんだかんだ言ってベルグラード男爵が一番かっこいいですよね。

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